「森山未來さんは素晴らしい」撮影したカザフスタン人監督が語る舞台裏
ananweb / 2020年1月17日 19時20分
映画の醍醐味のひとつといえば、気軽に行くことができない場所や普段なかなか知ることができない国の文化に触れられること。そこで今回オススメする映画は、カザフスタンを舞台にした注目作です。それは……。
■ 珠玉の物語『オルジャスの白い馬』
【映画、ときどき私】 vol. 286
広大な草原にある小さな家で家族と暮らす少年オルジャス。ところがある日、市場に行ったはずの馬飼いの父親が戻らず、母親は警察に呼び出されてしまう。そんな不穏な空気が漂うなか、一家は日常が一変する出来事に見舞われる。
そこへ現れたのは、無口で不器用な男カイラート。いつしかオルジャスと心を通わせることとなるが、カイラートは語ることのできない真実を胸に抱えていたのだった……。
日本とカザフスタンの合作によって生み出された本作。カザフスタン人男性のカイラートを演じているのは、実力派俳優の森山未來さんですが、海外作品で初主演を務めるだけでなく、全編カザフ語での演技にも挑戦しています。そこで、本作の現場について誰よりも知るこちらの方にお話をうかがってきました。
■ エルラン・ヌルムハンベトフ監督!
カザフスタン側の監督を務めたのは、国際的にも評価を得ているエルラン監督。今回は、日本の映画作りとの違いで感じた思いや森山さんの魅力などについて、語っていただきました。
―本作では日本人の竹葉リサ監督との共同監督となりましたが、いかがでしたか?
監督
日本人の監督とは以前も一緒に作品を作ったことがあり、そのときに成功した経験があったので、私にとっては特に難しいことではありませんでした。ただ、女性監督というのは初めて。しかも、竹葉監督は私のスタイルとはまったく違うので、そういう意味では「どうなるんだろう?」と思うことはありました。
とはいえ、それは不安であると同時に、うまく合えば私にはない視点やいい部分が引き出されるのではないかと、興味深いところでもあったと思います。
―では、違うがゆえに生まれた化学反応はありましたか?
監督
私が一番驚いたことは、竹葉監督がきちんと絵コンテを持ってきたこと。なぜなら、カザフスタンでは絵コンテを作らずにだいたいの感じで撮っていくことが多いからです。なので、私にとっては、絵コンテを作ってから撮影に入るというやり方が非常に新鮮な感じがしました。
ただ、今回みたいに変更することが多い現場では、正直言って良い面も悪い面もあるとは思います。そんななかでも、竹葉監督はそれに合わせて一生懸命やってくれていたので、私もなるべく尊重するようには意識していました。
―監督や作品のタイプによっても異なると思いますが、カザフスタンでは絵コンテを作らないというのが主流ということですか?
監督
カザフスタンでも大きなセットを作ったりするような場合は、美術監督が作りますが、演出のために作るようなことはしませんね。
とはいえ、最近の若い監督やアメリカで勉強してきた人で作る監督もたまにいます。ただ、あまり絵コンテにこだわって「最初からこれしか撮らない」と決めつけてしまうと、たとえば撮影中に突然風が吹いて景色が一変してしまったとき、対応できなくなることもありますから。なので、私としては今後も絵コンテを作って映画を撮ることはないでしょうね。
■ 森山さんのプロフェッショナルな姿勢に助けられた
―なるほど。では、主演を務めた森山さんを起用された理由を教えてください。
監督
日本との共同制作ということで、日本の役者をキャスティングすることにはなっていましたが、そのなかで森山さんは非常にいい演技をされている方だという印象を受けたからです。
実際にご一緒してみてすごいと思ったのは、とにかく研究熱心なところ。出演すると決まってからは、日本とは違うカザフスタン流の馬の乗り方も、スタントマンとビデオでやりとりしながらマスターしてくれましたし、全編カザフ語のセリフも一生懸命に勉強してくださいました。惜しみない努力をされる本当に素晴らしい役者さんですね。
―撮影中の森山さんで印象に残っていることは?
監督
今回は、スケジュールの関係上、短期間で撮らなければなりませんでしたが、現場に来るまでに完璧に仕上げてきてくださったので、NGを出さない彼のプロフェッショナルな姿勢には助けられました。
―森山さんは、慣れないカザフスタンの現場で驚かれているようなことはなかったですか?
監督
私はあまりリハーサルをせずに本番を始めるタイプで、場所や環境もつねに変えながら撮るというスタイル。なので、もしかしたら森山さんにとってはいつもと異なる進行で、大変だったかもしれないですね。
それでも、森山さんは勘の鋭い方なので、すぐに「こういう現場なんだな」と理解して溶け込んでくださったので、その適応能力も素晴らしいと思いました。そのことについて森山さんにじっくり聞く機会がなかったので、彼がどういった印象を持っていたのかはわかりませんが、細かい所作やどう演じるかということについては提案されることもあったので、そこに関しては森山さんの意見を聞きながら進めたつもりです。
■ 日本人とカザフスタン人は近い民族だと感じている
―とはいえ、日本人がカザフスタン人の役を演じることに不安はありませんでしたか?
監督
当然のことながら、違うナショナリティの人が演じることに対する不安というのは最後までずっとありましたし、映像になったいまでも、その思いは残っています。森山さん自身も同じ不安はあったと思いますが、それを超えるほどの努力をしていただき、100%の力を出していただいたので、私はその姿に感激しました。
もしかしたらカザフスタンの人が見たときにはそういう思いが付きまとうかもしれませんが、映画として見たとき、森山さんの演技は間違いなく素晴らしいものなので、そこに関しては自信を持っています。
―確かに森山さんの演技はそれを超えるものがありましたし、思わず森山さんが日本人であることを忘れてしまうほどでした。ちなみに、オルジャス役のマディくんと森山さんはかなり似ているように感じましたが、もともと日本人とカザフスタン人は近いところがあるのでしょうか?
監督
森山さんの演技力が高いおかげもありますが、そもそもカザフスタン人と日本人は似た民族だと思っています。住んでいる環境が異なるので違いが生じていますが、日本人がカザフスタン人の服装をして、現地の自然と文化のなかに入っていったら、カザフスタン人になりきることができるはずです。私は、これまでにいろんなアジアの国に行っていますが、日本はほかの国よりも自分たちに近い民族だなといつも感じているほどですから。
■ 映画作りの根底にある思いとは?
―ちなみに、竹葉監督によると、さまざまなトラブルが起きてもカザフスタン人スタッフのみなさんは落ち着いていて、監督も常に前向きでいらっしゃったそうですが、それはカザフスタンの国民性によるものでしょうか?
監督
考え方の違いともいえると思いますが、たとえばいまが悪くても3分後はどうなるかわからないですし、逆にいまが良くても5分後はわからないですよね。おそらくそれは、日本の神道に近い天山山脈の宗教観が私の根底にあることが起因しているかもしれません。
「いま辛いことがあったとしても、そのなかで何とか生きていける」という考えなので、たとえダメだと言われても、それを受け入れてこそ、自分の作品ができるのだと信じています。私は完全にコントロールできない子どもや動物を撮ることが多いですが、それは自分が予想できないものが撮れるから。そんなふうにいろんなものが入ってきて初めて、本当の映画が撮れるのだと思っています。
―それこそが監督にとっては、映画作りの原動力でもあるのかもしませんね。
監督
日本では考えられないと思いますが、カザフスタンではオートバイでさえちゃんと動いてくれるとは限りません。なぜなら、ソ連製のオートバイって本当にむちゃくちゃなんですよ(笑)。
でも、逆にそれが現実なので、そういったことも映画に取り込んでいったほうがいいと私は考えています。なので、カザフスタンで仕事をする際に、「これはこうしなければいけない」と決めつけることは難しいことなんですよね。
私の口癖に「モジェットブイチ」というのがありますが、それは英語でいう「Maybe」にポジティブな意味を込めた言葉。つまり、「自分の予想とは違ったけど、逆におもしろいものが撮れてるかもね」という気持ちを表しています。特に、私は低予算の映画ばかり撮っているので、ポジティブでいることも大切な要素なんですよ。
■ いままでとは違うアプローチで表現できた
―それでは最後に、観客へ向けてメッセージをお願いします。
監督
今回は、森山さんや竹葉監督に関わっていただいたことで、いつもの自分の作品とは違うアプローチでカザフスタンという国を表現できたと思っています。なので、日本のみなさんには、森山さんの視点を通して普段感じることのできない世界を味わっていただきたいですし、日本とカザフスタンの近さもわかっていただけたらうれしいです。理屈抜きにして楽しめる作品なので、ぜひ音楽を聴くみたいにご覧ください。
■ カザフスタンの魅力を肌で感じる!
日本では決して見ることのできない果てしない大地と、自然本来が生み出す景色を体感できる本作。そのなかで紡がれる父と子の絆、そして少年の成長する姿に、晴れ渡る空に差し込む太陽のような温かさを感じるヒューマンドラマです。
■ 心に触れる予告編はこちら!
■ 作品情報
『オルジャスの白い馬』
1月18日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©『オルジャスの白い馬』製作委員会
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