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永瀬正敏が「窪田正孝くんは本当に完璧だった」と称賛する理由

ananweb / 2020年2月6日 19時10分

永瀬正敏が「窪田正孝くんは本当に完璧だった」と称賛する理由

漫画原作の映画は数多くありますが、そのなかでもユニークで、オリジナリティあふれる実写作品となり、注目を集めているのがまもなく公開の映画『ファンシー』。そこで、その魅力について、主演を務めたこちらの方にお話をうかがってきました。
写真・角戸菜摘(永瀬正敏)

■ 名優・永瀬正敏さん!


【映画、ときどき私】 vol. 291

これまでに数々の作品に出演し、いまや映画界に欠かせない存在でもある永瀬さん。劇中では、彫師で郵便局員というミステリアスな男を演じています。そこで今回は、本作の舞台裏から映画に対する思いなどについて、語っていただきました。

―15年以上前に廣田正興監督とした約束がきっかけで本作へ出演されたそうですが、どのような約束だったのでしょうか?


永瀬さん
 当時僕が出演していた作品で、彼が助監督やメイキングの撮影をしていて、そのときに『ファンシー』の原作を見せてもらい、「僕が商業映画デビューするときはこれを撮りたいので、そのときは出演してもらえませんか?」と言われました。そこで僕は、「いいよ」と軽く答えてしまったんですよね(笑)。

―その当時から、この作品を映画化するという監督の熱意があったんですね。


永瀬さん
 そうなんですよ。何よりも彼がブレずに、15年以上もこの作品の映画化を諦めなかった気持ちが素晴らしいなと思いました。これまでにいろいろな選択肢や誘惑もあったはずですが、初志貫徹でここまできた監督だからこそ、こうしてみんなが集まったんじゃないでしょうか。やっぱり思いというのは、伝わりますから。だから、僕も約束を守れてよかったです。

―実際に、原作を最初に読まれたときはどのような印象でしたか?


永瀬さん
 まずは驚きました。いまの時代は、CGやアニメーションで何でもできてしまいますが、特に気になったのは、窪田正孝くんが今回演じた「詩人として登場するペンギン」はどうするの? ということ。でも、最初に監督と話したときから、ペンギンは擬人化すると聞いていたので、脚本もそのイメージを持って読んでいたんです。とはいえ、そのほかにも新たに付け加えられたシーンがたくさんあったので、本当に撮れるのか正直言って心配はありました。

ただ、それも監督の思いがキャスト、スタッフ、そしてロケ地の方々にも伝わり、みんなが応援してくれたので完成できたんだと思います。

■ 典型的には演じたくないと思った

―やはり人の力は大きいですね。今回、永瀬さんが演じられたのは、彫師で郵便局員で一日中サングラスをかける男。特殊なキャラクターだったと思いますが、役作りで意識したのはどのようなことですか?


永瀬さん
 監督が僕の役に対する一番のこだわりは、サングラス。衣装合わせのときに、何個かけたかなと思うくらいでしたから。目が見え過ぎてもダメだし、見えなさ過ぎてもダメ。ちょうどいいのを見つけるまでかなり時間がかかりました。

僕自身が演じるうえで意識したのは、原作者である山本直樹さんの持つ“引きの美学”。山本さんの作品は、どれも線ひとつでエロスやタナトスを表されていると感じています。なので、僕もこの役を典型的には演じたくないと思い、いかにも彫師っぽいとならないように気をつけて現場に立っていました。

―なるほど。では、ペンギンを演じられた窪田正孝さんとご一緒されてみて、いかがでしたか?


永瀬さん
 窪田くんは自分の引き出しのなかにいろいろなペンギン像を持って、初日を迎えていたんだと思います。あとは、現場でいろいろなことをキャッチしながら演じてましたが、何と言ってもペンギンですからね。違う職業の役とかではなく、鳥類ですよ(笑)!
 
もはや芝居を超えてしまっていますが、監督の思惑通りだったんじゃないかな。それこそ、僕と一緒で、やりすぎてもわざとらしいし、やらなさすぎてもそう見えないので、本当に見事だったと思いますね。

―現場で窪田さんから、役に関して相談されたことはなかったですか?


永瀬さん
 僕の場合、現場では実際にキャッチボールをしながらというのが多いので、窪田くんとも芝居に関しては特に話してはないですね。「ペンギンは難しいよね」くらいは言いましたが、彼は完璧でしたよ。世界中探してもペンギン役をできるのは窪田くんしかいないと思っています。これからもペンギンのオファーが増えるといいんですけどね……(笑)。

―(笑)。また、映画初出演にして、ヒロイン役を務められた小西桜子さんと共演されてみて、どのような印象を受けましたか?


永瀬さん
 まずは、小西さんに謝りたいですね。

―何を謝りたいのでしょうか。


永瀬さん
 「初めてのラブシーンが僕でごめんなさい」と。窪田くんみたいなイケメンで、もっと若い俳優さんだったらよかったでしょうに……。

■ 永瀬さんにとってファンシーなものとは?

―むしろ光栄だったと思いますが、永瀬さんを相手に初めてとは思えない堂々とした姿が印象的でした。


永瀬さん
 本当に、小西さんも役にぴったりで、まるで漫画から飛び出してきたみたいな感じがしました。素晴らしかったですね。

ちなみに、今回僕のお父さん役は宇崎竜童さんでしたが、実は僕の初めてラブシーンの相手は、宇崎さんの奥さまである阿木燿子さんだったことをいま思い出しました(笑)。当時は、まだ16歳くらいで何もわからなかったので、すべてリードしていただいたんですが、演出家からは「まるで格闘技のようなラブシーンだったね」と言われました……。「宇崎さん、すみません」という感じです(笑)。

―(笑)。逆の立場に立たれてみて、淡い記憶もよみがえってきたんですね。では、本作のタイトルにかけておうかがいしますが、「ファンシー」という言葉には、空想や想像、何かに魅力を感じるといった意味があります。永瀬さんがファンシーと聞いて思い浮かぶものは?


永瀬さん
 映画自体がファンシーなんじゃないかな。たとえば、実在の人物を描いた映画であっても、演じている人は違うので、すでに空想の世界ですけど、観客のみなさんが真っ暗な映画館のなかで、知らない人たちと一緒に空間と映画を体感しているのもファンシーなことですよね。

しかも、映画は時代も国境も超えているので、いろいろな意味でファンシーだなと思います。それはこれからも無くなってほしくない、というのが僕の願いです。

―そういう思いが原動力にもなっていると思いますが、これまでに国内外の作品に100本以上出演された永瀬さんが作品選びで大切にしていることを教えてください。


永瀬さん
 知り合いの監督さんに声を掛けてもらって、何も読まずに受けるときもありますが、基本は脚本ですね。いま振り返ると、いくらおもしろい作品でも脚本を読んでいる途中で手を止めたものは受けていない気がします。

つまり、読んでいるときに飼っている猫のことが気になったり、飲み物を取りに行ったりすることなく、最後まで一気に読んでしまうような作品をやらせていただいているということです。

自分の演じる役がいくらおもしろくても、映画全体として見たときに素晴らしい脚本かどうかということは、基準として考えているところだと思います。

■ 次が一番やりたかった役だと思って現場に立っている

―数多くの作品でさまざまな役を演じられた永瀬さんでも、演じてみたいけど、まだ出会えていない役どころはありますか?


永瀬さん
 まだ演じていない役も、やりたいこともいっぱいありますが、あまりそこは考えないようにしています。僕らの職業は受け身であって、声を掛けてもらわないと出会えないですから。なので、「次の作品が一番やりたかったものなんだ」と思っていつも現場に立っています。あと、今後は自分で企画とかもしたいなという思いはありますよ。

―もし、いま企画するとしたら興味のある題材は何ですか?


永瀬さん
 実は内緒ですが、3つくらいあります。まだ詳しくは教えられませんが、いま考えているもののひとつは、国籍に関係ないプロジェクト。実現できるかはわかりませんが、アジアやヨーロッパのキャストやスタッフと一緒にやろうと思っている企画はあります。これ以上は、言えないですが……。

―貴重なお話をありがとうございます! ちなみに、いま永瀬さんが注目している俳優や監督はいますか?


永瀬さん
 本当にたくさんいますよ! 監督だとフランスの女性監督でクレール・ドニさんとか、アイスランドのベネディクト・エルリングソン監督とか、台湾のツァイ・ミンリャン監督や本当にたくさん。あとは、まだ学生時代の卒業作品『オーファンズ・ブルース』しか観ていませんが、工藤梨穂監督も素晴らしいので、次に期待しているところです。

―映画に対する愛情の深さを感じますが、デビューからの37年間で役者を辞めたいと思ったことはないですか?


永瀬さん
 ないですね。というのも、映画には裏切られたことがないですから。観客としても役者としても、ずっと映画のことは信じていました。もちろん、ご飯が食べられない時期もありましたし、5年くらい映画に出られない時期もありましたが、それでも何か信じていられたんです。

仕事がなくて暇なときには、3本立てで1日中映画館にいたりもしました。どの仕事でも同じだと思いますが、人並みに危機や我慢しないといけないこともたくさんありましたが、僕はほかのことはできないので。

■ どんなときも映画のことだけは信じていた

―いま振り返ってみて、一番の危機とは何でしたか?


永瀬さん
 デビューしたあと映画に2本出演しましたが、そのあとしばらく映画に出られなかったり、せっかく出てもお蔵入りになってしまったりしたときが危機といえば危機でしたね。でも、その間にいろんなテレビドラマに出演させていただいて、そこで学ぶことや出会いもたくさんあったので、いま思うと危機ではないかもしれません。

そういう意味では、撮影中に顔を蜂に刺されて撮影がストップしそうになったことのほうが危機だったかな(笑)。多分、僕は出会いに恵まれているので、何も自慢できることはないですが、人との出会いだけが唯一自慢できること。だから、苦しいことがあっても、いい出会いに救われているんだと思います。

―素敵なお話ですね。


永瀬さん
 ただ、映画業界のみなさんはアバウト過ぎるので困ることはありますね。というのも、僕は燃費の悪い役者なので、映画が1本決まったら同じ時期にほかの仕事は入れないんですが、「来年の春に撮りますね」と言われて予定していたら無くなってスケジュールが空いてしまったり。「どうしてくれるんだ!」というような危機はいっぱいありますが、それもまた楽しもうと思っています。

―では、オフのときはどのように過ごされていますか?


永瀬さん
 休みの日に特別何かをするわけではないですし、体とかも全然鍛えてないので、完全にほうけてますね(笑)。ひたすら猫と遊んだりして、自分を甘やかしています。あとは、友達とご飯を食べに行ったりもしますし、映画も観ますけど、なるべく仕事として考えないようにはしているつもりです。

美術館や写真展も同じですが、仕事として見てしまうと楽しめなくなってしまうので、極力何も考えない状態でいたいなと。ただ、僕たち役者は、何もないところから役を作っていくので、人や作品に対して興味をなくさないようにだけは心がけています。

―それでは最後に、これから作品を見る方に向けてメッセージをお願いします!


永瀬さん
 まずは監督の思いをこの映画から受け取っていただけたら、僕たちとしては最高だと思っています。こういう世界もあるんだなというのを発見してほしいです。

これは僕がずっと言っていることでもありますが、映画というのは作っただけでは完成ではなく、劇場のいすに座ってもらって、映画を観てもらって初めて観客のなかで完結するものだと思っています。ぜひ、この作品もみなさんにいっぱい育てていただきたいです。

■ インタビューを終えてみて……。

いくつになっても、飾らない自然体のカッコよさが魅力的な永瀬さん。映画に対する熱い思いがひしひしと伝わってきて、お話をうかがっているだけで胸が熱くなるような取材でした。本作でも、永瀬さんにしか出せない存在感と佇まい、そしてあふれるような色気をぜひ堪能してください。

■ 性愛と暴力の世界へ誘われる!

ミステリアスで粗暴な男とロマンティストのペンギン、そして夢見る少女が繰り広げる奇妙な三角関係に、気がつけば誰もが現実と幻想の狭間へと引き込まれてしまう本作。ファンシーで、独創的な世界観に思いっきり溺れてみては?

■ ストーリー

とある地方の温泉街で、彫師稼業を営みつつ、昼間は郵便局員として働いている鷹巣明。一日中サングラスをかけている謎めいた鷹巣は、ペンギンと呼ばれる人気ポエム作家となぜかウマが合い、毎日雑談をしながら過ごしていた。

ところがある日、ペンギンの熱狂的なファンである月夜の星という女子が、ペンギンの妻になりたいと押しかけてくる。地元ではヤクザの抗争が勃発するなか、いつしか3人は三角関係へと陥ることに……。

■ 心を奪われる予告編はこちら!



■ 作品情報

『ファンシー』
2月7日(金) テアトル新宿ほか全国順次公開
配給:日本出版販売
©2019「ファンシー」製作委員会

ヘアメイク:勇見勝彦(THYMON Inc.)
スタイリスト:渡辺康裕

コート¥365,000/シャツ¥92,000/パンツ¥47,000(全てYOHJI YAMAMOTO/ヨウジヤマモト プレスルーム tel 03-5463-1500)

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