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「愛に人種や性的指向は関係ない」国内に賛否を巻き起こした話題作

ananweb / 2020年2月20日 20時20分

「愛に人種や性的指向は関係ない」国内に賛否を巻き起こした話題作

映画には国境はないだけに、さまざまな国の作品に触れたいところですが、今回ご紹介するのはヨーロッパとアジアの中間に位置する国ジョージアが舞台の映画『ダンサー そして私たちは踊った』。国立舞踊団のダンサーとして懸命にトレーニングを積んでいた主人公が、一人の青年と出会うことで抑えられない欲望と厳しい現実に向き合う姿が描かれています。そこで、主演を務めたこちらの方にお話をうかがってきました。
写真・黒川ひろみ(レヴァン・ゲルバヒアニ)

■ レヴァン・ゲルバヒアニさん!


【映画、ときどき私】 vol. 293

15歳からクラシックバレエを習い始め、現在ジョージアでコンテンポラリーダンサーとして活躍しているレヴァンさん。劇中で見せるダンスシーンはもちろん、初挑戦となった演技でも高く評価されています。すでに海外のファッション誌などでも注目を集め始めているレヴァンさんに、本作を通して感じた思いやジョージアの驚くべき現状についても教えていただきました。

―Instagramで監督にスカウトされたのち、本作に出演するにあたって、最初はオファーを5回も断ったそうですが、最終的な決め手は何でしたか?
 

レヴァンさん
 まず大きかったのは、友人と家族が応援してくれていたこと。そのうえで、この作品に出演することが、自分にとってまたとない機会だと理解することができたからです。

―周囲からは「この映画に出たら絶対に人生が変わる」とも言われていたそうですが、実際に出演されてみて変わったことは?


レヴァンさん
 実は、僕は演劇専攻の大学に落ちてしまったという過去があるのですが、ジョージアでは、大学を卒業することが俳優として活動するのに有利だという側面があるんです。

そういった事情もあり、昔から俳優になりたいという気持ちはずっとあったものの、自分にはできないと思っていました。でも、この作品に出たことによって、いまでは海外からもオファーをもらうようになったので、僕のキャリアにおいては大きな変化が起きたと感じています。

■ ダンスは僕の精神であり魂でもある

―初めての演技とは思えないほどでしたが、ご自分の体を使って感情を表現するダンスで培われた技術が生かされた部分は大きかったですか? 


レヴァンさん
 そうですね。感情を表現するという意味では近いものもあるので、まったく違うところに飛び込むという意識はありませんでした。それに、子どものころには児童演劇をしていたこともあり、基本的な感覚としてはわかっていた部分もあったので、思ったほど大変ではなかったのかもしれません。

とはいえ、俳優としてのトレーニングを積んできたわけではないので、演技における技術がなく、感情を言葉で表現するのは難しかったです。

―劇中では、「ジョージアの舞踊は国の精神そのもの」と言われていますが、ご自身にとってダンスはどんな存在ですか?


レヴァンさん
 僕にとってダンスは、自己表現に適したツールであると同時に、人と繋がるための道具。つまり、僕の精神であり、魂でもあります。

体を動かしていることによって、外に向けた表現のようにも見えますが、自分との対話という意味では、すごく内省的。自分の魂と向き合い、自分自身の内面と繋がるためにも、重要な手段だと感じています。

■ つらいこともあったけど、楽しい撮影だった

―現場ではレヴァンさんのリアルな演技を引き出すために、監督がわざと厳しい状況に追い込んだこともあったとうかがいました。撮影中に、一番苦労したシーンがあれば教えてください。


レヴァンさん
 一番大変だったのは、僕が演じたメラブの兄の結婚式のシーン。僕がずっと歩いているところをロングショットで撮影していますが、僕だけではなく、相手役を演じたバチにとっても、感情を出すのが非常に難しいシーンでした。実際、24テイクも撮っているんですよ。

そのほかに、身体的な意味で一番苦しかったのは、ラストシーンのダンスを踊る場面。長回しであるうえに、いろんなアングルからも撮る必要があったので、自分の足が麻痺してしまうほど何度も踊りました。時間的にも何時までに撮らなければいけないという制限があったので、精神的にも追い込まれてしまい、すごくつらかったです。

―では、それだけハードな撮影を乗り越えた支えとなったものは?


レヴァンさん
 みんなで別荘に行くシーンなど、楽しいこともたくさんありましたよ。たとえば、屋外でのラブシーンでは、11月の寒い時期だったこともあり、凍えながらの撮影でしたが、演技している最中に実は湯たんぽを隠し持っていたり(笑)。すごく雰囲気のある場面ではありますが、その裏ではおもしろいこともたくさんありましたね。

―ちなみに、オフはどのように過ごしていましたか?


レヴァンさん
 フリーの時間は、ほとんど寝ていました。というのも、日中だけの撮影の日と夜通しの撮影の日が交互にあったり、とにかくスケジュールがめちゃくちゃだったので、体内時計がかなり狂ってしまって……。それがきつくて、休みの日は寝てばかりでした(笑)。

■ 抗議される反面、人の寛容さを知ることができた

―体力的な大変さも痛感されていたのですね。本作は、国際映画祭でさまざまな賞を受賞するなど海外で高く評価されていますが、保守的な人が多いジョージア国内では同性愛を描いた本作の上映中止を求める動きまで起きたとのこと。そのことに関しては、どう受け止めていますか?


レヴァンさん
 今回、上映に対する抗議活動をしていたのは、極右のギャングのようなグループで、映画館の前に500人近くが集まっていました。とはいえ、驚くことに彼らを集めたのは、ジョージア政府だったという説があるんですよ。

―政府が裏で操っていたという説は、非常に衝撃です……。


レヴァンさん
 ただ、それによって多くの人たちは、「極右といっても政府からお金をもらい、道具のように動いているだけの人たちであって、あまり危険ではない」ということに逆に気がつくことができました。つまり、こういった行動がこの先も続くとは限らないのだと知るきっかけにもなったのです。

そのいっぽうで、この映画にはサポートをしてくれる方もたくさんいたので、LGBTに対するヘイトだけではなく、人が持つ寛容さも感じることができました。実際、レズビアンをテーマにした映画がつい最近ジョージアで公開されましたが、抗議に集まった人はわずか10人ほど。この作品が公開されたときに比べると、過剰反応する人が減ってきているという証拠でもありますよね。

■ マイノリティに対して世界がオープンになってきている

―つまり、ジョージアに根強くあった性的マイノリティに対する偏見も、大きく変化し始めているんですね。


レヴァンさん
 そう言えると思います。もともと、この映画は監督が2013年のLGBTのプライドパレードからインスピレーションを受けていますが、世界的に見てもオープンになりつつありますから。

それに加えて、LGBTのコミュニティだけではなく、女性の権利という観点においても、かなり変わってきましたよね。これまでは女性の立場がとても低かったり、あるいは権利すらないところもありましたが、いまはいろんなムーブメントも起きているので、ここ最近は大きな変化を感じています。

―それでは最後に、日本の観客に向けてメッセージとしてお願いします。


レヴァンさん
 僕はいまの日本がどういう問題を抱えているのかについて、詳しく把握しているわけではありませんが、映画に込められているメッセージは、お互いを尊重し、愛し合うことの大切さ。そして、その関係性においては、性的指向や人種は一切問う必要はない、ということも伝えられたらと思っています。


■ インタビューを終えてみて……。

ダンサーとして鍛え上げられたしなやかな肉体を持っているだけに、佇まいから美しさが放たれているレヴァンさん。時折見せる少年のような笑顔も印象的でした。ジョージアのみならず、世界でも活躍が期待される存在として、これからも注目していきたいと思います。

■ 抑圧された心が解放される!

国の伝統や社会からの偏見に縛られ、現実の厳しさと向き合いながらも、徐々に自分らしくいる大切さに気がつく主人公メラブ。言葉にならない思いを解き放つ彼のダンスを目にしたとき、自分の内に秘めた思いや欲望が揺さぶられるのを感じるはずです。

■ ストーリー

ジョージアの国立舞踊団で、幼少期のころからダンスパートナーのマリと一緒にトレーニングを積んできたメラブ。日中のハードな練習を終えると、家計を一人で支えるためにレストランでアルバイトをしていた。

気持ちが休まらない日々を過ごしていたなか、カリスマ的な魅力を持つ青年イラクリが入団。メイン団の欠員補充のオーディションが開催されることとなり、メラブとイラクリはライバル心を燃やしながらも、2人だけで特訓をするのだった。そして、いつしかお互いに抗えない欲望が芽生え始めることに……。

■ 官能的な予告編はこちら!



■ 作品情報

『ダンサー そして私たちは踊った』
2月21日(金)より、全国ロードショー!
配給:ファインフィルムズ
© French Quarter Film / Takes Film / Ama Productions / RMV Film / Inland Film 2019 all rights reserved.

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