「日本は美しい秩序がある」大ヒット映画の中国人監督が感嘆した理由
ananweb / 2020年2月26日 20時10分
現在、韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』が世界中を席巻していることもあり、アジアの映画界も活気に満ちているところですが、今回ご紹介するのは、中国新世代をけん引する新鋭監督が放つ話題作です。それは……。
■ 『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』
【映画、ときどき私】 vol. 294
父親の死をきっかけに、故郷の凱里(かいり)へと帰ってきたルオ・ホンウ。彼は、マフィアに殺された幼なじみや自分を捨てて駆け落ちした母の記憶を拾い集めるように、街をさまよっていた。
そして何よりもルオの心から離れなかったのは、運命の女だと思っていたワン・チーウェンのこと。いつしか女の面影を追い求めて、旅へと出ることになるのだった……。
本作は、中国国内で公開1日にして41億円という驚異的な興行収入を叩き出し、アメリカでもロングランとなった注目作。なかでも映画が始まって80分ほどしてから2Dから3Dへと切り替わり、そこから60分ワンカットで見せる驚異の映像には称賛の声が上がっています。そこで、その舞台裏についてこちらの方にお話をうかがってきました。
■ 中国の若き鬼才ビー・ガン監督!
2015年に26歳という若さで『凱里ブルース』で長編監督デビューを果たし、国際的な評価を得たビー・ガン監督。長編2作目となる本作は、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門への出品を皮切りに、各国の映画祭で話題となっています。監督にとって意欲作ともいえる作品へ込めた思いや大ヒットの理由などについて語っていただきました。
―まずは、今回初めて日本に来られたそうですが、どのような印象を受けているのかを教えてください。
監督
最初に見た印象として、日本は秩序に満ちた場所だと感じました。それは車から見る景色や街路樹の配列ひとつとってもそうですが、美しい秩序がある国だと思います。
―そんなふうに、日常生活で目に入ってくるものからインスピレーションを得ることは多いですか?
監督
確かに、インスピレーションの源は、自分の暮らしのいろいろなディテールからすくい上げることはあります。ただ、実際に作品を作り終えて、自分で振り返ってみたときにどこからインスピレーションを拾ってきたのかは、自分自身でも思い出せないことが多いんですよ。
ちなみに、今回の作品で言うならば、3Dのシーンを撮った場所は前作の『凱里ブルース』の撮影でも使っていた場所で、「次もここで撮りたい」とずっと思っていたので、前作との関連はすごく大きいと思います。
―ということは、この作品に関しては、まずは場所から生まれたということでしょうか。
監督
そうですね、最初からそれは頭のなかにありました。脚本を書いているときは、記憶と夢の2つを軸にした作品にしようと思っていたのですが、この場所のことがどうしても忘れられなかったので、ここを舞台にしようと決めてから物語を組み立てていきました。
■ 偶然が重なって思わぬ現象が起きた
―中国では歴史的な大ヒットを記録されましたが、観客の心を掴んだ一番の要因は何だとお考えですか?
監督
今回成功した理由は、とても複雑なものだと考えています。というのも、この映画はアートフィルムに属すると思いますが、中国だけでなく、世界の映画マーケットにおいても、観客が「アートフィルムを観に行かなければ!」と思うような現象というのは、いまだかつて例がなかったことかもしれないからです。
私たちが工夫したのは、映画のポスターや予告編を作る際に、作品の質感や雰囲気、本作で伝えたいロマンや美学といったものをなるべく伝えられるようにすること。さらに、封切の日にも意味を持たせるようにしました。
―具体的にはどういったことをしたのでしょうか?
監督
英語のタイトルは邦題と同じく「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」という意味ですが、中国語のタイトルを直訳すると「地球最後の夜」となります。それにちなんで、公開日を12月31日の夜にし、映画の終わり時間をちょうど0時に設定したんです。そうしたところ、「1年の最後に『地球最後の夜』という映画を見て、恋人と年越しのくちづけを交わそう」とSNSを中心に話題となり、偶然が重なってこのような現象を引き起こしました。
とはいえ、内容が難解すぎたようで、観客からいろいろな意見も上がりましたが、結果的には芸術と観客をつなげることができたのではないかと考えています。
―さまざまな要素がうまく重なり、これほどの動員へとつながったのですね。
監督
ただ、こういった一連のブームのあとに私が思ったのは、中国の観客の多くは世俗的でわかりやすく、心の交流を感じられるような映画を望んでいるのであって、芸術性の高いものはまだまだ受け入れられないのが現状なんだなということでした。
とはいえ、中国はすごく広いですし、人種も複雑なので、客層に合わせて宣伝方法を変えたり、手の込んだことをするというのもなかなかできないのが現実です。もし、若い人に来てほしいと思ったら、彼らの共感を得られるようなものにしなければいけませんが、それがもっとも難しい部分でもあります。
■ とてつもない挑戦にみんなで立ち向かった
―本作では、主演を務めたタン・ウェイさんとホアン・ジエさんの存在感も見事でしたが、監督からはどのような演出をされたのでしょうか。
監督
実は、彼らのように第一線で活躍するプロの役者さんと一緒にお仕事させていただくのは、僕にとって初めての経験でした。そういったこともあり、演技に関して指導することはほとんどありませんでしたが、3Dの部分は60分の長回しで、すべてを一気に撮らなければいけないというとても難易度の高い撮影だったので、立ち位置などは正確にお願いしました。
とにかくリハーサルが大変でしたし、5回ほど撮り直しもしましたが、もし観客のみなさんがご満足いただける内容になっているとすれば、それは私たちの努力が実った結果だと言えると思っています。
―実際にキャストとスタッフのみなさんにとってかなりの挑戦だったと思いますが、撮影で大変だったことを教えてください。
監督
まず苦労話について質問を受けるたびに私が言っているのは、「技術的に難しいこと」と「良い映画であること」は必ずしもイコールではないということ。あくまでもそれを前提に聞いていただければと思います。
最後のシーンにどのくらい時間をかけたのかを正確に計算したわけではないですが、この映画の制作にかかった期間は、およそ9か月。後半のシーンには、その約半分を費やしています。特に長回しのところでは、撮影中にどうすればスムーズに進めるのか、細かくコミュニケーションを取り、みんなの呼吸を合わせるためのリハーサルを何度もしなければいけなかったので、とてつもない挑戦ではありました。
―前作でも40分ワンカットのシーンがあり、長回しは監督の作品において特徴のひとつでもありますが、長回しならではの魅力はどんなところですか?
監督
たとえば、『凱里ブルース』では時間をテーマにした映画だったということもあり、時間を完全な状態で表現したいと思い、長回しという手法を取りました。本作は記憶と夢が中心ではありますが、時間と空間を提示するためには、時間の構造をそのまま体験していただきたかったので、今回も長回しが有効だったと思っています。
■ 日本のカルチャーには親しみを感じている
―なるほど。ちなみに、もともと映画監督になろうと思ったきっかけは何ですか?
監督
大学に入ったとき、初めてたくさんの映画を観るようになったんですが、そこで「アンドレイ・タルコフスキー監督のような作品を撮りたい」と思うようになり、映画監督を目指すようになりました。
―そのなかで影響を受けている作品などがあれば、教えてください。
監督
たくさんありすぎて選ぶのが難しいですが、数多くの名作を観るなかで学習し、それぞれの良い部分を自分のなかに吸収してきました。その過程では、本当に多くの傑作と出会うことができたと思っています。日本の作品を挙げるなら、伊丹十三監督の『タンポポ』が好きですね。
―劇中では日本の曲も使われていましたが、日本の文化に影響を受けていることはありますか?
監督
私が幼いころから、テレビをつければ日本のアニメが流れていたので、日本のカルチャーに触れて育ったと言えるかもしれません。実際、それらの作品を介して日本的なことや建築など、日本についてある程度知ることができましたから。あとは、日本が作ったゲームでもよく遊んでいたので、日本には親しみを感じていますし、私の子どもも日本のアニメをいつも見ていますよ。
―それでは最後に、これからますます世界が注目する監督の今後について教えてください。
監督
いまちょうど3作目の脚本を書いている段階ですが、日本の滞在中にも2日間ほど脚本を書く作業をしようと考えています。なので、何か日本からいい影響をもらえたらいいですね(笑)。撮影は2021年を目指しているので、そこに向けてがんばりたいと思ってます。
■ 先の見えない旅へと引き込まれる!
現実と夢を行ったり来たりするような幻想的な映像体験を味わえる本作。ミステリアスな男女が放つ色気と美しさに誘われ、誰も知らない別世界へとあなたも足を踏み入れてみては?
■ 謎めいた予告編はこちら!
■ 作品情報
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』
2月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリー、池袋HUMAXシネマズほか全国順次公開
配給:リアリーライクフィルムズ+ドリームキッド
©2018 Dangmai Films Co., LTD - Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.
監督デビュー作『凱里ブルース』も4月18日(土)より、シアター・イメージフォーラムにて公開決定!
©Blackfin(Beijing)Culture & MediaCo.,Ltd – Heaven Pictures(Beijing)The Movie Co., - LtdEdward DING – BI Gan / ReallyLikeFilms
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