「農業には大きなチャンスがある」地球のためにいますべきコト
ananweb / 2020年3月11日 21時30分
都会という“コンクリートジャングル”のなかで暮らしていると、ときには動物や植物に触れて癒されたいと思うもの。そこで、まるで本物の自然のなかにいるような感覚を味わえる注目のドキュメンタリーをご紹介します。それは……。
■ 『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』!
【映画、ときどき私】 vol. 297
愛犬の鳴き声が原因で、大都会ロサンゼルスのアパートを引き上げることとなったジョンとモリー。料理家でもある妻のモリーは、本当に体にいい食べ物を育てるため、夫婦で郊外の荒れた農地へと引っ越すことを決意するのだった。2人は自然の厳しさに翻弄されつつも、“究極の農場”を作るために奮闘することとなる……。
世界各国で開催されている映画祭では数々の観客賞に輝き、映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」でも高い評価を獲得している本作。今回は、その魅力についてご本人にお話を伺ってきました。
■ ジョン・チェスター監督!
映画制作者であり、監督、カメラマンとしても25年以上のキャリアを誇るチェスター監督。本作では、妻のモリーさんとともに東京ドーム約17個分もの荒れ果てた地を8年かけて美しい農場へと変化させていく様子が映し出されていますが、そこでも語られていない秘話や環境を守るためのアドバイスなどについて、語っていただきました。
―今年で農場を始めて10年となりますが、まずはこれまでを振り返ってみてどう感じていますか?
監督
10年前はこれほど素晴らしく、美しい経験になるとは想像もしていませんでした。最初に私たちが希望として持っていたビジョン以上のものがいまはできていると感じています。
―都会を出て、郊外に移住してよかったと思ったのはどんなときですか?
監督
農場を始めて数か月後から5年目まで以外は、よかったと思っていましたよ。というのも、都会を離れてすぐのころは本当によかったと感じていましたが、そのあとから5年目にかけてまではあまりにも大変だったので、正直言ってそう思えない時期もあったということです。
―確かに、とてつもない挑戦をされていると感じました。もう無理だと諦めそうになったこともあったのでは?
監督
何度も思いましたし、実際に何度もやめると言ったこともありますよ。でも、夜になってベッドのなかで、もし本当にやめたら、明日の朝起きて自分が大切にしてきた動物たちを処分しなければいけないし、いろいろな植物や木を枯らしてしまうことになると考えると、やめるよりも続けるほうが楽だったんです。
―なるほど。そういった状況を乗り越えるうえで、ご自身を支えてきた信念があれば教えてください。
監督
「もっとこういうことができるのではないか」とか「以前の生態系を作り直すことができるはずだ」といった希望や信条は、つねに自分のなかにありました。
最初に思っていた以上に時間を費やすことにはなりましたが、美しい発見やマジカルな出来事がいつも起きていたので、そういったことにインスピレーションを受けながら前に進んでこれたと思っています。
■ 妻は夢を一緒に追うことができる仲間
―農場に暮らしているなかで、一番感動した出来事は何ですか?
監督
いくつもありますが、そういったエピソードのほとんどは病気になった動物が回復したことと関わっています。なかでも、本当に感動したのは、映画にも出てくるブタのエマが元気になったとき。
なぜなら、私にとって動物の生命的な危機を乗り越えた初めての瞬間だったからです。作品には映っていないところで僕は農場で起きるさまざまなことに対処しながら、何日もエマにかかりっきりだったので、当時はかなり疲れ切っていました。
やらなければいけないことがあまりにもあったので、ある日エマの頭の上に手を置いて「これ以上僕にできることはない。あとは君にかかっているんだよ」と声をかけ、翌日にエマの子どもたちを小屋に戻すことに。そしたら、エマが自分の力で起き上がり、ようやく餌を食べ始めてくれたのです。
―動物たちの持つ力を目の当たりにした素晴らしい瞬間ですね。とはいえ、そのいっぽうで、見せたくない部分があり、葛藤もあったそうですが……。
監督
映画でもいくつかは見せていますが、やはり動物を安楽死させなければいけない場面を見せるのはつらかったです。あと、嫌だったのは、私と妻がカップルセラピストのオフィスに行って、セラピーを受けているところかな(笑)。
―(笑)。ただ、同じ目標に向かっていくご夫婦の姿は素敵でした。監督にとって、奥さまはどんな存在ですか?
監督
モリーはつねに楽観的な性格で、物事すべてにおいて良い面しか見ない人。だから、私は時々彼女に「世の中はそんなに公平じゃないんだよ」と思い出させる必要があるくらいなんですよ。といっても、モリーはまったく私の言うことを聞いてくれませんけどね……。
ただ、彼女と出会ったとき、それぞれが内に秘めていたワイルドでクレイジーな夢を一緒に追うことができると思い、勇気を持った仲間を見つけた気がしました。
■ 農場で地球の異常を肌で感じている
―実際、この農場はお二人の愛の結晶だと思います。映画のなかで、森林火災に巻き込まれそうになったとき、慌てたモリーさんが意外なものを持って逃げようとしていたところに思わず笑ってしまいました。監督だったら、何を持ち出したと思いますか?
監督
僕に必要なのは、息子と妻と犬だけ。あとは動物たちがちゃんと無事であれば、それだけで何もいらないかな。パソコンなんかは燃えちゃったほうがいいくらいだから、逆に火のなかに投げ込んでしまうかも(笑)。
―(笑)。でも、とっさの判断で奥さまと同じような行動を取ってしまいそうですね。
監督
もし、おかしなものを持ち出すとしたら、背中をストレッチすることができる丸太のような形のグッズだろうね。というのも、もしどこかに避難することになったら、モリーはきっとストレスが溜まってしまうので、そのときに役立ちそうかなと。
ピリピリした人と一緒にいるのは大変ですし、「ハッピーワイフ、ハッピーライフ」というように、妻が幸せなら私の人生も幸せになりますから。
―その通りですね! いま話があった森林火災のみならず、さまざまな気候とこれまで戦ってきたと思います。最近は気候変動の問題なども世界的に大きく取り上げられていますが、実際に地球の異常を感じることもありますか?
監督
もちろんありますよ。顕著に表れているのは、嵐の風速。農場を始めたころは、時速80キロほどだった風速が8年後には時速120キロまで上昇してしまったほど。やはりこれは異常だと思います。
いま私たちが行っている再生型の農業を進めていくと、空気中にある二酸化炭素をどんどん吸収してくれるので、この方法で生態系を再生させ、地球を癒していくことが最良の対策だと思って取り組んでいるところです。
■ 農家は究極の環境活動家でもある
―ちなみに、日本の農家の方から影響を受けている部分もあるそうですが、具体的にはどのようなことでしょうか?
監督
福岡正信さんの書いた『自然農法 わら一本の革命』という本から学んだのは、農業の方法論ではなくモノの見方。人は問題が起きたときに良いか悪いかだけで対処方法を導きだしてしまいがちですが、正しい見方ができるようになれば、何をすべきかがきちんと見えてくるものだとその本で知りました。
論理的な思考を捨てた人や生態系の力を信じ切っている人に対して、多くの人は異議を唱えますが、いまは生態系をコントロールしようとしすぎているところがあります。でも、人間はもっと生態系に謙虚になり、頼ってもいいはずです。
福岡さんによると、究極的な農業は「まったく何もしないこと」。それをクレイジーだと言う人もいますが、僕は10年農場を続けて、その考え方やニュアンスを理解できるようになりました。
―ちなみに、いまの日本の農業の在り方を外から見て感じることはありますか?
監督
そこまで日本の農業に詳しいわけではありませんが、私はどんな農家に対してもアドバイスや非難をすることはありません。たとえば、環境を破壊しているように見える産業型の農業を行っている人でさえ、より安いものを食べたいという消費者の要求に応えているだけですから。
ただ、私が行っているような農法で育てられた農作物を食べたいという需要が上がれば、この方法に取り組む農家は増えるはずなので、農業にはすごく大きなチャンスがあると思っています。地球を癒すための解決方法のひとつを持っているのは農家だと思うので、農家は究極の環境活動家にもなりえるのです。
■ いまの私たちにできることとは?
―もし、農家以外の一般人でも環境のためにできることがあれば、教えてください。
監督
みなさんに伝えたいことは3つあります。まずは、生ごみからたい肥を作ってほしいということ。自然の資源となるものをただ捨てるのではなく、自宅の庭や畑に戻してほしいと思っています。しかも生ごみというのは、そのまま埋め立て地に入れると、もともと持っている栄養素が消え、メタンガスを発生させてしまうだけですから。
そして2つ目は、再生的な農法に取り組んでいる農家をサポートすること。つまり、産業的な農業だけに補助金を出すのではなく、再生的な農業にも補助金が出るように政治家をみなさんの力で動かしてほしいということです。
最後は、アメリカでもいつも言っていることですが、子どもたちが将来安心して住める地球を残せるように大人たちがもっと責任を持つこと。地球を救うためには、野生動物や虫、微生物といった生物の多様性を再生させ、表土を豊かにして、地球の免疫作用を回復させなければいけません。私たちの農場でも、この2つの統制を取るように意識しています。
―特に都会に住んでいる人たちは自然と共存している感覚が薄れてきているところがあるので、日本の観客に伝えたい思いがあれば、メッセージをお願いします。
監督
私たちの多くは人生における目的や意味を求めていると思いますが、私たちの存在を可能にしている自然界をあまり評価していないところがあります。
それどころか、自然とつながることによって得られる感覚さえも失われているのが現状と言えるでしょう。ぜひこの作品を観ていただき、みなさんも自然の一部であることを思い出してもらえたらうれしいです。
■ 人類が忘れかけていることを自然から学ぶ!
自然の美しさのみならず、そのなかにある厳しさや残酷さも真正面から映し出した本作。見たことのないような素晴らしい景色と動物たちによって生み出される自然の神秘に、誰もが圧倒されてしまうはず。環境問題が多く取り上げられるいまだからこそ、自分たちも自然によって生かされていること、そして自然のために私たちができることをそれぞれが考えてみては?
■ 奇跡の予告編はこちら!
■ 作品情報
『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』
3月14日(土)、シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMA他、全国順次公開
配給:シンカ
photo credit:Yvette Roman Photography
(c) 2018 FarmLore Films, LLC
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