ゾクゾクする! “色っぽい”作品6冊をじっくり読んでみたい
ananweb / 2020年3月31日 21時0分
ライター、ブックカウンセラー・三浦天紗子さんに、文字、行間に色気が潜む、小説、エッセイ、そして短歌を教えていただきました。
■ 言葉で腑分けされた繊細な感情。そこに文章の色気は潜んでいる。
「作家は、登場人物の感情やそのときの感覚にミクロのレベルまで近寄って、腑分けしてくれるんですよね。例えば“うれしい”という気持ちも、エピソードを積み上げ、喩えを駆使して文字で読者に伝えてくれる。だから私たちはそれを読めば、作中で右往左往する人たちの思いや感情に、行間も含めて乗っかるだけで、色気を味わえるんです」
と言うのは、ライター、ブックカウンセラーの三浦天紗子さん。色気のある文章には、必ず以下の要素がある、と語ります。
「文体が静謐というか、ささやかな声で語っていること。インテリジェンスともろさが共存していて、さらに心に孤独が棲んでいる。そんな要素がある文章は色っぽい。どちらかというと、恋にしろ運命にしろ、ままならない物語のほうが、色気は漂いますよね。加えて、今回選んだ6冊にはいずれも、どこか死の淵をのぞき込む危うさがある。それも、色気を感じさせる一つの要因かもしれません」
■ 空間に潜む幽霊が醸し出す、少し切ない官能性。
『ここは夜の水のほとり』清水裕貴 著 ¥1,400/新潮社
‘18年の「女による女のためのR-18文学賞」の大賞受賞作が収録された、5編の連作短編集。舞台は美大と美大予備校、玉川上水の鬱蒼とした緑の中で交錯する人間関係を描く。「どの物語にも、幽霊のような“影”がちらついていて、それが独特の色気に繋がっている気がします。受賞作は、〈あなた〉と語りかける存在が、かつてルームメイトだった男性をそっと見つめるストーリー。部屋に漂っている、意識の官能性というか、切ない色気が堪能できます」
■ 視線、ささやき声、筆談。静寂の世界に漂う色っぽさ。
『ギリシャ語の時間』ハン・ガン 著、斎藤真理子 訳 ¥1,800/晶文社
ある日突然言葉が話せなくなってしまった女性が、言葉を取り戻すために、ギリシャ語教室に通い始める。そこで出会ったのは、徐々に視力を失いつつある男性講師。「失われた言葉と、失われつつある視線を使ってのコミュニケーションは、とても静的で、その密やかさと削ぎ落とされた感じがとても色っぽい。お互い、不自由さを引き受けて、その上で寄り添い、交わし合う言葉や視線。端正な文章、特に終盤の詩のような繊細な世界観に、ため息が出ます」
■ 夢や秘密を打ち明ける。その密やかさが官能的。
『囚われの島』谷崎由依 著 ¥1,600/河出書房新社
バーで出会った盲目の調律師に魅入られ、主人公の女性新聞記者・由良は彼の部屋へ通う。二人は同じ島の夢を見ていることがわかるが、調律師はその夢に怯えており…。「調律師が語る夢の話を由良が聞くシーンが色っぽい。秘密や夢うつつの昔話、彼が恐れているイメージに二人が共鳴していく雰囲気にゾクゾクします。蚕をめぐる歴史や蚕の生殖の特殊性などが性的なメタファーにもなっていて、何かが起きそうな不穏な空気に酔うような読み心地です」
■ 死と隣り合わせの日記には繊細で危うい色気が宿る。
『八本脚の蝶』二階堂奥歯 著 ¥1,200/河出文庫
25歳の若さで命を絶った女性編集者が死の直前まで綴った日記と、生前親しかった13人の文章を収録した一冊。「悩んだり葛藤したり、日記の中の彼女は内省を深め自分を追い詰めていきます。完璧主義で繊細で、危うさに満ちた文章からは、自己のあり方に煩悶する、孤独で繊細なたましいの気高さを感じます。彼女は猛烈な読書家だったので、さまざまな本から引用がなされているのですが、特に死生観にまつわる抜き出しや執筆部分が、エロティックです」
■ 華やかさとつつましさ。削ぎ落としの美学を堪能。
『対岸のヴェネツィア』内田洋子 著 ¥1,400/集英社
長くミラノに住む作者が、イタリア人ですら“暮らしづらい”と言うヴェネツィアで暮らすことを決意。そこで出会った人々や街の様子を綴った12のエッセイ。「どこか人を拒むような雰囲気もある、不便な街・ヴェネツィア。でも内田さんのフィルターを通して見ると、その暮らしづらさまでもが官能的になるから不思議。秀逸なのが、住むことになった部屋との出合いのくだり。窓から見える風景の描写は、私も住んでみたいと思うほど魅力的」
■ ほとばしる熱情をクールな言葉で詠む、抑制の色気。
『メタリック』小佐野 彈 著 ¥2,000/短歌研究社
LGBTであることをオープンにしている歌人のデビュー作。370もの短歌が収録されており、恋愛や、世の中の不条理、ままならないことなどへの思いが溢れている。「とにかく“愛を詠む”熱量がすごい。好きな人への気持ちをストレートに詠んでいる、恋文のような短歌がたくさん収録されています。自身のセクシュアリティへのとまどい、叶わない恋に飛び込むみずみずしさ…、抑制が利いたモダンな表現によって、逆に彼の繊細さや孤独感を強く感じます」
みうら・あさこ ライター、ブックカウンセラー。書評やインタビューを中心に、弊誌をはじめ雑誌やウェブメディアで活躍中。
※『anan』2020年4月1日号より。写真・中島慶子 取材、文・河野友紀
(by anan編集部)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
歌人・紀野恵が白居易の詩を翻訳!歌集『楽天生活』が11月27日に発売。
PR TIMES / 2024年11月25日 10時15分
-
気鋭の作家最新作!なんでもない日常を切り取ったエッセイ『わからなくても近くにいてよ』発売(11/23)。
PR TIMES / 2024年11月22日 11時45分
-
<書評>『はじめての近現代短歌史』髙良真実著
産経ニュース / 2024年11月17日 8時0分
-
弘前大学附属図書館で「短歌づくりワークショップ」を開催 ― 学生・教職員約30名が参加し、短歌の鑑賞や創作を楽しむ
Digital PR Platform / 2024年11月15日 14時5分
-
死刑執行まであと10時間「この先も最後まで私の全力を尽くします」特攻隊長の信念~28歳の青年はなぜ戦争犯罪人となったのか【連載:あるBC級戦犯の遺書】#67
RKB毎日放送 / 2024年11月8日 14時31分
ランキング
-
1「お金がない」「残高を見るのが怖い」その悩みの名は貧困妄想!解決方法を心療内科で聞いてみた
よろず~ニュース / 2024年11月25日 15時0分
-
2話題の「異世界転移チャレンジ」を検証 手首に“690452”と書いて寝ると行ける?
おたくま経済新聞 / 2024年11月25日 15時0分
-
3歯磨きのあとに口をゆすいではいけない…毎日磨いているのにむし歯になる人がやっている「誤解だらけの習慣」
プレジデントオンライン / 2024年11月25日 6時0分
-
4「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
ねとらぼ / 2024年11月25日 13時52分
-
5斎藤元彦知事ヤバい体質また露呈! SNS戦略めぐる公選法違反「釈明の墓穴」…PR会社タダ働きでも消えない買収疑惑
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月25日 11時3分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください