マンガ独自の快楽がある! マンガエッセイストが選ぶ“色っぽいセリフ”
ananweb / 2020年3月29日 19時20分
マンガエッセイスト・川原和子さんに「その言葉と表情に心が揺れる。色気を放つマンガのセリフ」を教えていただきました。
■ 非日常的な色っぽいセリフも、マンガだとなぜか受け入れられる。
絵と言葉、コマ割りで構成されるマンガの世界。しかも色は、ペンの黒と地色の白のみ。構成要素は非常にミニマムであるマンガ。
「線で描かれる美しい絵と心に響くセリフの融合で生み出される色気は、ときに紙の上に脈打つような熱を孕み、私たちを誘惑するのだと思います。また、実写だと少し大仰で不自然に感じてしまうようなセリフでも、作者の世界観がしっかりと確立されている作品であれば、なぜか違和感なくその色気を味わえてしまうのも、マンガの不思議な魅力です。“絵と文字とコマ割りが織りなす世界を読む”という、マンガ独自の快楽には、そこでしか楽しめない色気があるのだと思います」
と言うのは、マンガエッセイストの川原和子さん。マンガに宿る色気は、他のメディアに比べて人と共有しやすい部分がある、とも。
「“このコマ!”と言えるのもマンガの良いところ。語り合うことで新たな色気の発見もあるかもしれませんね」
■ まあなんていうか わざとだからね
河原和音『素敵な彼氏』6巻より
高校生になったら彼氏が欲しい。そう思っていた主人公・ののかの彼氏である桐山くんは、常にポーカーフェイスのクールな男子。「付き合う前、内面がわからないミステリアスな男子でしたが、親しくなるにつれ、“わかりにくさ”の向こう側にある優しさや本音が垣間見えるようになる。その一例がこのセリフ。もどかしい行き違いを経て、ストレートに手の内を明かすギャップが、色気を際立たせる気がします」
1~12巻 各¥440/集英社 ©河原和音/集英社
■ リリアン自力じゃ無理でした
河内 遙『関根くんの恋』1巻より
容姿端麗&なんでもできる主人公の関根くんは、他人から欲望の眼差しを向けられる一方、自分の欲望には無自覚。「リリアンに挑戦したもののできなかった、という顛末を、手芸店の女子に伝えるこのセリフ。一見色気と無縁の言葉ですが、涙を浮かべた無防備な表情で口にすると一気にパワーワードになり、罪作りな色気を発露。傍目には完璧な彼が、自分の気持ちに対しては恐ろしく無知。そのアンバランスさが彼のセリフに色気を宿すのでは」
全5巻 ¥952~/太田出版 ©河内遙/太田出版
■ きみもおいでよ ひとりではさびしすぎる……
萩尾望都『ポーの一族』1巻より
不朽の名作であり、現在も新作が描かれる本作。不老不死の吸血鬼、ポー一族の一人であるエドガー。永遠に成長できないという絶対的な孤独の中で生きる彼が、アランという少年と知り合い、彼を吸血鬼の世界に誘うときのセリフ。「彼の深い絶望と、他者を求めずにはいられない“人の業”が凝縮された言葉。前後のコマではエドガーの妖しい魔的魅力が描かれ、このコマの気品すら感じる表情と合わせて、超越的な色気を放っています」
全5巻 各¥420/小学館 ©萩尾望都/小学館
■ “恋”なので仕方ありません
西 炯子『娚おとこの一生』1巻より
30代半ばの主人公・つぐみは、亡くなった祖母の家で、51歳の哲学者・海江田と奇妙な同居生活を始める。恋愛が苦手なつぐみを海江田は翻弄。親族の前で、突然公開プロポーズをするのがこの場面。「ふだんは飄々とし、地位も分別もある大人の男が、公の場で“私”極まりない恋心を堂々と宣言。本質的なことをぶれずに伝えるストレートさと、ある種の強引さが、愛の言葉をあまり口にしない日本の男性の中では稀有。それが色気の源なのでは」
全4巻 各¥429/小学館 ©西炯子/小学館
かわはら・かずこ マンガエッセイスト。著書に『人生の大切なことはおおむね、マンガがおしえてくれた』(NTT出版)が。
※『anan』2020年4月1日号より。
(by anan編集部)
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