又吉直樹の自由な一句、「カツ丼喰える程度の憂鬱」…せきしろと新刊俳句本
ananweb / 2020年3月27日 19時30分
『カキフライが無いなら来なかった』で組んだ名コンビ、せきしろさんと又吉直樹さんが、『まさかジープで来るとは』から10年ぶりに帰ってきた! シリーズ第3弾となる『蕎麦湯が来ない』は、連載に、自由律俳句とエッセイを書き下ろしで大量加筆。読み応えもたっぷりだ。
「最初の『カキフライ~』が出たとき、僕は29歳で、もうまもなく四十になりますし、その間いろいろありました」(又吉直樹さん)
「連載はずっと続いていたので、そんなに間が空いた感覚はなかったんですが…。僕より又吉くんは身辺が変わりましたよね」(せきしろさん)
「なにせ相方がニューヨークに行きましたから。俳句の本を出した人間史上初めてじゃないですかね、それ」(又吉さん)
と、インタビュー中も息の合ったやりとりが微笑ましい。
本書は、ふたりの自由律俳句と、その句に呼応するようなエッセイで構成されている。先に句が浮かびエッセイになるときも、エッセイから句になるときもあるそうだ。決まりがあるようなないような、ゆるいルールが実はキモ。言葉とどう格闘するか、世界を切り取るか。個性的な才人ふたりの化学反応によって、面白さに磨きがかかる。
おふたりから見た、自由律俳句の魅力とはなんなのだろう。
「僕の場合は、説明したくない、言いたいことだけ言いたいというのがあって、自由律俳句ならそれができるんですよね。いま自分は蕎麦屋にいて、食べ終わってて…と説明なしに、ずばりと『蕎麦湯が来ない』で終われる。その感じは自分に合っているなと思います」(せきしろさん)
「共感を引き出せるのが面白いというか。共感というと、みんなが思いつくあるあるネタのように捉えられがちなんですが、『10人いたら5~6人はそこ言うよね』というところは避ける。特にせきしろさんは、絶対詠まないですよね。むしろ、10人いて1人いるかいないかのポイントを突いて、『言われてみればそうだな』と納得させる。せきしろさんの句はご自身が俳句で笑わそうとしているわけではないのに、わかりすぎて笑ってしまいます」(又吉さん)
数句取り出してみる。
カツ丼喰える程度の憂鬱
(又吉直樹)
憂鬱を切り裂く保育園児の散歩
(せきしろ)
コーラを好む老人の過去
(せきしろ)
路上で卵の殻を剥いていた老人
(又吉直樹)
同じ言葉が出てきても、見えてくる情景はまるで違う。おふたりも、思いがけない相手の句に驚くこともしばしばらしい。ゆえに、互いが互いのいちばんのファンだと言う。
「又吉さんは僕とはまったく違う視点で来るから、かぶることがない。こんなに広い視野を持っている人がいるんだと感心するし、悔しくなるほど虜です」(せきしろさん)
「〈すまないがきつねの影絵しかできない〉というせきしろさんの句があるんです。一瞬でわかるというより、謝りながら影絵をやってる彼の状況を想像するとより面白い。噛めば噛むほどといいますが、せきしろさんのはそういう感じ」(又吉さん)
ふたり合わせて404句が収録されているが、その3倍は詠み、絞りに絞ったものばかり。
「最後の最後まで、差し替えたりしましたね。過去の句と似たものにならないようにするのがけっこう大変なんです」(せきしろさん)
「居酒屋のメニューを詠んだ句なんていくつあるのか。砂漠とか行ったことのない場所にでも行かないと浮かばないとか思うけど、だからこそ新しいのがひらめくとうれしい」(又吉さん)
ふたりの作風をくくるなら、見過ごせばいいかもしれないことを見過ごせない、そのこだわり。エッセイも然りで、どこかショートショートのような趣が読んでいて楽しい。
連載は終わってしまったが、このふたりの無敵のタッグに、まためぐり合いたいと切に願う。
『蕎麦湯が来ない』 これまでのシリーズでは、写真も著者のふたりが撮影担当していたが、本書では本シリーズを手がけてきたデザイナーの小野英作氏によるもの。404句の自由律俳句と50編の散文を収録。マガジンハウス 1400円
写真左・せきしろ 1970年、北海道生まれ。文筆家。ハガキ職人、構成作家を経て、2006年に初の単著『去年ルノアールで』(小社刊)を出版。『たとえる技術』(文響社)、小説『海辺の週刊大衆』(双葉文庫)ほか、単著、共著多数。
写真右・またよし・なおき お笑い芸人、作家。2015年、小説デビュー作『火花』で芥川賞を受賞。小説のほか、随筆や自由律俳句の世界でも才能を発揮。『又吉直樹のヘウレーカ!』(NHK Eテレ)などテレビの冠番組も持つ。
※『anan』2020年4月1日号より。写真・中島慶子 取材、文・三浦天紗子
(by anan編集部)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
荒川区俳句のまち宣言10周年記念俳句吟行会を開催
PR TIMES / 2024年7月16日 10時15分
-
俳句はキレ、精いっぱい生きて詠む 『俳句表現』を出版した本紙俳壇選者、宮坂静生さん
産経ニュース / 2024年7月13日 12時0分
-
千原ジュニア、芸人で異例の「句碑」福知山市が建立を発表 『プレバト!!』夏井いつき先生の声に故郷が動いた!
ORICON NEWS / 2024年7月12日 19時17分
-
【7/8〜7/14の運勢】7月2週目の運勢はどうなる?SUGARさんが贈る12星座占いをチェック!
isuta / 2024年7月7日 22時5分
-
俳人・長谷川櫂さんを詩の先生に迎え「ライトハイク教室」を開成中学校・高等学校にて実施
PR TIMES / 2024年7月1日 19時15分
ランキング
-
1ドラマ「西園寺さん」ヒットの予感しかない3理由 「逃げ恥」「家政夫ナギサさん」に続く良作となるか
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 20時0分
-
2なぜ?「N-BOX」新型登場でも10%以上の販売減 好敵「スペーシア」と異なる商品力の改め方
東洋経済オンライン / 2024年7月17日 9時30分
-
3丁寧な言葉遣いで一見おとなしい人ほど陰湿攻撃がエグい…「目に見えない攻撃」を繰り出す人「6パターン」
プレジデントオンライン / 2024年7月16日 15時15分
-
4月々のスマホ代を「高いと感じる」…「2000円もすることに驚いた」「安いプランなのに高い」格安プランに乗り換える?
まいどなニュース / 2024年7月16日 19時45分
-
5「これは奇跡...」破格の1人前"550円"寿司ランチ。もうこれ毎日通いたい美味しさ...。《編集部レポ》
東京バーゲンマニア / 2024年7月16日 7時2分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)