今、未来が不安なら…幸運につながる「注目ワード」#36
ananweb / 2020年5月15日 19時40分
新型コロナウイルス蔓延の犯人探しに、先進国と中国が対立したり、フェイクニュースで魔女狩りが始まったり。その根本にあるのは、命と経済の両方が守られた安心して暮らせる場所を求めている私たちの気持ち。本当は誰かを批判したり、奪ったり蹴落としたりしたいわけではありません。では、安心や信頼ができる未来創りに必要なものは? そこでは「感謝」の心が鍵を握ります。シンガポールで行われた「感謝」についての最新研究結果と、ベストセラー本『GIVE & TAKE』のメッセージを、望み通りの新しい時代をデザインする私たちに送ります。
文・土居彩
【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 36
■ 先が見えない未来は、自分でデザインすればいい。
先が見えない未来にどう向き合えばいい?
これに対する「パソコンの父」こと天才計算機科学者のアラン・ケイの答えは、「未来を予測するのに一番いい方法は、それを発明すること」。
つまり先がわからないなら、自分でそれを願いどおりにデザインすればいいということ。
確かにパンデミックの先にある未来は、今私たちの決断で創られます。それはテクノ主義的な監視国家で発言の自由や安全が奪われる可能性も、また今回の台湾政府のマスク買いと分配の事例のように、情報が適切に管理されることで命や安全が守られていく可能性もあります。
その方向性を決めるのが、私たちの意図や意識の力。「仏陀のナイフのたとえ話」というものがあります。ある人がナイフで人を刺して、その人を殺してしまいました。この同じ行動と結果のなかで、2つのパターンがあります。ひとつは、「奪おう」という意識で人を刺して殺したという強盗の話。もうひとつは、「救おう」という意識で開腹手術した結果、患者が亡くなった医師です。仏教の縁起では行為や結果が同じでも、意図が異なれば、全く異なる宿命を背負うことになるといいます。
■ 感謝が安心できる未来創りのコンパスになる。
それなら、“奪う、奪われる”という意識がベースの「不安」「不信」「不幸」「欠乏」ではなく、“与える、与えられる”が根本の「安心」「信頼」「幸せ」「豊かさ」にチャンネルを合わせて、未来を創っていきたいですよね。そのコンパスとなる感情が「感謝の心」です。
「感謝」とは、“感”という漢字が入っているように、心にありがたく”感じる”こと。頭で考えるだけではなく、胸がポッと温かくなったり、と感じることが大切です。体感することで心が開き、現実の経験として実感されていくからです。
感謝が妨害したい気持ちを鎮め、協力の心を育んだという、シンガポール国立大学の新しい研究結果があります(1)。実験の参加者は、A地点からB地点までなるべく早く着く必要があるゲームをして、競争相手に勝つために阻止するか、協力するのかを選びました。
このゲーム前に、参加者の何人かは感謝した出来事について書くように言われました。他の人たちはその代わりに、喜びを感じたこと、または特に感情を抱かない日課について書きました。
■ 感謝を感じると、人は協力的に。
感謝の気持ちを綴った人たちは、喜びや日課について書いた参加者に比べて、競争相手の邪魔をしませんでした。実験をさらにアメリカ人参加者を使って深めたところ、感謝の気持ちを感じた参加者はそうでない人に比べてゲームで負けたあとでも、対戦者が賞金を手にするための手がかりを協力して与えたといいます。気前のよい与え手になったのです。
実験では、感謝の心が共感力を育み、利己的な気持ちを緩めてくれることがわかりました。「情けは人のためならず」と、与えたものは自分に返ってくるというのが、ベストセラー本『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』のアダム・グラント博士です(2)。
博士は、まず先に贈れる「ギバー(与える人)」こそが、成功する時代だといいます。一方で「テイカー(奪う人)」の餌食になって、燃え尽いて、奈落の底に落ちてしまうのも「ギバー(与える人)」。そこで、利用されるだけで終わってしまう「損するいい人」にならないために、博士が重視するのは一歩先を見て未来をデザインすること。
それは、「安心」「信頼」という現実を創るために、相手の利益を理解して少し損をしても手を貸す視点を持つことです。例えば仕事を、犠牲的に身を捧げる場所としてではなく、スキルを身につけるための経験の場として捉えたら、雇用主にも自分にも有利な状況になります。例えば“世界一美味しいお茶を淹れるお茶汲み”など、素晴らしいスキルだと思います。お茶を習う授業料もかかりません。お金は使うと無くなりますが、学んだ経験は一生もの。状況や行為は同じでもこのように意識が変われば、体験も創造する未来も変わります。私たちがスイッチさえ入れたら、「安心」「信頼」に向かう未来は叶えられます。
■ 土居彩
編集者。東京の薪割り暮らしをイラストとともに綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤務し、anan編集部に所属。退職後に渡米しカリフォルニア大学バークレー校心理学部ダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。その後2年間のハウスフリー生活を行って、ウパヤ禅センターやタサハラ禅センター、エサレン研究所などで暮らす。現在は帰国し、棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』『Heart Sutra(般若心経 総合的ガイド)』(共にシャンバラ社)、小田まゆみ氏の『Sarasvati’s Gift』(シャンバラ社)を翻訳中。冷え性のコーヒー好き、グルテンアレルギー気味の焼き菓子ラバーです。
参考
1.Eri Sasaki,Lile Jia,Heng Yin Lwa &Mei Ting Goh(2020). Gratitude inhibits competitive behaviour in threatening interactions. Journal of Cognition and Emotion.https://doi.org/10.1080/02699931.2020.1724892
2. アダム・グラント著/楠木建監訳『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)
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