くるりの全歴史を凝縮!? “裏ベスト”的なアルバムが急遽リリース
ananweb / 2020年5月27日 19時10分
この終わりの見えない状況の中、どうやっていち早く作品を届けようか。くるりが全国ツアー中止とともに急遽リリースすることにしたのは、1997年から現在までの未発表曲を中心に収めたニューアルバム『thaw』だった。CDにはボーナストラック含めて15曲、配信は11曲。約24年間の歴史の中から厳選した曲が収められている。どこかで見たことのあるくるりも、まだ見たことのないくるりも詰まった裏ベスト的な作品になった。
1曲目の「心のなかの悪魔」は2009年制作。アルバム『魂のゆくえ』のレコーディングのため、ニューヨークのスタジオで録られた一度きりのリハーサルテイクにミックスダウン等も施していないそのままの音源だそうだ。シンプルで隙間の多いアンサンブルと岸田繁の優しく物憂げな歌声と世武裕子の美しいピアノ。ざらりとした生っぽい手触りは、目の前で親密な演奏が繰り広げられているかのような臨場感がある。長いアウトロのピアノアンサンブルは、当時のニューヨークの空気に想いを馳せるには十分な芳醇さだ。
最古の曲のひとつである「Giant Fish」は1998年に制作された。とても粗削りでグランジーなアンサンブルとブルースを叫ぶような岸田の歌は、同時期に作られ、くるりのメジャーデビューシングルとなった「東京」を想起させ、胸が掻きむしられる。
2011年3.11の直後、恐怖に怯えながらも、新たな一歩を踏み出すべく行ったセッションから生まれた「ippo」。岸田と佐藤征史、後にメンバーとして加入する吉田省念が分担して作曲し、セッションに参加した全員で作詞をしたという。未曽有の大災害を受け、振り切れたような楽天性かつ全能感に溢れたサイケデリックな民謡調の曲だ。
2012年、アルバム『坩堝の電圧』の制作に向かう中で生まれたという「evergreen」は、ボーカルの録音とミックスを今年3月に行い、8年の歳月を経て完成した曲。たおやかなバロック・ポップで、脈々と続く時間の流れの中で、本当に大切なものを抱きしめるかのような気持ちが漂っている。
たくさんの出会いと別れを経験しながら、その土地の匂い、時代の空気を豊潤な音楽にとじ込め続けてきたくるり。2007年、ウィーンに滞在しながらアルバム『ワルツを踊れ』の制作を行う時期に作られた佐藤によるインストゥルメンタル「Hotel Evropa」や、マサチューセッツ州でアルバム『NIKKI』に向けてのレコーディング中に生まれたという、驚くほどパンキッシュなロックンロール「さっきの女の子」も聴ける。森信行も大村達身も田中佑司も吉田省念もいるくるり。唯一無二のくるりの神髄が込められている。
くるり 左から、佐藤征史(Ba & Vo)、ファンファン(Tp & Key & Vo)、岸田繁(Vo & Gt)。1996年京都で結成。1998年シングル「東京」でメジャーデビュー。2016年バンド結成20周年を記念したオールタイムベストアルバム『くるりの20回転』をリリース。
未発表曲を中心に収録したコンセプト・アルバム『thaw』。2006年リリースのアルバム『TOWER OF MUSIC LOVER』初回盤収録の4曲を含む、配信は11曲、CDは15曲を収録。【CD】¥2,700(スピードスターレコーズ)
※『anan』2020年6月3日号より。文・小松香里
(by anan編集部)
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