SNSのつぶやきで気づいた! “自尊心を上げる美容本”の作者とは?
ananweb / 2020年5月30日 19時30分
“化粧品がちょっぴりしか載ってない美容本”を書き、大ヒット中の美容ライター・長田杏奈さん。「美容は楽しく、夢があるもの」と語る彼女の言葉には、女性への愛がたくさん詰まっています。
美容本といえば、キレイなモデルさんを使った、スキンケアやメイク、マッサージの方法、またおすすめの化粧品など、いわゆる“ハウツー”がたくさん載っているというのが一般的なスタイル。そんな中、昨年出版された長田杏奈さんの『美容は自尊心の筋トレ』は、写真ゼロ、文字のみ、しかも化粧品はちょっぴりしか出てこず、表紙はあぐらをかいてメイクをする女性のイラストという、前代未聞の美容本でした。多くの女性に勇気を与え、美容の方向性に一石を投じたともいわれるこの本を書いた長田さんとは、いったいどんな人?
■ 否定やダメ出しから入らない美容の楽しさを伝えたい。
――他者からキレイに見られたい、ということが目的の美容を決して否定するわけではないのですが、それと、長田さんが著書でおっしゃっている“自尊心を上げるための美容”は、同じ美容でもベクトルが違いますよね。どういうところから、そういった考えが生まれてきたのでしょうか…?
長田:美容ライターの仕事に慣れて、少し余裕が出てきた頃…、35歳くらいのときでしょうか。美容業界って夏は美白、晩夏は夏疲れ肌のケア、秋はエイジング、冬は保湿、春はゆらぎ肌のケア…というように、わりとカレンダー通りに動いているんですが、余裕が出てきたおかげで、カレンダー以外のテーマに目が行くようになったような気がします。取材で読者さんに会うと、「ここがコンプレックスだ」とか、「私はかわいくないから」とか、自分の顔にNGを出している人が多くて、実際はただ理想が高いか偏っているかしているだけで、普通に素敵な人ばかり。で、雑誌を開けば、「小さい目をデカ目に見せるテクニック」「低い鼻を高く見せよう」とか、生まれ持ったものを否定して、別の顔にする方法が載っている。小手先のコンプレックス解消が、根本的なコンプレックスを募らせているというか……。
――長田さんがその昔感じた、ワクワク感とは真逆ですね。
長田:はい。あと、「メイクするにも買い物するにも失敗したくない」「イタいと思われたくない」「正解が知りたい」っていう声が強くなってきた感じもありましたね。誰に何を言われたわけじゃなくても、“私、イタくない?”と、自分で自分を監視しちゃう人も増えた気がするし…美容って、もっと楽しくて、自由で夢やときめきがあるものじゃなかったかな? ずいぶん離れたところに来ちゃったな…と。目先のコンプレックスを解決する文脈で美容法や商品を溢れるほど提案することも、カリスマを唯一神みたいに持ち上げるのも、結局女性を悩みのループに閉じ込めている気もしましたし。もうそういうのにほとほと疲れて、とうとう養命酒を飲み始めちゃったんですよ、私(笑)。
――養命酒を…。
長田:そう。でも私は、雑誌に書く記事は、自分の主義主張を入れず、雑誌のトーンに合わせたものを書く、というのを美学としていたので、代わりにSNSに、少しずつ自分の思いや考えを書くようになったんです。でも些細なことですよ、「落ち込んだときに好きな色のリップを塗って、“好きな感じの顔”にすると、なんか励まされる」とか。そういうことをつらつら書いている中で、“私にとっての美容って、自尊心を育むためのトレーニングだな”と気がついて。意外なことに、そこに結構反応があったんです。「長田さんのツイッターやインスタを見て、化粧品を買おうと思った」「鏡を見られるようになった」「自分の顔が好きになった」みたいな声がちらほら出てきた。王道とされる美容に乗り切れない独り言にすぎなくても、それによって誰かが苦手なことが大丈夫になった、というのが嬉しかったですね。『美容は自尊心の筋トレ』も、私のSNSを見た編集者さんが声をかけてくれて、書くことになった一冊です。
――ここ数年、社会の中での女性のあり方や、生き方に変化が起きていると思いますが、美容の世界でも変化はありますか?
長田:少しずつ、特集のテーマが変わってきている気がします。例えば、“夏の体特集”みたいなテーマでも、昔なら「痩せてなきゃキレイじゃない」というような画一的なものでしたが、「私らしい体」みたいなひと言が付くようになったような気がします。
――今を生きる女性たちに、美容を通して、長田さんはどんなことを伝えたいと思っていますか?
長田:美容というツールを使ってセルフケアを習慣にしたり、自己表現を楽しんで、最終的には自信を持ってほしいです。ドヤ顔で威張りくさるパフォーマンスとしての自信じゃなくて、自分の姿や振る舞いに対して、身構えずリラックスできるような自信。自分に寛ぐことができれば「私なんか」と萎縮して感情や可能性にフタをせずに済むし、やりたいことにもっと踏み出せるようになると思う。自分をなおざりにして、人にいいように使われても仕方ない、これが現実だから、みたいな呪縛から離れるだけで、視界が開けると思う。美容のいいところは、化粧品という“モノ”があるから、入りやすいし実感しやすいところ。「とにかく自信を持ちましょう!」という精神論でも机上の空論でもない。好きな色と一体化して「なんかいいじゃん」、いい香りのスキンケアで「気持ちいい!」とかすぐに感じて動く何かがある。そういう体験を重ねると自分への愛着も深まるし、マインドを変えるスイッチにもなり得る。美容というミーハーでキャッチーでアガるチャンネルを通じて、女の人に課せられているいろんな“枷”を無力化するのが私が果たすべき役目だと思っています。とりあえず、現世は女性に尽くそうと思ってるんです。
長田さん責任編集の雑誌『エトセトラVOL.3 私の 私による 私のための身体』(エトセトラブックス)が発売中。1334人のアンケートをもとにした、女性の体への思いをまとめたレポートや、松田青子のエッセイ、はらだ有彩のマンガなどが詰まった一冊。6月には『あなたは美しい。その証拠を今からぼくたちが見せよう。』(大和書房)が発売予定。
おさだ・あんな 1977年生まれ、神奈川県出身。化粧品会社の美容部員をしていた母の影響もあり、10代の頃から美容に興味を抱く。大学を卒業後、IT系企業の広告営業を経て、週刊誌の契約編集者に。フリー転身後は、女性誌をメインに活躍。2019年に上梓した初の著書『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)が話題となり5度の重版が決定。
※『anan』2020年6月3日号より。写真・小笠原真紀
(by anan編集部)
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