今を生きる“女の子たち”への応援歌も 注目の女性詩人による詩集3選
ananweb / 2020年6月15日 19時0分
ヒップホップブームやツイッターなど、誰もが言葉をつぶやく場が広がった影響もあるのかもしれないが、ひっそりと書店の隅にいた詩が、いま新たな存在感を見せている。
■ 詩の人気が再燃。ブームを引っ張る女性詩人に注目。
「長い小説などを読むまとまった時間が取れなくても、純粋な言葉に触れたい、という読者のニーズが詩に向かっているのかもしれません」
と言うのは、雑誌『現代詩手帖』(思潮社)の編集者で、’10年代以降、多くの詩集を世に送り出してきた出本喬巳さん。若い詩人たちの台頭が著しいゼロ年代と’10年代の詩について、出本さんに解説していただく。
「ゼロ年代は、若者にとって大変生きづらい時代でした。そういった状況の中で自己のギリギリの生存を見つめ、切迫感や加速感をともなった詩編、たとえば中尾太一や岸田将幸、安川奈緒らの言葉は読む者の心をひりつかせ、その後の書き手たちにも影響を与えています。一方、’10年代に登場した詩人たちは、自己の内面を突きつめる以上に、まず外界へと意識の目を向けました。ベーシックな身体感覚を現代詩にとり戻すことでゼロ年代詩を乗り越えていったと読むことができるかもしれません。またSNSの隆盛やジェンダー観の変化など生活主体の多様化や揺らぎが顕著になった’10年代は、それに呼応した詩が増え、アーティストとのコラボなど表現にも広がりが。このころ暁方ミセイ、大崎清夏、岡本啓らが登場し、なかでも突出した存在感を放ったのが最果タヒです」
詩に対して構えすぎなくていい、と出本さんは言う。
「今日わからなかった詩が、閃きのように明日わかるかもしれない。10年後にわかる日が来るかもしれない。自分に刺さる一編や好きな詩人と出会っていくうちに、詩の世界の奥深さ面白さにきっと魅入られるはず」
出本さんイチオシの詩集をご紹介。まず気になるのはどれだろう。
■ 水沢なお
フィジカルな感覚と物語性を融合する独自の世界観。
『美しいからだよ』(思潮社、2019年)
「淡い色づかいの画集を思わせる趣、会話体による展開、短編小説のようなテイストが特徴的。〈これが最後の転生だからね。もう、無理に子孫を残す必要もないんだよ〉(「かいわれ」より)など、身体をもつことへの複雑な感情が全編渦巻いています。BLや百合、ポケモンから着想を得ていたり、感性に未来の可能性を感じます。今年の中原中也賞受賞作」
■ 紺野とも
ガールズカルチャーを、軽やかな言葉で描写。
『ひかりへ』(思潮社、2019年)
「『渋谷ヒカリエ』を連想させるタイトル。実際、各詩編の主人公は、渋谷あたりをそぞろ歩き、さまざまな地名や街景が書き込まれます。〈女の子たちは消費している/(略)/女の子たちは消費されない〉(「たわむれろ」より)など、都市の片隅にあることの自由と孤独、そして切なさ。今を生きる“女の子たち”への応援歌でありたい、というのが詩人本人の弁」
■ マーサ・ナカムラ
現実実現の先にひそむ超現実の世界をあらわに。
『雨をよぶ灯台』(思潮社、2020年)
「〈母の布団に針を撒いた/(略)/病院の窓硝子に心臓が映った〉(「鯉は船に乗って進む」より)といった予測のつかない展開と鮮やかなイメージによって、どの詩も良質な映画を観るように楽しめると思います。目論んでいるのは現実離れしたおとぎ話ではなく、細部まで世界を凝視しあらわにする超現実の芸術。詩人の驚異的なビジョンと直感におののくこと必至」
※『anan』2020年6月17日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)
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