度重なる浮気が発覚! その時パートナーは…フランス人監督が語る恋と愛
ananweb / 2020年6月18日 19時30分
恋愛において迷いが生じていると、「あのとき、あの恋が違う結末を迎えていたら?」と振り返らずにはいられないもの。そんな誰もが経験したことのある思いを描いた話題作が、“愛の国”フランスからいよいよ上陸します。それは……。
■ 幻想的な世界へと誘う『今宵、212号室で』
【映画、ときどき私】 vol. 304
大学教授のマリアは、夫リシャールとパリで2人暮らし。結婚して20年が経ち、いまではすっかり“家族”になってしまった夫をよそに、マリアは密かに浮気を重ねていた。ところがある日、その事実がバレてしまい、怒ったリシャールと距離を置くために、マリアは家の向かいにあるホテルの212号室へと逃げ込む。
窓越しに夫の様子を眺めていると、マリアのもとに20年前の姿をしたリシャールと元カレたちが次々と登場。ついには、夫の初恋の相手までがやってくるのだった。はたして、不思議な一夜の行方とは……。
本作は、主人公のマリアを演じたキアラ・マストロヤンニがカンヌ国際映画祭である視点部門最優秀演技賞を受賞し、注目を集めた作品ですが、今回はこちらの方に、見どころなどについてお話をうかがいました。
■ フランスのクリストフ・オノレ監督
映画監督としてのみならず、演劇やオペラの演出家、さらには絵本作家としても幅広い才能を発揮しているオノレ監督。そこで、夫婦や愛について描いた本作に込めた思いや舞台裏について、語ってもらいました。
―まずは、独創的なストーリーをどのようにして生み出したのかを教えてください。
監督
私がこの映画を作ろうと思ったきっかけは、3つあります。1つ目は、私自身がパートナーと長く暮らすなかで、カップルとしての自分たちの共同生活を振り返ったとき、そのなかで関係性がどんどん変わっていくのを感じたからです。なので、とても自伝的な作品でもありますね。
2つ目は、キアラ・マストロヤンニの存在。私は随分前から彼女とまた一緒に仕事をしたいと思っていました。実際、その間に何度かそういう話もありましたが、最終的にはどれも着地しないまま。でも、今回は彼女のいまの姿、つまり40代である彼女をすぐに撮りたいという気持ちがあったので、作品を実現させました。
そして3つ目は、ここ数年演劇を中心に仕事をしてきたので、それらの演出で培った演劇的技法を使って映画を撮りたいと思ったから。演劇ではリアリズムを大切にしてきましたが、この映画は自然主義に反するようなマジカルな作品にしたいというのが狙いでした。
■ キャスティングに関して最初は言い出せなかった
―なるほど。そのキアラの相手役を務めたのは、実生活で元夫であったバンジャマン・ビオレです。元夫婦だった2人に、危機に陥る夫婦役を演じさせるようというのは、なかなかすごいキャスティングだと思いますが……。
監督
いま話したように、キアラは絶対でしたが、バンジャマンの起用に関しては、最初は考えていませんでした。ただ、何人か名前は挙がるものの、この役に合った俳優がなかなか見つからないという状況が続いていたのです。
そんなとき、私のなかでバンジャマンを思いついたのですが、以前彼らが婚姻関係にあったことを知っていたので、私もすぐにはキアラに言い出すことができませんでした。ところがある日、この役について話をしていたら、キアラから「実はシナリオを読んだときに、夫役はバンジャマンがぴったりだと思っていたの」というふうに言ってきたのです。そのおかげで、彼に決定しました。
―とはいえ、オファーされたバンジャマンさんからも、すぐにOKはもらえたのでしょうか?
監督
それもとても簡単でした。というのも、バンジャマンはフランスではとても有名な歌手ですが、彼のフランス国内のコンサートに時々キアラが参加したりしてましたから。そんなふうに、2人は離婚してからも、芸術の面ではまだ一緒に仕事をしていましたし、今回の物語がフィクションであるということもあって、彼がこの映画に参加することに問題はなかったようです。
■ この作品では矛盾する愛と嘘を描いている
―ちなみに、現場でのおふたりの様子は?
監督
キアラは撮影中に、よく1人で笑い転げていましたよ。なぜなら、劇中のマリアとリシャールの夫婦関係が、実際の彼らの夫婦関係とは真逆だったから(笑)。そういったこともあって、妻が何人も愛人を連れてくるようなシーンを見ながら、キアラは少しあざけるように、でも楽しそうに笑っていました。
―もしかしたら、キアラさんのなかに、当時の復讐のような気持ちが少しはあったのかもしれないですね(笑)。
監督
そうですね。あと、特に彼女がウケていたのは、バンジャマンがキッチンで料理や洗い物をしたり、洗濯物を洗濯機のなかに入れたりするシーン。なぜなら、彼は実生活では絶対にこういうことをしない人だったからとのこと。だからこそ、自分の元夫が家事をしている姿を見て、大笑いしてましたね。
―それを知って観ると、違うおもしろさもありますね。この作品を観て、誰もが過去を振り返ったりすると思いますが、監督自身もこの作品を通して昔の恋愛を思い出すこともあったのでは?
監督
もちろん、これまでの自分の恋愛における失敗やいくつかの忘れられないとても大切な恋愛、なかでも精神的にとても繋がりが強かった関係について考えることはありました。特に、一緒に住んでいるカップルのなかには、愛という真実があり、同時にある程度の嘘というのもあります。今回、私はこの矛盾する愛と嘘というのをこの映画では描きたかったのです。
―そこには、ご自身が経験されたことも脚本に反映されているということですか?
監督
そうですね。映画作家として、ある程度自分が経験したことや自分が知っていることから物語を構築していくことは多いですから。この映画では長く続く愛情を映し出していて、主人公の女性がどのように変わっていくのか、その反応を追っていますが、最終的には彼女は“あること”を受け入れるのです。
■ 恋と愛における一番の違いとは?
―同じ女性として、興味深いところでした。また、劇中では、たくさんの恋とひとつの愛が描かれていますが、監督が思う恋と愛の違いとは何でしょうか?
監督
これは、とても難しい問題ですよね。ただ、「恋と愛で価値が違う」とは思っていません。たとえば、40年以上も一緒に暮らしている妻がいる男性が、ふと出会った女性に恋をして、隠れてキスをしたとします。たった1回でもその瞬間というのは、人生に深く刻まれるくらいの強さを持っているかもしれませんよね。
そういう強さは、恋でも愛でも変わらないですが、「これがあるからこそ生きていける」と思えるのが本当の愛。恋には、愛のように人を変えてくれるような何かはないのではないでしょうか。つまり、瞬間的に楽しいと感じることはあっても、愛ほどに他人の人生や生活を変える力はない、というのが私の考えです。
―素敵なお話ありがとうございます。それでは最後に、これから観る方に向けて一言メッセージをお願いします。
監督
読者の方のなかには、おそらくパリをとてもロマンティックな街の象徴だと考えている人が多いと思いますが、実際はパリの愛の物語も、東京の愛の物語も似ているもの。つまり、どこの愛の物語でも、残酷であると同時に魔法のようなものだということです。そういったところもぜひご覧ください。
■ 恋が導く愛の結末に胸がときめく!
まるで大人のためのおとぎ話のともいえるような“愛の魔法”が詰まったラブストーリー。数々の恋があったからこそ、愛の意味を知ることができたマリアとともに、真実の愛とは何かを探してみては?
■ マジカルな予告編はこちら!
■ 作品情報
『今宵、212号室で』
6月19日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、シネマカリテ他全国順次公開!
配給:ビターズ・エンド
©Les Films Pelleas/Bidibul Productions/Scope Pictures/France 2 Cinema
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