『日本沈没2020』湯浅監督「最初は正直アニメにはしづらいテーマだと」
ananweb / 2020年7月11日 19時0分
徐々に改善しつつあるものの、現在世界中が、新型コロナウイルスとの戦いという“これまで経験したことのない出来事”に直面している状況。エンターテインメントのクリエイターとして、この事態に直面したときにまず何を思ったのか、アニメーション監督の湯浅政明さんに伺ってみました。
■ 波乗りのように臨機応変に、新しいことに挑戦したい。
もしかしたら不謹慎かもしれませんが、まずは、何かものづくりをしたいな、という思いになりました。この時期を憂鬱に生きるのではなく、何か楽しく過ごす方法があるのでは、と。もし僕がミュージシャンだったら、海外の人とかともコラボをして音楽を作るだろうなぁ…と思っていたら、まさにそれを星野源さんがやられていたので、そこにアニメ動画で乗っからせていただきました(笑)。
――何かを表現したい気持ちになる、そんな出来事だったんですね。
そうですね。もちろん今回のようなこととは比べものにならないですが、普段の仕事でも、いろんなピンチが訪れるんですよね。そのときに「どうしよう、予定と違う!」と焦るのではなく、「じゃあ今までのものは全部捨てて、新しいやり方で!」とできるほうが、上手くいくし楽しめる。常にそういうスタンスでいたい、と思っています。昔アメリカから牛肉が輸入できなくなったときに、「お店を閉めよう」となった牛丼屋さんと、「じゃあ豚丼作ろう!」としたお店に分かれたんですよね。初志貫徹ももちろんカッコいいですが、僕はどちらかというと、手を替え品を替え、臨機応変にやっていって、最終的におもしろいものができればいいじゃんっていう、“波乗り”みたいなタイプなんで。だからこのコロナの自粛期間も、そんな感じで考えていました。実際、“人とネットで繋がってモノを作る”というスタイルも、まさにその“臨機応変型”ですよね。
――7月9日よりNetflixで配信となる、監督の作品『日本沈没2020』の登場人物たちも、そんなマインドの持ち主です。大地震のあと日本が沈没していくという状況の中で、戸惑いつつも、自らの手でなんとか未来を切り開こうとする。
この作品は’18年の夏から取り組んできたものなんですよ。
――世界中が大変な中での公開になりましたが、そのあたりはどんなふうに捉えていますか?
ん~…、でもそんなに深刻には考えていないです、エンタメですからね(笑)。こういう作品を怖がらずに楽しむことも大事でしょう。ただ、何か大きなことが起こったときに、日々当たり前だと思っていた自分の足場が揺らいだりするわけで、そこで人は、普段あまり向かい合っていなかったこと、真剣に考えてこなかったことと対峙すると思うんです。たとえばこの映画でいうなら、国土が沈むとなった場合、“日本民族って何なのか”“国って何なのか”とか…。人種の問題なんかもそうだと思います。僕は日本に生まれ、日本国籍を持ち、いろんなものを与えられ、文句を言うこともあるけれど、当たり前に生きている。でもそういうものって、失って初めて意味を認識する。今回はそういうことを描きたいとは思っていました。
――主人公の歩たちは、さまざまな場面で過酷な選択を迫られます。その度に、“個”であること、“個として考え方をしっかり持つこと”の必要性を痛感させられました。
世の中には、いろんな人がいて、さまざまな考え方があるんですよね。みんな同じものを見て、似たような生活をしているんだけれども、結構違うことを感じていたり、考えていたりする。若い頃は、多様性があんまり理解できなくて、人とわかり合えないことに苦痛を感じたりもしていましたが(笑)。人は、年齢、環境、さまざまな要因で変わるものなんです。これまで『日本沈没』って何度も映像化されている中で、たぶん個人とか家族にフォーカスをしたのは、今作が初めてだと思います。親、キャリアウーマン、YouTuber、引きこもりの少年、オリンピックを目指す少女などが出てきますが、異なる考え方を持ついろんな人間がいることをこの作品を通じて感じてもらえたら、とてもうれしいですね。
――なぜ今回は、“個”を描こうと思われたのですか?
最初にこのお話をいただいたとき、正直アニメーションにはしづらいテーマだな、と思ったんですよね。天変地異とかビルの倒壊などは、実は、アニメで描くのは相当難しい。描いたとしても、実際の映像を見た人や、それこそ現実を目の当たりにしたことがある人の心を動かす力は、絵にはないのでは、と。また、災害時に国を動かす人たちの話も、アニメ絵で延々会議のシーンを描いても、たぶんおもしろくない。僕がアニメーションをいいと思う理由は、シンプルに、物事をわかりやすく伝えることができるから。実写では情報量が多く視点が定まらない風景でも、アニメの場合は絵なので、見てほしいポイントを明確に提示できる。描き手の思いをもっとも極端に表現できるのが、僕にとってはアニメなんです。もちろん、絵であることの弱さもあるとは思います。俳優さんだったら、顔がドンと映ればそれだけで画になりますが、アニメの絵では存在感が薄いのでそうはいかない。ただ、シンプルだからこそできる、伝えられることはあると思うんです。情報量が少ないからこそ、観ている人の想像をふくらませることができる。
――監督が作られてきた作品の中でも、『日本沈没2020』は、かなりシンプルな作画ですね。
いつもだったら、アニメーション的なデフォルメを大きくしたりするんですが、今回はそれはあまりせず、お芝居もあまり大げさにせず、淡々とやっていこうと。追い立てられるように出来事が起こる中で、それを実感する間もなく前に進んでいかざるを得ない、そんな彼らの気持ちを表現したいと思いました。一枚絵としてはシンプルですが、ストーリーやセリフのやり取りの中で、リアリティを感じてくれたら、と思います。
■ 湯浅監督の最新アニメ作品
Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』
小松左京氏が’73年に発表した小説『日本沈没』を原作としたアニメ。架空の2020年、平和な日本に発生した巨大地震により、日本列島が沈没していく。14歳の主人公・武藤歩と彼女のごく普通の家族を中心に、未曽有の災害の中、極限状態で人は何を感じ、どう動くのかが描かれる。音楽は、3回目のタッグとなる牛尾憲輔氏が担当。全10話。7月9日~Netflixで全世界独占配信。©“JAPAN SINKS:2020”Project Partners
主人公の歩(左)は、頼りがいがある父と母、そしてYouTuberに憧れる弟と4人家族。
さまざまな出来事に出合う中で、歩の目の動きに心を奪われる。
地震後の東京の街並み。アニメならではのシンプルな描写が心に刺さる。
ゆあさ・まさあき アニメーション監督。1965年生まれ、福岡県出身。’99年に監督デビュー。代表作に映画『夜明け告げるルーのうた』、アニメ『四畳半神話大系』『映像研には手を出すな!』など。
※『anan』2020年7月15日号より。
(by anan編集部)
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