星野源「うちで踊ろう」が大成功したワケ DOMMUNE・宇川直宏が分析!
ananweb / 2020年7月8日 20時20分
今回のコロナ禍で、音楽ライブや演劇などのイベントが中止に追い込まれ、エンタメ界は軒並み厳しい状況に直面。そんな中、急速にニーズが高まったのがライブストリーミングや動画配信サービス。今やYouTubeにとどまらず、インスタライブなど、SNSを利用して簡単に自己表現できるようになった。そのライブストリーミングの先駆け的存在ともいえるのが「DOMMUNE」。2010年、日本初のライブストリーミングスタジオ兼チャンネルを個人で開局した、代表の宇川直宏さんに、コロナ禍における新しいエンタメの動きについて伺いました。
――DOMMUNEは、昨年秋に、渋谷パルコ9階のクリエイティブスタジオに移転し、「SUPER DOMMUNE」として進化。新たな文化の発信拠点を築いていこうと思った矢先に、自粛要請があり、すぐさま無観客でのライブストリーミングに切り替え、さまざまな活動を行っていますよね?
2月末、政府から大人数が集まるイベントの自粛要請があり、PerfumeとEXILEは当日のドーム公演を中止し、ライブ業界に激震が走りました。そんな中、3月1日に横浜アリーナでライブを行う予定だったBAD HOPが、コロナ禍において初めて無観客でのライブ配信を決め、投げ銭システムやクラウドファンディングを導入。これをきっかけに、日本のエンタメはオンラインの世界を求める動きが加速したように感じます。その直後、DOMMUNEは営業自粛を行うライブハウス、ナイトクラブなど文化施設に対する助成金を求める「Save Our Space」の記者会見を行いました。また小規模映画館支援のためのクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」立ち上げの記者会見は、DOMMUNEのスタジオで、無観客、無出演者、無記者で行ったんです。スタッフ以外、会場は無人で、各出演者をオンラインでつないでモニター越しに会見したのですが、従来の記者会見の様子を彷彿とさせるために、ソーシャルディスタンスの目安となる2m置きに水入りのペットボトルを置いて、人の気配を感じられる配慮も斬新な試みと絶賛され、3億円以上のクラウドファンディングが集まりました。この新しい記者会見のスタイルは、民放各局でも取り上げられ、さまざまな業界に大きな影響を与え、まさに世界がDOMMUNE化! ここまで注目されるようになったのは、我々が開局以来10年にわたって培ったノウハウを生かし、いち早く世の情勢に対応できたからこそだと思っています。
■ オンライン配信、Zoom、新たな視覚表現が定着。
――今回のコロナ禍で、世界中のアーティストたちが無観客ライブをオンラインで有料配信する動きがさかんになり、演劇人たちがZoomなどを利用して完全リモートで芝居やドラマを作成する動きが進みました。ライブストリーミングやオンライン配信は、新たな視覚表現の定型として、今後もエンタメ業界になくてはならないものですよね?
そうですね。さまざまな動画配信プラットフォームの勢いが加速し、メディアのヒエラルキーが完璧に崩れ始め、個の発信力や影響力が一層大きくなってきています。その代表ともいえる動きが、レディー・ガガが発起人となって世界中に呼び掛けた、医療従事者を支援するためのテレワークチャリティライブ。世界中の音楽ファンを魅了し、集めた資金はなんと約1億2800万ドル(約137憶円)! これこそ究極のエンターテインメントだと思いました。またZoomの爆発的な普及もエンタメ業界を大きく変えた要因です。フルリモート劇団「劇団ノーミーツ」が旗揚げしたり、上田慎一郎監督は短編映画『カメラを止めるな! リモート大作戦!』をZoomで製作。さらに、テレビのワイドショーやドラマまでもが、ソーシャルディスタンシングを意識して出演はリモート化し、Zoomを模したレイアウトで番組が制作され始めました。エンタメにとどまらず、これまでに対面で行ってきたミーティングやセミナー、飲み会、婚活、デートなどもクラウドミーティングで行われるようになり、何もかもスプリットスクリーン上に集約され、全ての表現がフラットになってしまいました。そこで改めて、今までは当たり前だった“人に会う”という行為の真の意味について考え始めた人も多いと思います。
■ オンラインでも会う感覚が得られる仕組み作りが大切。
――たしかにZoomを活用すれば時間や労力の節約にはなるけれど、直接コミュニケーションをとった感覚は得られませんよね?
会話はできても、会合はできないと思うでしょ? しかし、その一方で場所性を体感できるような実験も行われています。たとえばエンジニア集団の「ライゾマティクス」が行ったストリーミングパーティでは、現実のクラブ空間と同じように、オーディエンスのアバターに自分のアバターを近づけると相手と会話ができるようになり、逆に離れると相手の声は聞こえなくなるんです。会場に流れる音楽も同様で、DJブースとの距離を聴覚的体感に置き換え、リアル体験に近いオンラインコミュニケーション環境を作り込んだんです。僕が先日、アバターとして参加した「バーチャル渋谷」のオープニングイベントでの体験も新感覚でした。若槻千夏さん、SEKAI NO OWARIのDJ LOVEさん、バーチャルライバーのアンジュ・カトリーナさんとともに参加して、渋谷の街並みを完全に再現したVR空間を4人で散策したんです。もちろんみなさんと直接会ってはいないのですが、VRコントローラーを装着して、体を動かしながら自分のアバターを操作して会話することで、リアルにみんなで渋谷を歩いている感覚が得られたんです。これはそれぞれが渋谷に持つノスタルジアが発動し、人が発するエネルギー「アウラ(オーラ)」を感じて、共有性が深まったからだと、僕は思っています。まさに実世界を超えたところにある別世界。バーチャルやオンライン上の世界でも、場所や時間軸、はたまたノスタルジアなど、何かを共有することで、会ったり、一緒に体験したりという感覚が得られるんです。これは自粛要請中に話題になった星野源さんが作詞・作曲した「うちで踊ろう」のコラボ企画にも同じことがいえます。あれは、最初にインスタライブで投稿されたことがとても重要で、縦レイアウトで、1フレームの中でコラボレーションできる隙間を作ったことで、さまざまな人が音楽と映像をエディットしやすくなり、星野源さんと同じ空間の中にいるレイアウトが果たせたからこそ、プロジェクトは大成功したんだと思います。
うかわ・なおひろ 映像作家。1968年4月12日生まれ、香川県出身。DOMMUNE代表。グラフィックデザイナー、ミュージック・ビデオディレクター、VJ、文筆家、司会業など、多彩な顔を持つ。
※『anan』2020年7月15日号より。インタビュー、文・鈴木恵美
(by anan編集部)
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