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一通の手紙が発端に…目が不自由な独居老人に起きた想定外の出来事

ananweb / 2020年7月17日 19時0分

一通の手紙が発端に…目が不自由な独居老人に起きた想定外の出来事

いまや他人とのコミュニケーションもデジタル化が当たり前となっている時代ですが、手書きにしか出せない良さがあるのも忘れたくないところ。そこで、手紙が生み出す感動のストーリーをご紹介します。その映画とは……。
■ おかしくて温かい『ぶあいそうな手紙』


【映画、ときどき私】 vol. 312

ブラジル南部に位置する街ポルトアレグレ。78歳の頑固な独居老人エルネストは、隣国のウルグアイから来て46年が経つ。老境を迎え、ほとんど目が見えなくなっていたため、人生はこのまま終わるだけだと思っていた。

そんなある日、彼のもとに届いたのは、ウルグアイ時代の友人の妻からの手紙。自らの目で読むことができないエルネストは、偶然知り合った若い女性のビアに手紙を読んでくれるように頼むことに。そして、この出会いが彼の人生を変えることになるのだった……。

ラテンアメリカの各映画祭で大絶賛され、高く評価された本作。地球の反対側であるブラジルからいよいよ日本にも上陸します。そこで、こちらの方にお話をうかがいました。

■ アナ・ルイーザ・アゼヴェード監督!

物語の舞台であるポルトアレグレ出身のアゼヴェード監督は、映画界で35年以上のキャリアを誇る女性監督。今回は、本作が生まれたきっかけや作品に込めた自身の思いなどについて、語っていただきました。

―まずは、このような映画を作ろうと思った経緯から教えてください。


監督
 現在、私には高齢の両親がいますが、本作の共同脚本家も同じような状況にいるので、自分の周りに高齢者が多いから、という理由がまずは挙げられると思います。そのため、彼らがどういう生活をしているか、といった問題については非常に身近なことだと感じていましたし、彼らの状況を理解するのは、さほど難しくはありませんでした。

とはいえ、この主人公は78歳で、私よりもかなり年上なので、考え方は明らかに自分とは違いますよね。だからこそ、彼がどういうふうに物事を見るのか、ということについてはきちんと考えなければいけませんでしたし、視力を失いつつあるという設定に関しては細心の注意を払って描きました。

―ちなみに、この主人公にはモデルがいるそうですが、その方のどのようなところにインスパイアされたのでしょうか?


監督
 これは私の知り合いの父親でポルトアレグレに住んでいたイタリア人写真家ルイージ・デル・レの生涯から触発されたものですが、彼から感銘を受けたのは、長年会えずにいる妹に対して抱いていた思いでした。

そのほかにも非常に印象的だったのは、ずっと独立心を持って1人で生活していた人が年を取るにつれてだんだんとその独立心を失い、自分の息子に依存していくようになってしまう姿。そういったことについて本人がどう考えているのか、というのも興味をひかれたところです。

■ 典型的なブラジルとは異なる魅力を見せたかった

―なるほど。そのほかには、舞台となったポルトアレグレも大きな役割をはたしていると感じました。


監督
 そうですね。今回の映画を作るにあたり、入れたかった要素のひとつはブラジル南部についてでした。なぜなら、そこにはウルグアイやアルゼンチンが軍事独裁政権だったときに迫害から逃れた人たちがたくさん住んでいるから。

彼らは自主的に亡命した人たちではありますが、それでも自分たちの生まれた国の文化をずっと保ち続け、自身のルーツを大事にしながらいつかはきっと祖国に帰れると信じているのです。

―そういった背景があるからこそ、ポルトアレグレは日本人が思い描く典型的なブラジルのイメージとは違うんですね。監督自身にとっては地元でもある大切な場所だと思いますが、どのようなところが魅力ですか?


監督
 おそらくみなさんがブラジルと聞いて思い浮かぶのは、リオデジャネイロやサンパウロなどのトロピカルで楽しくてオープンないわゆる“ステレオタイプのブラジル”ですよね。でも、ポルトアレグレは、どちらかというと内省的で詩的でメランコリック。しかも、先ほども話したようにウルグアイやアルゼンチンの文化が交じり合っているので、ブラジルのイメージとはまったく違うものがあると思います。

劇中でもそういった部分を見せたかったので、あえてアルゼンチンやウルグアイの曲を使うなどして、音楽や映像の色彩によって違いを出すように意識しました。

■ 人生にある興味深い瞬間を描いている

―テーマに関する話に戻りますが、監督はこれまでにも“老い”を題材として作品をすでに2本制作されています。老いることに興味を持たれている理由とは? 


監督
 最初にも話したように、みな健在ではありますが、94歳の父、88歳の母、さらに113歳の祖父が近くにいるということが、私にとってはこういったテーマに目を向ける大きなきっかけになっていると感じています。

それだけでなく、人には「自分がどういう老後を過ごしたいのか」ということを決めなければいけないときが必ずやってきますよね。何かを決定しなければいけないときやさまざまな制約と向き合ったときにどう対処しなければいけないかなど、人生においてはいくつもの興味深い瞬間がありますが、この作品ではそういった瞬間を見ることができると思います。

―確かに、誰もが老後についてはそれぞれの思いを抱えているところですよね。


監督
 そうですね。考慮しなければいけない条件や肉体的な問題も出てきますから。そのなかで死ぬまで適当に過ごしていくのか、もしくは残された生を精一杯生きるのか、という2つに大きく分かれますが、この映画では、そういった選択を迫られた状況で主人公が若者と過ごすうちにいろいろなことを発見する姿を描いています。

つまり、自分でつくったルールだけを守って生活していた人が、「それだけが人生じゃない!」ということに気がつくわけです。とはいえ、老いと一緒に生きるというのは簡単なことではないですけどね。

■ 大切なのは、つねに前向きな気持ちでいること

―一般的に年を重ねることに対してネガティブになりがちな女性が多いですが、年を取ることの素晴らしさを日本の女性たちに語るとしたら、どんなことでしょうか?


監督
 まずは、「年を重ねることの素晴らしさ」についてですが、あるといいなと私も思っています(笑)。当然のことながら、年を重ねるなかではいろいろな制約が増えていくこともありますから。ただ、それだとしてもいいことはもちろんたくさんありますよね。

そんなふうに、「いいことをたくさん味わいながら生きよう」という考えを持てるかどうかは、大きいんじゃないかなと。でも、まだ自分の番が来ていないのに、死ぬことを考えすぎてしまったりするようなことはしたくないですね。どうしたら楽しくいろんなことを経験できるか、というのを考えることが大事だと思います。

―そういう考えを持っていられるかどうかが、大きな違いを生みそうですね。


監督
 実際、私の両親は高齢ですが、どうすれば一番幸せに生きられるかを実践している人たちなので、そんなふうに前向きでいることは大切なことだと感じています。生きていれば嫌なこともたくさんあるかもしれないですけど、いいこともいっぱいありますから。そういう気持ちをみなさんにも持ってほしいですね。

■ いくつになっても、人生には可能性がいっぱいある!

年齢や環境による制約があったとしても、人生が続く限りいつでも新たなスタートを切ることはできるもの。「最後の最後まで人生はわからない」という生き方を体現する人生の先輩から、その喜びを感じてみては?

■ 美しい予告編はこちら!



■ 作品情報

『ぶあいそうな手紙』
7月18日(土)よりシネスイッチ銀座、7月31日(金)よりシネ・リーブル梅田、伏見ミリオン座ほかにて全国順次ロードショー
配給:ムヴィオラ
© CASA DE CINEMA DE PORTO ALEGRE 2019

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