“本屋大賞”凪良ゆう、小説書き始める前の10年が「宝物の山」 その理由は?
ananweb / 2020年8月5日 20時0分
才能って何だろう? 持てる力を発揮できるフィールドが、きっとすべての人にある。作家の凪良ゆうさんに、ご自身の経験をもとに“才能論”を語っていただきました。
■ しんどいことをしんどいと思わない。楽しんでやれるということが才能。
小説を書く前はマンガ家志望。投稿など続けていた時代もあったんですが、うまくいかずにいったん離れました。10年ほど空いて、ある作品にハマったことをきっかけに、その二次創作をしてみようと思ったんですが、もうマンガは描けなかった。それで小説に挑戦してみたんです。いざ始めてみたら、書くこと自体がもう楽しくて、それ以外のことは何もやりたくなくなりました。それまで好きだった家事も全然やらなくなり、ひたすら書きました。すると、家族の不満が爆発。「そんなに毎日書くなら投稿でもしてみたら? 本にでもなればいいよね」と半ばイヤミで言われたんですね。普通なら、少し反省して家のことをやったりするのかもしれないけれど、私はもう書くことに夢中なので、「プロを目指すなら書いてもいいんだ!」と免罪符みたいに思ってしまったんです(笑)。
自分には小説の才能があるとかないとか考える前に、とにかく楽しくて、私の中にあるのはそれだけでした。引きこもりに近くて、友人にも「もっと外に出て遊んだり、息抜きしたら?」と勧められるのですが、私自身は小説を書くことこそが遊びで息抜きみたいな感覚でいるので、むしろ外に出かける意味がわからない。
もちろん書くことはしんどい部分もあるんですが、それも含めて最高に楽しい。自分が苦もなくやれること、人から見たらしんどそうでも、自分はしんどいとも思わずにやれることが、才能というものの別の形ではないかと私は思うんです。才能と聞くと、誰かに見出されて花開くというイメージもありますが、偶然見つけてもらえて、育ててもらえる人は本当にラッキーな人。多くは、さっき言ったように、自分にとってこれをしていれば心地いいと思うことをひたすら続けていくしかないと思うんです。その道で食べていけるかどうか以前に、何かを見つけられるかどうかが大事。見つけられれば、たとえプロになれなくても自分を幸せにすることはできるんですから。早く見つかればステキだけど、若いうちじゃなくてもいい。私自身も、書き始めたのは35歳を過ぎてからで、自分が本当に書きたいものを書けるようになるまでには多少の回り道もありました。それどころか、書き始める前の10年くらいは、自分でもどうかと思うくらい、ぷらぷらとその日暮らしで生きていました。
けれど小説家になったいま振り返ってみると、その何もしていなかった時期が宝物の山なんです。感じたことや考えたこと、経験したこと、人との出会いなどが引き出しに詰まっていて、物語を書いていると、その引き出しが開くんです。それは本当に貴重です。もちろん何かを成し遂げるために寝食を忘れて打ち込む時間も必要なんですが、あの“世間から見たらアカン10年”も同じくらい必要だったかなと思います。
私は好きになると猪突猛進型で、他は何も目に入らなくなる。小説家になる前もなったいまも変わらず、朝起きてから寝るまでずっと書いています。その分、バランスをとって優先順位も決めてうまくやれない。一つのことにすべて注ぎ込んでしまい、私には小説しかないというのが少し寂しくもあります。一方で、好きなことに全力を注いでいるのだから、他のものはなくてもしょうがないと納得している自分もいる。実際、「他のことがすべてダメになってもこれができればいい」と思うくらい満たされた瞬間があったから、いま私は書いているんですよね。その気持ちが湧く何かに、才能の糸口があるように思います。
なぎら・ゆう 2006年に『恋するエゴイスト』でデビュー。BL作品を多く手がけてきた。近年は一般小説でも活躍。‘20 年、『流浪の月』が本屋大賞に輝いた。近著に『わたしの美しい庭』(ポプラ社)などが。
※『anan』2020年8月5日号より。取材、文・三浦天紗子
(by anan編集部)
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