父親がPTSDの原因に…ハリウッドスターが打ち明ける幼少期の実体験
ananweb / 2020年8月6日 19時0分
生きていれば、誰もが抱えている人生の痛み。ときには、対処法がわからずに悩み続けることもありますが、長年にわたってその苦しみと戦い続けてきたハリウッドスターが自らの半生を赤裸々に描いた話題作がまもなく日本での公開を迎えます。それは……。
■ 世界各国の映画祭で称賛の『ハニーボーイ』
【映画、ときどき私】 vol. 316
若くしてハリウッドのトップスターに上りつめたオーティス。ところが、撮影に忙殺されるストレスからアルコールに溺れるようになり、飲酒事故を起こしてしまう。更生施設に送られたオーティスに告げられたのは、PTSDの兆候があるという驚きの診断だった。
原因を突き詰めるために、過去の記憶を辿るオーティスが真っ先に思い出したのは父のこと。人気子役として活躍していた12歳のオーティスは、前科者で無職の“ステージパパ”ジェームズの感情に振り回される日々を送っていたのだ。しかし、オーティスがカウンセラーに打ち明けたのは意外な言葉だった……。
サンダンス映画祭で審査員特別賞に輝いたのをはじめ、辛口映画批評サイトでも絶賛されている本作。実力派として評価されているいっぽうで、“ハリウッドの問題児”としても知られている俳優シャイア・ラブーフが、リハビリ施設で治療の一環として書き上げた自伝的脚本が基になっていることでも注目を集めています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。
■ アルマ・ハレル監督
ポン・ジュノ監督から「2020年代に注目すべき気鋭監督20人」の1人に選ばれるなど、新たな才能として期待されているイスラエル系アメリカ人のハレル監督。本作は、以前から交流のあったシャイアとの見事なコラボレーションによって誕生した傑作です。今回は、その背景や作品を通して得た気付きなどについて語っていただきました。
―最初にシャイアさんから、父親との話を聞いたときの印象はいかがでしたか?
監督
もともとは、私の1作目のドキュメンタリーを見たシャイアが連絡をくれたことがきっかけで知り合い、その後は一緒にMVを作ったり、私の作品を彼がプロデュースしてくれたりという関係でした。そんななか、彼から脚本が送られてきて、お父さんとの話を聞かされたんですが、心をギュッとつかまれるような思いがしたのを覚えています。まるで彼らと同じ部屋にいるような感覚に陥ると同時に、「この映画を作らなきゃ!」と思わせる何かがそこにはありました。
―オーティスとはシャイアさん自身を投影した役ということもあり、大人になったパートは自らが演じようと考えていたそうですね。ただ、それに対して監督が父親役を演じるようにシャイアさんに言ったそうですが、その意図を教えてください。
監督
それを決めたのは、シャイアが脚本の第一稿を送ってくれたときで、彼がまだリハビリ施設にいたころなので、かなり初期の段階でした。私がそうした理由は、脚本を読んだだけで実はシャイアが父親役を演じたいと考えて書いていることが伝わってきたからです。
ただ、彼にはそれを後押ししてくれる最後の一押しが必要だったんですよ。過去にも彼はドキュメンタリーのなかで、自分の若い頃を演じることで心理的な浄化、つまりカタルシスのようなものを得ようしていたことがありますが、今回はその続きのような意味合いがあったように感じました。
■ 依存症や虐待との戦いは一生かかるもの
―とはいえ、自身が抱えるトラウマを作品にし、自らそれを演じることはシャイアさんにとっては挑戦でもあったと思います。間近でご覧になっていて、変化を感じることはありましたか?
監督
もちろんありましたが、なかでも一番大きな変化を感じたのは、いろいろな国でプレスからのインタビューを受けているときでした。というのも、撮影中は本当に集中していましたし、彼はまるで自分のなかにいる“悪魔”に命を吹き込んでいるような状態でしたから。私も現場では、シャイアを通して彼のお父さんに会っているかのような感じがしたくらいです。
それがインタビューを受け始めると、どこか柔らかくなったと感じる部分がありました。もしかしたら、彼自身が背負ってきたものの重さや父親の期待に応えるためにどれだけがんばってきたのか、ということに自分で気づけたんじゃないかなと思います。
―それは父親役を自ら演じることで、シャイアさんがようやく得られた感情なのかもしれませんね。
監督
あとは、その頃はちょうど彼が断酒して1年経っていたときだったので、自分が取っていた行動が父親と重なるところがあり、いろいろな思いから解き放たれたように感じていたのかもしれないですね。
依存症や虐待との戦いは、魔法のように急に治るものではなく、一生かかるもの。だからこそ、そういったことに光を当てることは重要なことだと思っています。シャイア自身もその戦いとしっかり向き合っている人ですから。
■ シャイア以上の役者はいないと感じている
―確かに、その葛藤は作品からも伝わってきました。では、アーティストとして、そして人としてシャイアさんからインスピレーションを受けた瞬間があれば、教えてください。
監督
まずは、彼には何にでも挑戦できる能力があるところ。そして、演技をするうえでは真実をつねに模索しているところがすばらしいと思っています。役者としては、彼と同じレベルの人はいるかもしれないけれど、彼以上の人はおそらくいないと思うほど、私にとってはベストな役者です。
それほど瞬間的にその場所に存在し、真実に触れることができる力を持っている人だと感じています。あとは、彼は言語とのつながりが深いので、彼が選んで話している言葉を聞いていると、「あぁ、やっぱり物書きなんだな」ということがよくわかりますね。
―そういった部分は、劇中のシャイア像を作り上げていくうえでも、参考になったのではないでしょうか?
監督
そうですね。それと彼の興味深いところは、いままで演じてきたすべてのキャラクターに影響を受けていること。私は20代のシャイアを演じたルーカス・ヘッジズと2人で、シャイアが出演したいままでの作品を観ながら、それらがどんなふうに彼に影響を与えたか分析しました。
少年時代といまのシャイアが違うのは当然ですが、言葉使いなどを見てみると、これまでのキャラクターの堆積がいまのシャイアを作り上げている部分があることがわかったのです。
■ 3人の役者から若い男性の変遷を見ることができた
―非常に興味深いポイントですね。そんななか、10代のシャイアを見事に演じ切ったのは、天才子役と言われるノア・ジュプくん。圧倒的な存在感でしたが、現場での彼に驚かされたことはありますか?
監督
ノアもシャイアと同じように、その瞬間に存在することができる役者のひとりなんですが、一番驚いたのは、「なんて健康的な子なんだろう」ということでした。というのも、子役と仕事をするときにいつも心配なのは、みんな大人っぽいので、つねに演技しているんじゃないだろうかということなんですよ。きちんと子ども時代を経験できずに大人になってしまう人が多いのは、子役によくある話ですし、今回は特にそういった内容に話でしたからね。余計に気になっていたんです。
でも、ノアはちゃんと自分自身も周りも愛せる子で、家族もきちんとサポートしてくれているので、家族ともお互いの気持ちをしっかりと分かち合える環境にいます。その様子を見た私とシャイアは、「私たちは絶対にあんなふうにはなれないわね」と言っていたくらい(笑)。
新しい世代だからというのもあるかもしれないですが、それほどノアは自分自身とも居心地のいい関係を保っていると感じています。ノアとルーカスとシャイアは、それぞれ約10歳ずつ年齢が離れていますが、彼らを見ていると、若い男性が社会に対して持っている意識の変遷のようなものが見えるようにも思いました。
■ この作品で自分自身も成長を感じられた
―なるほど。また、今回描かれているのは、人生における痛みについて。誰もが何かしらの痛みを抱えて生きており、その痛みは人を苦しめるいっぽうで、ときに人を強くする部分もあると思います。監督自身はそういった人生の痛みとどう向き合っていますか?
監督
すごくいい質問だと思いますが、撮影が終わってからも、作品ができてからも、その問題は私自身のなかで、チョロチョロと水が流れていくような影響を与え続けているような気がしています。特に、こういった題材だと物語のなかにあるダークな部分に自分も入っていかないといけないですからね。
私の場合は、こうしてインタビューを受けているときに、いままで言えなかったことが話せるようになったり、父親との関係がより深くなったりするのを感じることがありました。そういう意味では少し気持ちが軽くなったところもあると思います。
おそらくそれは、私の父もアルコール依存症で、一か所に定住しないような人だったというのもあるかもしれません。私が父と一緒に時間を過ごせるのは映画館だったので、私たち2人にとってのお家は映画館でした。そういったことも全部つながっているような作品なので、これまでの過程を通して、私もいまの自分にたどり着けましたし、自分自身が成長できたと思わせてくれる作品になったと思います。
■ 痛みの先にある“光”を見つける!
役者の演技や映像美が観る者の心を掴んで離さない珠玉の1本。たとえ、内に抱える痛みやトラウマをすべて消し去ることはできなくとも、それらを胸に秘めたまま新たな希望を見つけることはできるもの。“ハリウッドスター” シャイア・ラブーフを通して感じる人生の光と影は、あなたの痛みにもそっと寄り添ってくれるものとなるはずです。
■ 琴線に触れる予告編はこちら!
■ 作品情報
『ハニーボーイ』
8月7日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:ギャガ
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