元宝塚・明日海りお「カッコ悪いなって思うことも多くて」退団後を語る
ananweb / 2020年9月8日 20時30分
美しいだけでなく、レベルの高いパフォーマンスで観客を魅了し、男役として高い人気を誇った元宝塚歌劇団花組トップスターの明日海りおさん。退団後の日々、女優としてスタートを切ったいまの思いを伺いました。
可憐なルックスと、舞台に登場した瞬間に観客の目を惹きつける圧倒的な華。そして、役の心情を丁寧にすくい上げた緻密な役作りに加え、情感溢れる確かな歌の実力の持ち主でもある。宝塚歌劇団で5年半という長きにわたり花組トップスターとして重責を担い、昨年11月に退団。公演と稽古に追われる怒涛の日々を終え、生活拠点も関西から東京に移し、女優として新たな生活をスタートさせた明日海りおさん。
「この10何年間は、稽古を重ねて重ねて本番を迎え、初日から千秋楽まで進化し続けるために試行錯誤する日々の連続でした。でも退団して、それが当たり前じゃなかったんだと実感したというんでしょうか。それまでは、つねに今日のベストを明日上回れるよう…目の前に極めるべきものがあるのが日常だったので、それがない生活になかなか慣れません(笑)」
これまでは“男役”という追究するべき明確な対象があった。しかし、これから向き合っていくのは“女役”でもなく、“明日海りお”という自分自身。
「“普通の女性”の角度が広すぎてしまって、どこを目指していいのかよくわからないんです。いまこうして話していても、ちゃんと女性の声になっているかなって思ったりしているくらい。これまではトップとして、みんなが安心してついてこられるような背中を見せなきゃと思ってやってきたつもりですけれど、いまは何をするにも慣れずに緊張してしまう。カッコ悪いなって思うことも多くて…早く整いたいです」
退団後最初の仕事は、ディズニー映画『ムーラン』のヒロイン、ムーランの日本版声優。
「宝塚を辞めて男役にサヨナラを告げてからじゃないと、この先何がしたいかわからなかったんです。退団して、今後を考え始めた時に『ムーラン』のオーディションのお話をいただいて。もともとディズニー映画が好きでしたし、剣幸さんをはじめ、宝塚の先輩でやられている方もいらして、私もぜひやってみたいと思いました」
ムーランは、自ら女性であることを隠し、男装して軍人として戦場に出てゆくキャラクター。これが声優初挑戦にもかかわらず、揺るぎない強さのなかに素朴な恥じらいや清楚な女性らしさを感じさせる演技は、まさに適役だ。
「プロの声優の方々のようなテクニックもないし、初めての現場で、何にこだわるべきかもわからない。そもそも女性の声を出すこと自体に違和感がありましたし、あらゆることがドキドキでした」
そう言って恥ずかしそうに笑った。しかし、在団中には宝塚の名作『ベルサイユのばら』で男装の麗人・オスカルを演じ、女性らしさや男性らしさにとらわれず作り上げた明日海さんの人間・オスカルは、多くの人の共感を呼んだ。
「私自身が男とか女とかいうことに関して、普通に生きているよりもたくさん考えているからかもしれません。これまでにもさまざまな役を演じてきましたけれど、人間じゃない役とか、性別を超越した役柄にも興味があります。今後、演じられる機会があれば嬉しいなと思っています」
もとより、幕が開いてからも役を追究し続け、日々深化させてきた人。芝居への情熱は変わらない。
「お芝居って正解がない世界じゃないですか。下級生時代からお世話になっていた演出家の方から、お芝居には千の鳥居があって、それをひとつひとつくぐりながら山を登るようなものだと言われていたんです。それなりに登ってきたつもりでいましたが、退団してみたら山はひとつじゃなく、まったく違うルートがありました(笑)。せっかく途中まで登ったのに、別の装備でイチから登り直しです。それでもめげずに、果敢に地道に登っていけたらと思っています」
こうと決めたらテコでも動かない強い信念の持ち主でもある。
「学び続ける、という姿勢はいままでもこれからも変えたくないと思っています。ひとつのところにとどまってしまったり、エネルギーダウンするのは嫌なんです。できるだけ上のステージを目指して、スキルアップしていきたいです」
いま明日海さんが思い描く、理想の女優像そして女性像とは。
「明日海りおってこうだよね、というところにとらわれたくないんです。こんな役が見たい、こんな姿が見たい、とおっしゃるものをつぶさに表現できたらと思います。個人としては、女性としてカッコいいと思ってもらえるような男前な生き方をしたいですね」
あすみ・りお 1985年6月26日生まれ。静岡県出身。主人公・ムーランの日本版声優を務めた映画『ムーラン』は、9月4日よりディズニープラス会員、プレミアアクセスで独占公開(追加支払いが必要)。
スカート¥44,000(メイメイジェイ/エスケーシー TEL:06・6245・3171) バーバリーヴィンテージトレンチコート¥58,000(SMITHS ARTIQUE TEL:03・3476・0609) ブーツ¥92,000(Malone Souliers/メゾン・ディセットTEL:03・3470・2100) タートルニットはスタイリスト私物
※『anan』2020年9月9日号より。写真・樽木優美子(TRON) スタイリスト・三浦真紀子 ヘア&メイク・平山直樹(wani) 取材、文・望月リサ
(by anan編集部)
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