ヒットのきっかけは“テレ東の低予算” 『ゴッドタン』Pが明かす
ananweb / 2020年9月25日 20時30分
ネット配信サービスの台頭で、幅広いコンテンツがいつでも楽しめるようになった昨今。そんな中、テレビの作り手はどう熱狂の火種を見出すのだろう? 敏腕クリエイター・佐久間宣行さんにお話を伺いました。
おぎやはぎや劇団ひとりといった、関東芸人の飛躍のきっかけになったといわれるお笑い番組『ゴッドタン』。“笑いといえば関西”という空気に一石を投じ、新しい笑いの熱狂を生み出したコンテンツとして、2005年のスタート以来人気は常に上昇中。この番組でプロデュースと演出を手掛けるのが、佐久間宣行さん。
「よくする話ですが、他のキー局に比べてテレビ東京は、本当に極端に予算が少ないんです(笑)。そこで、他局が取り上げるのと同じテーマの番組を作ったところで、絶対に勝てません。なので、どんな企画を立てるときでも、“他局とはかぶらない内容で”というのがベースにあります。『ゴッドタン』もまさにそれ。’00年代中頃は吉本興業の芸人さんメインの番組が本当にたくさんあり、だったら僕は、関東の芸人さんをメインに、しかも大御所ではなく自分と同世代で、ブレイク前の人たちに出てもらって、彼らと一緒に大きくなる番組を作ろうと思って始めたんです。かぶらないという意識から始まったものが、レアな立ち位置の番組になり、他にない独自性に愛着を持ってくれる人が増えた。それが、『ゴッドタン』が人気になった理由だと思っています」
その思いは、番組が始まって15年経つ今も変わらず。むしろ強まっているともいえる。
「常に同じことをしていてはダメ、という気持ちがあるので、この番組きっかけで売れた芸人さんに、レギュラーとして出演し続けてほしいとは思いません。もちろん売れてる人たちで固めたほうが視聴率は取れる。でもこの番組は、“これから熱狂を生む人”と仕事をする場所。そこはブレずにやっていきたいと思います」
芯はブレさせずに、価値観はきちんとアップデートしていく。それが佐久間さんが仕事において重要視しているポイント。
「特にこのコロナ禍を経験して、その思いが強くなりました。僕も含めて皆さん、今年の春から夏にかけては家によくいたので、暇な時間が増えましたよね。暇だから人生について考えたり、イライラしたりする中で、“この考えって、ちょっと古くないか?”と、価値観の変化を感じた人も多かったのでは。価値観は、時代に合わせてどんどん変わるものだし、そうあるべきもの。例えば僕はアメリカの青春映画が好きなんですが、昔からたくさん作られている中で、今一番おもしろいのは、やっぱり最新作なんです。昔は自己肯定感の低い若者たちが、それを高めていくことがテーマになった作品が大半でしたが、最近話題の『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』という映画の登場人物たちは、すでにみんな自己肯定感を持っていて、その上で多様性をいかに認めるか、ということが主題。確実に価値観がアップデートされている。僕はバラエティ番組もそうあるべきだと思っていて、古いパターンの笑いではなく、価値観が新しくなっているからこそおもしろいし、それで笑うのがいいよね、と思ってもらえる、そういう番組を作りたいんです」
■ コンテンツが増える中で、熱狂を生む仕掛けとは。
テレビや映画という既存のコンテンツに加え、ネット配信などエンタメの数は増える一方。これまでのようなやり方では、以前のような成功は得られない、とも。
「昔だったら、おもしろそうな企画はまず深夜帯で試してみて、反応が良かったら徐々に大きく育てて…という感じでした。でも今は、コンテンツの数が多すぎて、それでは気が付いてももらえない。熱狂してもらいたいなら、1年くらい時間をかけてじっくり準備し、一番強い演者を立て、注目度が高い時間帯に置き、徹底的に勝負しにいく。そのくらいの熱量がなければ、この時代の視聴者には伝わらないと思います」
この6月テレビ東京は、佐久間さんなど社員クリエイターが有料でネット配信をし、話題を呼んだ。才能のある作り手は、ジャンルの垣根を越えて活躍の場を見出し始めている。
「テレビは、今の牙城を守ろうとしてしまったら、終わると思います。逆に変わることを恐れなければ、新たな熱狂を生む可能性はまだまだある。個人的には、ラジオやネット番組、ライブ配信などは、“テレビでは使えなかったアイデア”を活かせる場所なので、テレビ以外の場所が増えるのはとても楽しいです。フォーマットが違うところに狩りに出て、そこで手に入れたものを持ち帰り、テレビで活かす。そのループを上手く回せる人が、おもしろいエンタメを作れるのではないかと思います」
ご自身の番組から、たくさんの“熱狂を生む芸人”を羽ばたかせてきた佐久間さん。何を持っている人が、“ネクスト熱狂芸人”になれると思うか、またそれをどう見抜いているのか、聞いてみた。
「芸風とかは時代ごとに違うんですが、共通しているのは、今売れていないことや自分がまだ小さい存在であることに、満足していない感じがある人でしょうか…。心の中に、自らに対する怒りの炎がある、そんな芸人さんは、売れていく気がします。なぜ僕が、そういう人と仕事をするのが好きなのか? そんな芸人が爆発する瞬間のおもしろさを、僕自身が一番そばで見たいから(笑)。完全にファン目線ですね」
さくま・のぶゆき 1975年生まれ、福島県出身。テレビ東京制作局プロデューサー、演出家、作家。お笑い番組『ゴッドタン』を手掛け、一躍注目の存在に。現在は『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』などを担当。『オールナイトニッポン0』水曜日のパーソナリティも務める。
※『anan』2020年9月30日号より。
(by anan編集部)
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