蓮沼執太 「単に就職したくなかったから(笑)」ミュージシャンに!?
ananweb / 2020年10月19日 19時30分
ソロ、映画や舞台の音楽、他アーティストへの楽曲提供など、蓮沼執太さんの音楽活動は多岐にわたる。なかでも大所帯なのが、26人編成の現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ、蓮沼執太フルフィル。そのニューアルバム『フルフォニー|FULLPHONY』が8月に配信リリースされ、10月28日にはアナログ盤とCDが発売。ほかにも音づくりを視覚化した展示など、さまざまなプロジェクトを手がけている。
――蓮沼さんは本当にいろんな活動をされていますが、そもそもその原点は何になるのか、キャリアのスタートから教えてください。
大学生の時に、都市や自然の音を録りに行くというフィールドワークをやっていて、それをもとに自分で曲をつくって、SNSにアップしたり、レコードレーベルにデモを送ったりしていたんです。そのうちにアメリカのインディーズレーベルから「アルバムを出さないか」とコンタクトがあって。僕も知っているレーベルだったので、ぜひということになりました。
――もともとミュージシャンになりたかったのでしょうか?
音楽は好きで、ハードロックとかヒップホップをよく聴いていましたけど、いわゆる“バンドやりたい!”みたいな感じではなかったんです。それなのに自分で音楽をつくり始めたのは、こう言うとチャラいんですが、単に就職したくなかったから(笑)。僕、中学、高校、大学とずっとぷらぷらしていたんです。でも、いま振り返ると、そんな自分でいることが、親に申し訳ないと思ったんでしょうね。ふと、何か作品をつくろうと。しかも、音楽だったらできるとなぜか思ったんです。それでコンピューターを買ってきて、曲をつくったのが最初です。
――で、アメリカのレーベルからリリースしたのが、’06年の『Shuta Hasunuma』?
はい。不思議ですよね。こんなことあるんだって。
――以降、音楽はもちろん、さらにそこから派生したアートなど、活動の幅を広げています。やりたいことを形にしていった結果、いまのような活動形態に?
作品づくりに関しては、自分がやりたいことっていうのも当然あるんですけど、それより何か問題意識とか、自分がやるべきことと照らし合わせてつくっていることが多いですね。自分の作品が、人や社会にどう反映するのか、など。そういうことを考えています。
――その思いは音楽をつくり始めた当初からですか?
いやいや、たぶん最初は自分のためです。誰に届くのかもわからないし、そもそも就職したくないから作品をつくるなんて、自分のためじゃないですか。でも、活動を続けるうちに、作品を通して社会のあり方とか、自分がどうやって生きているんだということを考えざるを得なくなってきて。30代になって責任感が生まれた、とかそういうことでもないけど、ただ、自分がつくりたい音楽を勝手につくり続けるのは違うのかなと。
――具体的にはいつ頃から、そう思うようになったんでしょう。
’10年ぐらいですかね。その年に父親が亡くなったんですよ。それで自分はなぜこれをつくっているんだろう。もう少しちゃんとやらなきゃと思うようになったんです。翌年には東日本大震災と大きいことが重なり、同時に僕が映画とか舞台とか他ジャンルとコラボレーションすることが増えていって。だけど、違う現場で仕事をしてみると、僕が感じている音楽の価値観とは差があることに、ある種のカルチャーショックを受けたというか。自分が音楽をやっていて、当たり前だと思っていたことがそうではなかったんだと。その辺りから、音楽との向き合い方が変わっていきましたね。
――’10年というと、蓮沼執太フィルを結成された時期でもあります。そういう大きな出来事が影響して、結成を思い立ったのですか?
なんというか、設計図を用意して“僕はこうなりたい”みたいなものは一切ないんですよ。フィルを結成したのも自分発信ではなく人に言われて。きっかけはマーカス・ポップというベルリン在住のアーティストの来日公演。その企画をした人が「蓮沼くん、ちょっと楽団みたいな感じで彼のライブで演奏してみない?」と言うので、「じゃあ、やってみます」って。
――「じゃあ、やってみます」でできることなんですか!?
何も考えていないんでしょうね(笑)。とりあえずフィルと名づけてライブをやったんです。でも、すごーく満足いかなくて、失敗というか。悔しいな、リベンジしてやろうっていうところから続いていくわけですが。そもそも他人と合奏することは、僕にとって特別な機会なんです。たとえば3人組のロックバンドとかなら、車一台でツアーに行くぜ、みたいなノリで身軽に動けると思うんですけど、フィルは16人(フルフィルは26人)もいるので集まるのが大変だし、演奏すること自体も大変で。ライブは年に数回。それに向けて1~2回リハをやって、本番が終わったら別れて…という関係性です。そういう意味で、みんなにとっても新鮮な場であり続けたいっていうのはありますね。
はすぬま・しゅうた 1983年生まれ、東京都出身。2006年、アメリカのWestern Vinylより『Shuta Hasunuma』をリリースし、音楽活動をスタート。’10年、蓮沼執太フィルを結成。’17年にオーディションで選ばれた新メンバーが10人加入し、26人編成の蓮沼執太フルフィルに。’19年、「第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞」受賞。
「windandwindows」など全10曲が収録された蓮沼執太フルフィルのアルバム『フルフォニー|FULLPHONY』。管弦楽器などの豊かな響きに、蓮沼さんや木下美紗都さんの歌声と、環ROYさんのラップが心地よく乗る。いつの日か野外ライブで聴きたい。10/28発売。CD¥2,545 アナログ盤¥4,546(Caroline International/Universal Music LLC)
※『anan』2020年10月21日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) インタビュー、文・保手濱奈美
(by anan編集部)
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