日本を絶賛! スイーツ好き垂涎の話題作で抹茶ミルクレープが重宝された理由
ananweb / 2020年12月3日 20時10分
1日のなかでも幸せな時間といえば、「大好きなスイーツを堪能しているとき!」という人も多いのではないでしょうか? そこで今回オススメする映画は、世界中のお菓子に触れることができるスイーツ好き必見の注目作です。それは……。
イギリスから届いた『ノッティングヒルの洋菓子店』
【映画、ときどき私】 vol. 346
ロンドンのノッティングヒルで、長年の夢だったお店をオープンしようとしていた人気パティシエのサラと親友のイザベラ。ところが、開店直前にサラが事故で急死してしまう。そんななか、夢を諦められないイザベラとサラの娘クラリッサは、絶縁していたサラの母ミミを巻き込むことを画策する。
何とか開店を目指して走り出したものの、パティシエは不在のままだった。そんな3人の前に現れたのは、ミシュラン二つ星のレストランで活躍しているスターシェフのマシュー。彼はあることを償うためにパティシエに応募してきたのだった。それぞれの想いを抱えた4人で、無事にサラの夢を叶えることができるのか……。
次々と登場する絶品スイーツだけでなく、人生のさまざまな分岐点を経験する女性たちの物語を描いた本作。こちらの方に、さらなる見どころを教えていただきました。
エリザ・シュローダー監督
この作品で、念願の初長編監督デビュー作をはたしたシュローダー監督。現在は、母国のドイツを離れて映画の舞台であるノッティングヒルに11年暮らしているそうです。そこで、お菓子作りが趣味でもある監督に、スイーツの魅力や日本の観客に伝えたい思いについて語っていただきました。
―メインキャラクターとなるのは、人生のスタート地点に立ったばかりのクラリッサ、夢と現実の間で揺れるアラフォーのイザベラ、そして孤独を抱える高齢のミミという三世代の女性たち。彼女たちを描くうえで、意識したことはありましたか?
監督 私にとって重要だったのは、幅広い観客にアピールできるキャラクターにすること。特に女性には、3人のうち少なくとも1人にはどんな形でも共感してほしいと考えました。ただし、それに年齢は関係ありません。若い人がミミの頑固さに惹かれる場合もあれば、年齢の高い方がクラリッサに思いを寄せる場合もあるはずですから。
彼女たちは三者三様で、それぞれ人生の違うステージに立っているので、観ている方々がそのなかの誰か1人、もしくはそれ以上と繋がってもらえたらいいなと思って作りました。
―監督自身が繋がりを感じているキャラクターはいますか?
監督 年齢的にはイザベラになるんだと思いますが、一番共感したのはミミかもしれないです。というのも、私も彼女と同じでけっこう複雑なところがある性格なんですよ(笑)。でも、正直に言うと、すべてのキャラクターそれぞれに繋がりを感じています。
多様性のある場所にインスピレーションをもらっている
―ロンドンといえば、さまざまな人種や文化がミックスされた街だと思いますが、そのなかで暮らす監督が多様性の素晴らしさを感じるような経験があれば教えてください。
監督 劇中に出てくる『ラブ・サラ』というお店の場所は、本作に協力してくれたロンドンでも大人気のデリ『オットレンギ』の近くにあるゴールボーン・ロード。ノッティングヒルのなかでも一番多様性のあるエリアなので、映画にリアルさを持たせるためにもここで撮ることにはこだわりました。本当にいろいろな国から人が集まっていますが、富裕層もそうではない層もみんながうまく一緒に生活をしているとても美しい場所なんですよ。
実際、私もつねに違う文化に触れ、新しい発見がある毎日を過ごしています。たとえば、いつも『オットレンギ』でコーヒーやケーキを買うので、スタッフのみなさんとも親しくなりましたが、どこの国の人でもどんな背景を持っていようとも、誰にでもフレンドリーでオープンに接してくれるんです。
これは、私の国ドイツではあまりないことなんですよね。多国籍でクリエイティブな人も多いので、いつもたくさんのインスピレーションをもらっています。
―映画に登場するさまざまなスイーツについてもおうかがいしますが、日本の抹茶ミルクレープがある大きな役割をはたしています。その理由について教えていただけますか?
監督 今回はフードスタイリストと相談しながら劇中で使う各国のお菓子を決めていきましたが、デリケートでエレガントさのある特別なお菓子を探していたときに、彼女が提案してくれたんです。日本のものづくりはとても繊細で洗練されているので、そういったところを象徴しているケーキでもあると感じて選びました。
抹茶ミルクレープはこの作品を通して初めて知りましたが、いまではすっかりスペシャリストになってしまったほど。街で一番おいしい抹茶ミルクレープを探し求めているところで、あちこちで食べ比べています(笑)。もし、仕事仲間とか感心させたい相手がいたら、間違いなく抹茶ミルクレープを食べさせますね。
お菓子を扱うことでいろいろな文化にも触れられた
―そう言っていただけると、日本人としてはうれしくなります。では、魅力的な世界中のお菓子が数多く並ぶなかでも、監督のオススメは何ですか?
監督 うーん、それは大きな質問ですね。間違いなく抹茶ミルクレープもトップのなかに入っていますが、私は「黒い森のサクランボケーキ」を意味するドイツのシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテが好きなんです。チョコレートケーキの一種で、けっこうヘビーなんですけど、たまにそういうものが食べたくなっちゃうんですよね。
あとは、『オットレンギ』のペルシャ風ラブケーキという少しスパイスが効いているケーキも大好きです。
―そのほかに、食べ物に関する忘れられない思い出などはありますか?
監督 私は小さいころから家族みんなで一緒にお菓子作りをよくする家だったので、食べ物によって自分の故郷や子ども時代を思い出すことはありますね。先ほども挙げたシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは、私の姉が作るのがすごく上手で、私はいまだに彼女ほどおいしく作ることができません。
でも、一緒に作ったという経験が私にとっては、いまでも家庭的な気持ちにさせてくれるものにはなっています。それから、この作品を作っていてよかったと思ったことのひとつは、いろいろな国のお菓子を扱うことによって、さまざまな文化に触れられること。それは、本当に素敵なことでしたね。
喪失と一緒に生きていくことも大切
―また、本作では大切な人を失った人たちの姿も映し出されています。監督自身、数年前にお母さまを亡くしたことをきっかけに、「死というテーマを尊厳ある方法で描きたい」と思われていたそうですね。大切な人を突然亡くしたときの喪失感とどう向き合うべきか悩んでいる人に監督が声をかけるとすれば、どんな言葉になりますか?
監督 誰かを亡くして、悲しみと向き合うということには終わりがないので、長いプロセスだと思います。私自身も母が亡くなった前と後では、人生における時間の流れが分かれてしまいましたから。そのなかで、相手の死を悼んだり、悲しんだりしてもいいんだということ、そして自分を許したり、何かを感じたりすることも必要だと感じています。
私と同じように母を亡くした男性から、「喪失感から少しずつ自分を癒していくなかで、楽になることがなかったとしても、どうやってそれと向き合って行けばいいかは徐々に学ぶことができるから」と言われたことがありました。私にとっては、その言葉が一番支えとなっています。つまり、喪失と向き合うだけでなく、一緒に生きていく、ということですよね。
―そうですね。監督のその言葉に、救われる人もいると思います。
監督 誰かを悼む気持ちが消えることはないので、そう思いながら先を見据えることはつらいかもしれませんが、この映画を観た方々には、希望も感じてほしいと思っています。大切な人が自分を誇らしく思ってくれるような何かをしたり、前に向かって行くことも必要なんだと、あるいは進んでいくべきなんだと感じてもらえたらうれしいです。
いまに見合った作品を作り続けたい
―とても大切なことだと思います。それでは最後に、仕事をするうえで貫いていきたいことがあれば教えてください。
監督 女性監督が前よりも増えてきたとはいえ、いまでも決して簡単なことではありません。特に今回はイギリスで作ったこともあり、私は自分が英国人ではないという意味での挑戦もありました。ただ、この作品の現場には世界中から集まった人々が参加してくれていて、本当に多種多様な肌の色、文化、言葉、考え方などがそこにあったので、自分だけが外国人だと思うことはありませんでした。
いろんな国籍の方がいたおかげで、たくさんの色彩を持った作品にもなったと思います。そんなふうに私たちが生きている社会というのは、すごく多国籍なので、これからもそういった多様性は大事にしていきたいなと。いまに見合った作品を多様な人たちと、これからも作品を作っていきたいです。
五感を刺激する美味しいひととき!
思わず喉が鳴ってしまうような極上スイーツの数々に目を満足させられるだけでなく、喪失から希望を見出す大切さや家族の絆、そして恋愛の楽しさまで、心も刺激されるはず。人生の甘さも苦さも詰まった本作をじっくりと堪能してみては?
取材、文・志村昌美心が弾む予告編はこちら!
作品情報
『ノッティングヒルの洋菓子店』
12月4日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:アルバトロス・フィルム
© FEMME FILMS 2019
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