“一発撮り”ありきではなかった…『猫』『紅蓮華』1億再生の「THE FIRST TAKE」
ananweb / 2021年5月28日 20時10分
2019年11月にスタートした音楽系YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」。この“一発撮りパフォーマンス”から次々とヒットが生まれている。プロジェクトの運営スタッフとクリエイティブディレクターの清水恵介さんに、いかにしてこの奇跡のチャンネルが生まれたかを聞いてみた!
音楽でワクワクできるコンテンツを作りたかった。
――“一発撮りで音楽と向き合う”という「THE FIRST TAKE」のコンセプトは、音楽系YouTubeの中、今までになかったコンテンツで、瞬く間に話題となりました。まず、どのようにこの企画が生まれたのか教えてください。
運営スタッフ(以下、運営):様々な要因がありますが、一つに既存のメディアからのプロモーショナルなヒットが、なかなか生まれにくくなっている現状がありました。若い世代はどうやって新しい音楽を見つけているのかというと、SNSで知り、YouTubeでMVを観たり、音源をダウンロードして聴いていた。まだストリーミングが視聴習慣の主流になっていない移行期でしたが、いずれ変化するだろうと思っていました。そういった流れの中で、デジタル上でストリーミングの再生に直結できるYouTubeチャンネルを作りたいと考えたんです。
清水:運営スタッフのみなさんから新しい体験ができる音楽チャンネルを作りたいとご相談を受けて、まず考えたのは「今の時代の音楽コンテンツに求められることは何か」ということです。音楽をどんな時に聴きたいと思うのか、どんな時に感動するのか、どんな時にワクワクするのか…。基本をいまいちど振り返り、ヒントを探していきました。
――音楽の聴き方が変わってきた時代に寄り添った音楽コンテンツを作りたかったんですね。では、そもそも“一発撮り”ありきでスタートした企画ではないんですね。
清水:そうですね。すでに世の中にあったテレビ番組や映画、動画配信サービスとは違う体験や価値を作るにはどうしたらいいのか、たくさんの動画コンテンツを研究して、チームで徹底的に考えていきました。
運営:まずこだわりたいと思ったのは高音質、高画質であるということです。それを落とし込むコンテンツとして、『MTVアンプラグド』など、アーティストが音源をリアレンジして披露したくなるような、洗練されたブランディングを持ったものを作りたいと思っていました。そして緊張感のあるステージは、やはり“わざわざ観たい”と思わせる魅力がある。それをYouTubeで実現する手法として辿り着いたのが“一発撮り”だったんです。YouTubeのプレミア公開機能は、視聴者がリアルタイムで観ながら、チャット上でコミュニケーションもできる。それもまた、デジタル上でライブをみんなで観ているような感覚に繋がっていると思います。
――“一発撮り”を引き立てるシンプルなビジュアルへのこだわりも、このチャンネルの魅力だと思います。
清水:撮影場所については、廃銭湯で撮ろうとかビルの屋上に小屋を立てよう、思い切ってスナックで撮るのはどうか、などいろいろ話し合いましたが、結局“音楽と向き合う”というコンセプトに合わせて、ミニマルな撮影手法がいいのではと気づきました。デザインに対する僕の基本でもあるのですが、できるだけ少ない要素まで削ぎ落とすことで、残ったものに本質が宿る。その考えがぴたりとハマった感覚があります。
――初回のadieuに始まり、話題性のある旬のアーティストや、注目の新人からキャリアのあるアーティストまで、ラインナップもバラエティ豊か。登場される方はどのように選んでいるのでしょうか?
運営:「THE FIRST TAKE」は、ブッキングの自由度を高くしています。音楽のジャンルやキャリアを問わず、幅広いアーティストのみなさんにご出演いただきたいと思っています。大事にしているのは、その日そのアーティストのドキュメンタリー性です。白いスタジオでマイク1本、一発撮りというフレームの中では、その人の個性や音楽に向き合う考え方が際立ちます。
――再生数1億回を超えた、『猫』や『紅蓮華』『夜に駆ける』など、チャンネルの知名度と楽曲の認知が同時に上がっていく相乗効果も見事だなと感じました。
『猫』は、オリジナルバージョンと合わせて累計ストリーミング再生数が3億回を突破。
『紅白』初出場直前に公開されたLiSA『紅蓮華』は、大きく本チャンネルの知名度を上げることに。
YOASOBI『夜に駆ける』もここからさらにヒット。その後、『群青』(写真)や『優しい彗星』も披露。
運営:adieuの時は、まだフォロワーゼロのチャンネルでしたが、詞曲を手がけた野田洋次郎さんが動画の感想をツイートしてくれたことも含め話題になり、再生数が伸びたんです。YouTube上の一つの音楽コンテンツが、SNSで拡散され相互に作用するのがクロスメディアの面白いところです。LiSAが圧倒的なパフォーマンスを披露してくれた『紅蓮華』にしろ、DISH//のメンバーが新たなアレンジで届けた『猫』にしろ、自宅にカメラを届けたYOASOBIの『夜に駆ける』も、ここだけにしかないパフォーマンスをしてくれたことで話題になり拡散され、動画再生数やストリーミングチャートにも結びつきました。
清水:最初の話に戻りますが、僕たちが“音楽と向き合う”ことに真摯に取り組んでいると、それにアーティスト側も気づいて応えてくれました。アーティストに出演したいと思ってもらえるチャンネルであることは、とても大事だと考えています。加工やフィルターが当たり前の時代だからこそ、本物の部分を大事にしたい。歌う息遣いや、ちょっとした手の動きも見逃さないように。友人に「このチャンネルは日本の音楽リテラシーを上げた」と言われ、とてもうれしかったです。視聴者の審美眼を侮らずに、より良くなることに愛を持ち、音楽の本質を届けたい。その原点はずっと変わらないですね。
一度きりのパフォーマンス。一発撮りで音楽を届ける、YouTubeチャンネル。
2019年11月にスタートした音楽系YouTubeチャンネル。「白いスタジオに置かれた、一本のマイク。ここでのルールは、ただ一つ。一発撮りのパフォーマンスをすること。」と、チャンネル概要にある通り、真っ白なスタジオでアーティストたちが一発撮りに挑む姿を高画質・高音質で切り取る。その迫真のパフォーマンスの数々は大きな反響を呼び、『猫』や『紅蓮華』『夜に駆ける』など再生数1億回を超えるものも。これまでに86組のアーティストが参加、147曲を配信。チャンネル登録者数は441万人に上る(データは5月13日現在)。
しみず・けいすけ THE FIRST TAKEの企画・クリエイティブディレクター。UNIQLO、SHISEIDOなどグローバルキャンペーンを手がける。
※『anan』2021年6月2日号より。取材、文・梅原加奈
(by anan編集部)
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