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妻子持ちの父、差別、孤独…天才彫刻家イサム・ノグチの作品に希望を感じる理由

ananweb / 2021年6月25日 19時30分

妻子持ちの父、差別、孤独…天才彫刻家イサム・ノグチの作品に希望を感じる理由

東京都美術館で『イサム・ノグチ 発見の道』が開かれています。20世紀を代表する芸術家のひとり、イサム・ノグチ(1904-1988)。彫刻だけでなく舞台美術やプロダクトデザイン、造園や作庭など幅広い分野で活躍した人ですが、その内面には多くの葛藤を抱えていました。彼の作品と生涯をご紹介します。

どんな展覧会?

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『イサム・ノグチ 発見の道』は、彫刻をはじめデザインの分野でも高く評価された芸術家、イサム・ノグチの大型彫刻や光の彫刻など約90件を紹介する展覧会です。

展示構成は「第1章 彫刻の宇宙」、「第2章 かろみの世界」、「第3章 石の庭」と3つのテーマ別に分けられ、章ごとに雰囲気の異なる展示空間が登場。最初のフロアでは、光の彫刻「あかり」150灯による圧巻のインスタレーション作品が出迎えてくれます。

展示されている作品は、国内外の美術館や個人コレクションから貸し出されたもので、特に香川県高松市牟礼町にあるイサム・ノグチ庭園美術館からは、同館の開館以降初となる21点もの作品がまとめて出展されています。

「彫刻とは何か」を追求し続け、さまざまな葛藤の末に自分の芸術を発見していったノグチ。その芸術活動のエッセンスが凝縮された展覧会です。

父には妻子が…

イサム・ノグチとは、どんな人だったのでしょう。その人生を振り返ってみます。

彼が生まれたのは、アメリカのロサンゼルス。父は詩人の野口米次郎、母はアメリカ人作家で教師のレオニー・ギルモアで、誕生したときすでに父は帰国していました。

3歳で母と日本に渡りますが、父にはほかに妻子がいるという複雑な環境。さらに通っていた小学校では、国際児として差別を受けます。日本人としてもアメリカ人としても居場所のないノグチは、孤独感を味わいます。

母の方針によりアメリカで教育を受けることになり、14歳で渡米。高校卒業後はコロンビア大学の医学部に進学します。医学生のとき、父の知人で世界的細菌学者の野口英世から芸術家になるよう助言されます。

彫刻家の道へ

20歳のとき、美術学校の夜間クラスで彫刻を学びはじめると、すぐに才能を認められて大学を中退。医者の道を捨てて彫刻家として活動をはじめます。

その後、奨学金を獲得してパリに渡り、著名な彫刻家ブランクーシの助手をしながら石彫を習得。アルベルト・ジャコメッティや藤田嗣治など、当時パリで活躍していた芸術家たちとも交流を深めます。

1929年、25歳でアメリカに戻ったあとは、肖像彫刻で収入を得ながら積極的に個展を開催。生活に困窮する時期もありましたが、舞台美術や公園の設計なども手がけ、徐々に成功をおさめていきます。

ちなみに、ノグチは若いころから恋愛体質だったようで、31歳のときには著名な画家、ディエゴ・リベラの妻で画家のフリーダ・カーロと大恋愛。しかし、ピストルを持ったリベラに追われて結局カーロと別れた……という逸話も残されています。

強制収容所へ…

1941年、日本がアメリカと戦争をはじめると、在米の日系人たちは難しい立場に置かれます。

ノグチは自ら志願して日系人強制収容所(ボストン戦時強制収容センター)に入所。所内の公園や施設のデザインをしたり、入所者に木工を教えたりします。

志願入所にもかかわらず、ノグチが出所しようとしたときには許可がなかなか下りませんでした。「どこにも帰属できない」というノグチの孤独感が、この戦争でさらに深まっていきます。

女優と結婚!

戦後は抽象的な家具のデザインをはじめるなど、活躍の幅を広げていきます。ノグチは「デザインと彫刻の境目はない」との考えをもっていました。

また、日本にも訪れ、建築家の丹下健三や画家の岡本太郎など、さまざまな芸術家と親交。さらに、岐阜に立ち寄ったとき岐阜提灯と出会い、ノグチの有名な照明器具「あかり」の誕生につながります。

父親との関係は複雑でしたが、父の祖国である日本の文化はノグチの創造に大きな影響を与えていきます。

1951年、女優として活躍していた山口淑子と結婚。日本人でありながら中国人の李香蘭としてデビューし、敗戦時には銃殺刑の危機にさらされるという数奇な人生を歩んでいた山口とノグチの夫婦生活は、世界各地を旅したりフランスに滞在したりと国際色豊かなものでしたが、5年ほどで離婚してしまいます。

晩年は各方面で活躍

晩年は日米を中心に活躍。

日本では、香川県高松市牟礼町にアトリエを構え、地元で代々石屋を営む和泉家の三男、和泉正敏と協働してさまざまな石彫を制作します。

アメリカでは、ニューヨークの公共空間に彫刻が常設展示されたり、各大学から名誉博士号を授与されたりするなどいっそう評価が高まり、1985年にはニューヨークにイサム・ノグチ庭園美術館がオープン。83歳のときには、レーガン大統領から国民芸術勲章を授与されました。84歳で心不全により亡くなるまで、彫刻の制作に励んでいたそうです。

希望を感じる彫刻

子どものころから日米どちらにも帰属できない孤独感に苦しみ、父親との関係も複雑で愛に飢えていたノグチ。さまざまな葛藤を抱えた彼が生み出した作品には、希望と優しさが宿っているように感じられます。

特に最後の「第3章 石の庭」では、石本来の美しさとクリエイティブを調和させたノグチ芸術の到達点が展示され、この空間にいるだけで心が洗われるような気持ちになれます。

『イサム・ノグチ 発見の道』は8月29日まで開催。

参考文献:展覧会公式図録『イサム・ノグチ 発見の道』
取材・文:田代わこ

Information

会期    :~8月29日(日)
会場    : 東京都美術館 企画展示室
開室時間  : 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
休室日   :月曜日※ただし、7月26日(月)、8月2日(月)、8月9日(月・休)は開室
観覧料   : 日時指定券 一般¥1,900、大学生・専門学生¥1,300、高校生以下無料
 

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