「児童の性的搾取」や『パンケーキを毒見する』も 社会派ドキュメンタリー5選
ananweb / 2021年9月11日 19時10分
社会問題を知って考えを深める、社会派ドキュメンタリー。ニュースだけでは浮かび上がらない社会問題をさまざまな角度から見つめる。ジャーナリストの佐々木俊尚さん、音楽エージェントの竹田ダニエルさん、ファッションの楽しさを発信するシトウレイさんが傑作をセレクト。
複雑な世界を捉え、斬新な視点を与える。
フリーのジャーナリストとして、現代社会に深く切り込む佐々木俊尚さんは社会派ドキュメンタリーの魅力をこう語る。
「さまざまな犯罪や災害、歴史的な出来事など世界で起きている事象について、ステレオタイプではない斬新な視点を与え、世界の断面を見事に切り取ってくれる。世界はどんどん複雑になり、以前のように単純な視点ではもはや認識できなくなってきています。古い世界観から脱却し、新しい“目”で世界を展望できるようにするためには、秀逸なドキュメンタリーで自分の“目”を磨くことが大切なのではないでしょうか」
そして、作品をより楽しむためのアドバイスも。
「ロシアを描いたドキュメンタリーだったら、現代のロシアが抱えている諸問題や政治状況などを、1960年代の黒人公民権運動を描いた作品なら、当時の運動がどのようなものだったかを知っておく。事前に調べておけば、より深く作品を楽しめます。また、“客観中立報道”とは異なり、製作者や監督の視点で事象を切り取り、一人の個人の見解であることを忘れないように。そうしないと、映し出されたものすべてが事実であるかのように混同してしまう。独特すぎて決して事実とはいえない視点を持ち込んでいる作品もたくさんあります。とはいえ、そういう作品のほうが面白かったりもするんですけどね」
新しい生活様式、これからの働き方を問う。
『東京自転車節』
緊急事態宣言下の2020年5月、人けのない街を疾走するのは自転車配達員たち。その様子を収めようとドキュメンタリー作家の青柳拓自身がスマートフォンとGoProで自転車配達員として送る日々を記録。友人の部屋やホテルを転々としながら、セルフドキュメンタリー形式で日常をスケッチする。
コロナ禍で仕事をなくし、ウーバーイーツの配達員になった若い映画監督の一人称で描いた作品。疫病と格差とギグワークの21世紀の現在をただ声高に言うのではなく、乾いたユーモアを交えてここまでリアルかつ情感たっぷりに描いた作品は類を見ない。多くの人が共感できると思う」(佐々木さん)
監督:青柳拓 2021年/全国公開中 ©2021水口屋フィルム/ノンデライコ
児童の性的搾取をテーマにしたチェコの衝撃作。
『SNS-少女たちの10日間-』
成人の女優が少女のふりをして、綿密に作り込まれた子ども部屋のセットを背景に知らない相手とチャットをする。少女(と思い込んだ相手)にコンタクトしてくるのは2458人もの成人男性。現代の子どもたちが直面する危険をありのままに映し出し、本国チェコでは異例の大ヒットを記録。
「少女に扮した成人の女優がSNSを開設し、そこに寄ってくる男たちとやりとりする様子をカメラで観察するという設定から不快ではあるのだが、あまりの衝撃に瞬きもできないぐらいの集中力で最後まで見入ってしまう。見たら嫌な気持ちになるのは請け合いだが中毒性も」(佐々木さん)
監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサク 2020年/各種デジタル配信中 ©2020 Hypermarket Film All Rights Reserved.
強制労働施設の過酷な実態を収容者が暴露。
『馬三家からの手紙』
“助けて”。アメリカに暮らす女性はスーパーで買った中国製の商品にそう書かれた手紙が入っていることに気づく。実はその手紙は中国の馬三家の「労働教養所」と呼ばれる強制労働施設から送られていたものだった。手紙を忍び込ませた一人の男性に焦点を当て施設での過酷な日々が映像で綴られる。
「ごく普通の中国人男性が国家と時代にもみくちゃにされ、運命に翻弄されていく。『過酷』という言葉以上にこの映画について語るものはありません。これを映画化できたことこそが奇跡」(佐々木さん)。看守たちによる拷問はアニメーションで再現されているがあまりの非道さに言葉を失う。
監督:レオン・リー 2018年/DVD発売中、各種レンタル配信中(詳細はHP) ©2018 Flying Cloud Productions,Inc.
正義感が権力に勝つ爽快さがたまらない!
『レボリューション―米国議会に挑んだ女性たち―』
巨額の富を持つ現職議員に対抗し、志高く2018年の下院議員選に出馬した女性新人候補者4人の戦いぶりを追う。史上最年少の女性下院議員となったアレクサンドリア・オカシオ=コルテスをはじめ、マイノリティであり反体制であり、女性である政治家たちが一般市民たちと向き合い、権力に対抗していく。
「巨大で強権的な既存勢力に立ち向かっていく姿には、勇気以上に敬意を強く感じられます。『普通の人』がどうしたら変化を起こせるのか。そのムーブメントを支援するために政治家が努力し、正義を勝ち取っていく。爽快であり感動的であり、何より政治の重要性を突きつけられる作品」(竹田さん)
監督:レイチェル・リアース 2019年/Netflix映画『レボリューション―米国議会に挑んだ女性たち―』 独占配信中
内閣総理大臣って本当はどんな人?
『パンケーキを毒見する』
“好物はパンケーキ”と話す現・内閣総理大臣、菅義偉とは一体どんな人物なのか。現役の政治家や元官僚、ジャーナリスト、各界の専門家が語り尽くし、これまで表に出てこなかった証言や過去の答弁を徹底検証。“庶民派”“苦労人”“無派閥のたたき上げ”と称される菅首相の知られざる素顔に迫る。
「権力への批判を厭わない作品で知られるプロデューサー、河村光庸さんの頭の中が全開で表現されている。ジャーナリズムとしても、ドキュメンタリーとしても、攻めた描写や構成に男気を感じた。人生を賭けてクリエイションする人の作品は見る者の心に強い爪痕を残すものだと改めて実感」(シトウさん)
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸 監督:内山雄人 2021年/全国公開中 ©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会
ささき・としなお 新聞記者、雑誌編集者を経てフリージャーナリストに。IT、政治、経済、食など幅広いジャンルで綿密な取材を踏まえた執筆を行う。映画.comでドキュメンタリー作品を紹介する連載を持つ。著書に『時間とテクノロジー』(光文社)ほか多数。
たけだ・だにえる カリフォルニア州出身・在住のZ世代。フリーランスの音楽エージェントとして活動する傍ら、アメリカ事情、カルチャー、アイデンティティ、社会をテーマにライターとして雑誌やウェブで執筆活動も。
シトウレイ フォトグラファー、ジャーナリスト。ストリートスナップからコレクション取材まで独自の観点でファッションの現在を映し出す。写真集『STYLE on the Street:from TOKYO and Beyond』(Rizzoli)ほか、YouTubeチャンネルも人気。
※『anan』2021年9月15日号より。取材、文・浦本真梨子
(by anan編集部)
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