“台湾映画”の新潮流とは? 4人家族の崩壊と再生を描く受賞作も
ananweb / 2021年10月17日 20時10分
ジャンル映画の隆盛など、バラエティ豊かな“台湾映画”に注目します!
「台湾映画には素朴な庶民目線の作品が多くありますが、それはホウ・シャオシェン監督やエドワード・ヤン監督が台頭し始めた’80年代からの系譜です」(日本映画大学学部長・石坂健治さん)
そんな台湾映画の真骨頂ともいえる家族を題材にしたヒューマンドラマは、今も良作揃い。
「『ひとつの太陽』は、中華圏を代表する映画祭『金馬奨』で作品賞など5部門を受賞」(台湾映画コーディネーター・江口洋子さん)
一方、そういったいわゆる台湾映画とは違うものが、最近、現地では盛り上がっているという。
「『セデック・バレ』のような大作も作られていますし、テーマも多様化しています」(映画評論家・くれい響さん)
「ゾンビものやサスペンス、ホラーなどジャンル映画に面白い作品がたくさんあります」(江口さん)
台湾映画の新潮流1:進化するジャンル映画の多様性
台湾といえば芸術映画や青春映画。と思いきや、今は他ジャンルもアツい!
『返校 言葉が消えた日』(2019年)
台湾で過去にあった“白色テロ”を題材としたサスペンスミステリー。舞台は、国民党による政治的弾圧が行われていた’62年当時のある高校。政府によって読むことを禁じられた本を読む読書会メンバーの男女2人が、人けのない放課後の校内をさまよい、脱出を試みるが…。「白色テロという社会的なテーマを扱ったホラーゲームが原作。それを実写映画化したところが画期的」(くれいさん)
©1 PRODUCTION FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED. 12月3日DVD&デジタル配信リリース 発売・販売元:ツイン
『ゾンビ・プレジデント』(2020年)
ワン・イーファン監督によるホラーコメディ。台湾の国会・立法院で、壇上に立った台湾総統が突如ゾンビ化。政治家が次々とゾンビウイルスに感染してしまう。「プロレス技を取り入れたハイテンションなアクションが満載で、笑いの要素たっぷり」(江口さん)。「自主映画を撮っていた時から面白い監督だと思っていましたが、劇場映画でもやっぱりオカシかった(笑)」(くれいさん)
©2020 Third Man Entertainment Co., Ltd. / Sky Films Entertainment Co., Ltd. / Lots Home Entertainment Co., Ltd. / Uni Connect Broadcast Production Co.,Ltd. / Greener Grass Culture Co., Ltd. / Across Films Inc. / Kaoh siung Film Fund All Rights Reserved 10月29日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか順次公開 配給:ブラウニー
『よい子の殺人犯』(2019年)
主人公は、アニメオタクの心優しい青年。日本のアニメに夢中で、同じ趣味を持つ女の子に恋をする。彼女との甘い夢が実現しようとした矢先、思いもよらないことが起こり…。アニメオタクの青年が起こした事件を通して、現代社会の闇や貧困、孤独などを浮かび上がらせる社会派ミステリー。「台湾のオタク文化を題材にした映画はこれまでになく、その実態を知れるのが新鮮」(江口さん)
©2019 ANZE PICTURES Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED DVD発売中 発売元:ディメンション 販売元:ハピネット・メディアマーケティング
台湾映画の新潮流2:家族の絆が胸を打つ多彩なドラマ
一家の崩壊や疑似家族など、さまざまなカタチにどっぷり浸って。
『ひとつの太陽』(2019年)
家族としてのバランスを失った一家を巡る物語。ある事件で少年院送りとなった、チェン家の次男。問題児の彼を父は完全に見放し、医大を目指す長男に期待を寄せる。一方、母は2人の息子に等しく愛情を注いでおり、夫婦間は諍いが絶えない日々に。そんな一家が予想もしない事態に見舞われ…。「4人家族の崩壊と再生を描いた作品。金馬奨で多数受賞するのも納得の秀作」(江口さん)
Netflix映画『ひとつの太陽』独占配信中
『親愛なる君へ』(2020年)
大切なのは血のつながりではない。そう考えさせられるヒューマンドラマ。主人公の青年は、亡くなった同性パートナーの家を間借りして、愛する彼の老婆とその孫の面倒を見ていたが、ある日、老婆が急死。その死因を巡って、青年は疑いをかけられてしまう。「胸を打つのは、『なぜ他人の面倒を見ていたんだ』と裁判官に問われた時の、青年のセリフ。思わず落涙…」(江口さん)
©2020 FiLMOSA Production All rights 全国順次公開中 配給:エスピーオー/フィルモット
『弱くて強い女たち』(2020年)
’90年代に日本でも大ブレイクした歌手で俳優のビビアン・スー製作総指揮・出演。長らく音信不通の父が亡くなったという知らせを受けた、70歳の母と3人の娘たち。自分たちの知らない父の暮らしや、愛人の存在を知ることになり…。「それぞれの女性たちの心模様が、繊細に、そして複雑に紡ぎ上げられている。お葬式のシーンでは、仏教と道教のせめぎ合いが台湾らしい」(江口さん)
©2020 Each Other Films All Rights Reserved Netflixにて配信中
石坂健治さん 日本映画大学学部長。東京国際映画祭「アジアの未来」部門シニア・プログラマー。専門はアジア映画史、日本ドキュメンタリー映画史。
江口洋子さん 台湾映画コーディネーター。俳優、監督情報など、アジアのエンターテインメントを紹介するサイト「アジアンパラダイス」主宰。
くれい響さん 映画評論家、ライター。映画誌、情報誌などさまざまな媒体での執筆や、『少年の君』『唐人街探偵 東京MISSION』といったアジア映画のパンフへの寄稿も多数。
※『anan』2021年10月20日号より。取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)
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