BTSが世界的な共感を得ているワケとは? エンタメから“いまどき男子”を分析
ananweb / 2021年10月27日 19時10分
エンターテインメントの世界からスポーツやファッションに至るまで、これまでの流れとは違う新しい価値観、生き方で脚光を浴びている“いまどき男子”たちをフィーチャー。そもそも“いまどき男子”とは、どんな男子なのか。エンタメやカルチャーの有識者が、注目の男性や時代背景から、その実像を分析します。
個人の幸せを決めつけない。人生の選択肢が多種多様に。
いまどき男子に迫るには、時代を映す鏡ともいえるテレビドラマでの男性の描かれ方も一つの手がかりに。
「いまは王道の胸キュンラブコメがある一方で、恋愛成就はもちろん、仕事の成功など男性に顕著だった“これが人生の幸せ”と思われてきたようなゴールを安易に描かないドラマも増えています。それは男女ともに価値観が多様になっているからでは。今年春に放送された『コントが始まる』は、男性の若手お笑いトリオを中心とした物語でしたが、ブレイクするか否かがすべてではなく、挫折しても互いを思いやるという彼らの姿勢に、いまどきの男性像を感じました」(早稲田大学演劇博物館館長・岡室美奈子さん)
現実社会でも、旧来的な幸せではなく、独自路線を行く男性が増えているそう。
「Z世代(’90年代後半~’00年代生まれ)は高級品で自己顕示欲を満たそうと考える人が減り、収入の高さが最優先ではなくなっている。それより誰かの役に立つなど意義ある仕事をしたい人が多い。たとえば、最近サステナブルな食料として注目されている昆虫を使ったレストランを経営する’94年生まれの篠原祐太さんなどは、その一人だと思います」(N.D.Promotion代表取締役・金丸雄一さん)
社会に対する問題意識を持ち、発信する。
今年上半期、ルッキズムをテーマとしたNHKのドラマ『きれいのくに』が話題となったが、その脚本を手がけたのが、’93年生まれの加藤拓也さん。
「このドラマは、美容整形が禁止された近未来をおもな舞台としたSFですが、外見至上主義による問題を、これほど真正面から扱った作品は、かつてなかったと思います。しかも、美容整形が悪いという結論でもないんです」(岡室さん)
単純に白黒つけないことで、一人ひとりがこの問題を考えるきっかけになる、ともいえるだろう。作品に社会的なメッセージを込めるのは、音楽にも共通する。
「なかでもBTSは、これまであまり男性が話題にしてこなかった、セルフケアや自分を愛することの大切さを発信している。国連総会では若者に向けたスピーチも行っていますが、世界的な共感を得ているのは、自身の経験も踏まえて偽りのない言葉で伝えているからだと思います」(音楽ジャーナリスト・柴那典さん)
繊細な気持ちがあるからこそ、相手に寄り添える。
「ドラマ史を遡ると、昭和の時代は心身ともに力強い男性が魅力的とされましたが、平成になると『東京ラブストーリー』のカンチのような優柔不断でありつつも優しい男性が人気になります。平成の終わりには『逃げるは恥だが役に立つ』で聞く力を持つ平匡が登場し、圧倒的な支持を集めました。そして“いま”の男性観が投影されていると感じるのは、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』の菅波先生です」(岡室さん)
菅波先生は、聞く力があるのはもちろん、ヒロインの百音の気持ちや立場を理解し、寄り添おうとする男性。
「彼が百音に『あなたの痛みは僕にはわかりません。でも、わかりたいと思っています』と言うシーンが象徴的。わからなさを正直に言葉にするところに、繊細さと誠実さが表れている。生きづらさを抱える女性が多いいま、こうして親身になってくれる男性が、時代的にも求められているのだと思います」(岡室さん)
女性の生きづらさを、自分ごととして理解しようとする。
いまどきは、女性自身だけでなく、男性も女性の生きづらさに言及するように。
「文芸の世界では、ジェンダーをテーマに取り入れた若手男性作家の小説が注目されています。たとえば君嶋彼方さんの『君の顔では泣けない』は、高校1年生の男女の心が入れ替わり、その後15年間元に戻らないという物語。語り手は、女性の体に入った男性です。妊娠や出産など女性の人生に起こりうる出来事を、男性の視点から見つめ返している点が圧倒的に新しい。個々の描写がとてもリアルで、“書き手は女性なのでは?”と話題を呼びました」(ライター・吉田大助さん)
この作品では、同時に、男性の生きづらさにもフォーカスを当てている。
「『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の大前粟生(あお)さんも、そのテーマを追求し続けている。ジェンダー意識のアップデートを小刻みに経験し、男女どちらの生きづらさも自分ごととして捉えている若い世代ならではといえます」(吉田さん)
無理に格好つけず、“嘘のない自分”を大事にする。
かつては男性たるもの、強がってしかるべしとの価値観もあったが、いまは自分らしさを大事にする男性が増えている。
「マッチョなイメージもあったヒップホップも最近は多様化してきていて、センチメンタルなリリックを書くラッパーのLEXさんなども人気です。また、Adoさんの『うっせぇわ』の作詞作曲で知られるボカロPのsyudouさんは、嫉妬や悪意、苛立ちなど、誰の心にもありつつあまり表に出したくないような感情を歌詞にし、むしろ共感を得ています」(柴さん)
また、SNSでも等身大の自分を発信する男性が支持される傾向に。
「大学生でTikTokerの修一朗さんは、飾らない日常を発信してフォロワー数が200万超え。日常とはいえ自分とは違う毎日を見られる面白さがあり、“映え”に疲れた人たちが安心してアクセスできるコンテンツでもあります」(金丸さん)
岡室美奈子さん 早稲田大学演劇博物館館長、早稲田大学文化構想学部教授。「テレビ史」などを担当。毎日新聞夕刊放送面にて、コラム「私の体はテレビでできている」を4週に一回連載中。
金丸雄一さん N.D.Promotion代表取締役。Z世代を対象としたシンクタンク組織「Z 総研」発足やZ世代をターゲットとしたプランニング、インフルエンサーのキャスティングなどを行う。
柴 那典(とものり)さん 音楽ジャーナリスト。ミュージシャンへのインタビューやレビューの執筆などをさまざまな媒体で多数行う。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)など。
吉田大助さん ライター。弊誌をはじめ、小説誌やカルチャー誌などで、文芸作品の書評や作家インタビューを行う。紙媒体14 誌+αの書評情報をTwitter(@readabookreview)で発信中。
※『anan』2021年11月3日号より。イラスト・WALNUT 取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)
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