希望が見えない助監督の光になりたい… 最終選考に残った映像クリエイター5人の下積み人生
ananweb / 2022年3月12日 17時0分
スマホやSNSの発展によって“1億総クリエイター時代”と呼ばれるなか、エンタメ業界では新しい才能が次々と登場しています。そこで、ananwebが注目するのは、次世代を担うであろう映画監督たち。今回は、新世代の映像クリエイターを発掘&育成するプロジェクト「Hulu U35クリエイターズ・チャレンジ」で戦う5名のファイナリストをご紹介します。
近藤啓介さん、老山綾乃さん、上田迅さん、幡豆彌呂史さん、吉川肇さん
【映画、ときどき私】 vol. 464
実施中の映像クリエイターコンペ「Hulu U35クリエイターズ・チャレンジ」とは、35歳以下でアイデアさえあれば誰でも応募ができ、最終選考まで勝ち進むと、制作費1000万円とプロの映画制作チームのサポートを受け、監督として作品を制作できるという革新的なプロジェクト。最終選考に残ったファイナリストたちが制作した作品は動画配信サービスHuluで独占配信されており、まもなく開催される授賞式でいよいよグランプリが発表されます。
849の企画から勝ち残ったのは、写真右から映画監督の近藤啓介さん、報道番組のADである老山綾乃(おいやま・あやの)さん、演出家の上田迅さん、大学生の幡豆彌呂史(はず・みろし)さん、テレビ局員の吉川肇さん。今回は、グランプリにかける意気込みや豪華審査員とのエピソードなどについて、語っていただきました。
―まずは、この企画に参加しようと思ったのはなぜですか?
老山さん 私は報道番組でADをしていますが、以前から自分で映像制作をしたいという思いはずっとありました。今回は、報道の仕事をしながら感じていたことを作品にしたくて応募したのがきっかけです。
幡豆さん 正直に言うと、私はお金に目がくらんで応募しました(笑)。というのも、最初は制作費が賞金だと勘違いしていたので……。大学では公務員になるための勉強をしていることもあり、脚本を書いたことはありませんでしたが、「企画書を出すだけで1000万円もらえるならば!」とインターネットで調べながら独学で完成させました。
―まったくの未経験でファイナリストになるとはすごいです。ちなみに、1000万円でしたいことがあったのですか?
幡豆さん はっきりとはありませんでしたが、私はアニメや漫画が好きなので、いろいろと爆買いできたらいいなとは考えていました(笑)。
憧れの監督に自分の作品を観てほしかった
近藤啓介さん作品
―確かにそれは楽しそうですね。ほかの方はどうですか?
上田さん 僕は普段からドラマの演出をしていて、10年ほど助監督もしてきたので、自分が書いたものを自分で撮りたいとつねに考えていました。そんなときにこのコンペのことをたまたま知ったので、挑戦することにしました。
吉川さん 僕もテレビ局でディレクター業務に携わるなかで、いつか自分で映画やドラマを撮ってみたいという思いが心の片隅にあったのがひとつめの理由。そしてもうひとつは、仕事に忙殺されているうちに、「自分は誰のために番組を作っているんだろう」という悩みを抱えるようになったからです。きっかけは、怖い上司に怒られないようにとか、偉い人にハマるようにと考えて作っている自分に気がついたこと。そのときに自分が本当にやりたいことに一生懸命向き合いたいと思ったので、一から出直す気持ちで応募しました。
近藤さん 僕がこのコンペに興味を持ったきっかけは、映画会社である東京テアトルさんが制作に入っていたことでした。過去には自分が作った自主映画をテアトル新宿で上映していただいたこともありましたが、一緒に映画を作れたらおもしろいなと。あとは、僕が憧れている沖田修一監督が審査員にいらっしゃったので、自分の作品を観てほしいという思いもありました。
緊張感をほぐして、肩ひじ張らずに観てほしい
老山綾乃さん作品
―現在、近藤さんの『脱走球児』、老山さんの『まんたろうのラジオ体操』、上田さんの『速水早苗は一足遅い』、幡豆さんの『鶴美さんのメリバ講座』、吉川さんの『瑠璃とカラス』の5作品が配信されていますが、ライバルだけどすごいと思った方や個人的に好きな作品があれば、教えてください。
老山さん 私は近藤さんの『脱走球児』が好きで、特にタイトルが出る瞬間までがいいなと思いました。スピード感があって、これから絶対におもしろい物語が始まるというワクワク感がすごく好きです。
近藤さん タイトルはスタッフさんの手書きで作ってもらったものですが、そう言ってもらえてうれしいです。僕はどれもおもしろいと思いましたが、それ以上にこんなにもみんな違う作品になるのかというおもしろさがありましたね。なかでも、幡豆さんはテロップや小道具の使い方とか、映画やドラマを撮ってきた人だったら絶対にしないことをしていたので、逆に勉強になりました。
幡豆さん 何も知らないのはハンデですが、強みになることもあるんだというのは私も感じました。たとえば、撮影を担当してくださったカメラマンさんはすごい方だったのですが、そのことを知らなかったからこそ「もっとこうしてほしい」といろいろな意見が言えたのかなと。ただ、いま思うと申し訳ないというか、やってしまったなという感じです……。みなさんの作品のなかでは、自分も関西出身ということでお笑いをテーマにした吉川さんの『瑠璃とカラス』がとても心地よく拝見できました。
吉川さん 僕は配信された瞬間にすべて観させていただきましたが、近藤さんの作品はさすがプロの映画監督だなと感じましたし、老山さんは報道の現場にいるからこその目線がかっこよかったですし、上田さんは女優さんの演出が見事でオシャレな作品だと思いました。そんななかで、僕が勝手にライバル視していたのは幡豆さん。コメディ要素が自分とかぶってしまうのではと心配していたからですが、想像の遥か上を超えてくる作品で、いままでにないようなエンタメ体験をしました。積んでるエンジンが違うというか、末恐ろしいですね。
上田さん 僕も個人的に一番好きだったのは、幡豆さんの作品です。全編通してエネルギーがずっと継続しているので、普通に深夜の連ドラを撮れるくらいのレベルだなと。ただ、下積みなしでこれをやられてしまうと、「僕の10年は何だったんだろう……」となりそうですが(笑)。
がんばって助監督を続けている仲間の光になりたい
上田迅さん作品
―今回は、沖田監督をはじめ、女優の橋本愛さん、小説家の本谷有希子さん、芸人のシソンヌ じろうさんという豪華な顔ぶれが審査員に名を連ねています。みなさんの前でプレゼンをしてみていかがでしたか?
上田さん 僕が一番印象に残っているのは、沖田監督の「長年助監督として下積みを経験して詰んできた人に撮ってほしい」という言葉。というのも、助監督のなかには、知識と実力があっても上に行けずに腐ってしまう人が多く、その衰退感と日本のエンタメ界が抱える危機を僕自身が10年肌で感じていたからです。第一線で活躍している監督が自分と同じ感覚であったことがうれしかったですし、救われる想いでした。同時に、未来も希望も見えない助監督業をがんばって続けている仲間の光に少しでもなりたいという気持ちが強まりました。
老山さん 私は橋本愛さんから「渋谷のラストシーンが印象に残っているので、たくさんの人に届くシーンになってほしい」と言っていただけたのがうれしかったです。私自身、このシーンは実験だと思っていたのですが、経験豊富なスタッフのみなさんが私1人の思考を超えた先にあるものを映像に残してくれたと思っています。
吉川さん 僕も橋本愛さんに「お笑いを作品にすることはハードルが高いと思うけど、だからこそ、その挑戦を見てみたい」とコメントしていただいたことが印象的でしたね。審査員の方々やスタッフさんに背中を押していただいたからこそ、自分がおもしろいと考えることから逃げず、正々堂々とお笑いをテーマにした映画を最後まで撮り切ることができたのではないかなと。あとは、最終選考の日が父親の誕生日で、シソンヌのじろうさんからもお祝いしてもらえたことがうれしかったです。最近、実家の棚にシソンヌさんのライブDVDが追加されていたので、父も相当喜んでいたんだと思います。
幡豆さん 私も同じく橋本愛さんですが、「アニメや漫画が本当に好きなんだろうなと感じた」と言われたときに、脚本を読むだけでその人の性格や好みがわかることに驚きました。あとは、二次選考で提出した経歴書の自己PR欄に「褒められるとよく伸びます」「期待の新人です」と書いたことにシソンヌのじろうさんが反応してくださったのがうれしかったですね。何一つPRすることができない私にとっては苦肉の策でしたが、「作戦成功!」と喜びました。
近藤さん 僕はピッチで審査員の方々の反応を見ていたのですが、シソンヌのじろうさんがまったく笑っていなくて怖くなりました(笑)。
「尊い」という“魔法の言葉”で高揚感を楽しんでほしい
幡豆彌呂史さん作品
―さすがに、最終選考会ならではの緊張感もあったんですね。それでは最後に、絶賛受付中のオーディエンス・アワードの投票に向けてアピールしたいことがあればお願いします!
上田さん 今回はどの作品も本当にクオリティが高いので、自分の作品だけでなく、まずは全作観ていただきたいですね。そのためにも、普及活動をこれからもがんばります。もし『速水早苗は一足遅い』を観て、コロナ禍で会いたいけれど会えない人に連絡を取りたいと思っていただけたらうれしいです。
近藤さん 僕の『脱走球児』は、ビジュアルやタイトルからかっこよくて甘酸っぱい青春映画のように見られがちですが、「ただの青春映画ではないぞ」というのだけはしっかりと伝えたいなと。子どもだけでなく、がんばっている大人にも響くような作品なので、青春映画だと毛嫌いせずに、まずは一回観ていただきたいです。
幡豆さん 私は中学生くらいからアニメや漫画を好きになりましたが、当時はアニヲタであることがマイナスイメージなんだと思ってなかなか周りに言えない時期がありました。でも、いまはそれもひとつのアイデンティティとして、大きな声で言えるようになったので、劇中でもそういう気持ちの高揚感を「尊い」という“魔法の言葉”で表現しています。同じような感情を持ったことがある人もない人も、ぜひ『鶴美さんのメリバ講座』を楽しんでください。
悩みを抱える人たちを笑顔にしたい
吉川肇さん作品
吉川さん 『瑠璃とカラス』のポイントは、青春を経験していない人間が作った青春映画であるところです。実は、僕は中学も高校もほとんど学校に行っていません。だからこそ、青春に対する強い憧れを本作では自分の想像力とアイデアで埋めながら描きました。あとは、僕がこの世で一番尊敬している芸人さんに対する思いやポップカルチャーへのリスペクトも入れているので、そのあたりも見どころかなと。「また明日もがんばろう!」と悩みを抱える人たちが笑顔になってくれたらいいなと思います。
老山さん 世の中では大きな見出しになるものばかりが取り上げられますが、私たちが日々生きているなかでは、モヤモヤすることや言語化できない悩みがいっぱいあると感じています。だからこそ、「みんなが苦しいから自分も我慢しないといけない」という緊張感を『まんたろうのラジオ体操』を通してほぐせたらと。ぜひ、肩ひじ張らずに観ていただきたいと思っています。
激しい戦いを制するのは誰か?
現在配信されているのは、それぞれの個性と才能が溢れた5本の短編作品と制作過程風景に密着したドキュメンタリー番組。夢をつかむために全力を注ぐファイナリストたちの姿からは、きっとエネルギーをもらえるはず。あなたの“清き一票”が彼らの運命を変えるかも!?
取材、文・志村昌美盛り上がりを見せる予告編はこちら!
プロジェクト概要
「Hulu U35クリエイターズ・チャレンジ」Huluにて独占配信中
オーディエンス・アワード投票受付:3月18日(金)18:00まで
最終審査・グランプリ発表・授賞式:3月22日(火)19:00開始、20:00終了予定
主催・企画・製作/HJホールディングス株式会社
制作・運営/東京テアトル株式会社
©2021 HJ Holdings, Inc.
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