「ジュエリーのような輝き…」館長が絶賛! 今しか見られない奇跡のアート
ananweb / 2022年4月24日 9時0分
東京駅丸の内駅舎内にある東京ステーションギャラリーで、『牧歌礼讃 / 楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン + 藤田龍児』がはじまりました。本展では、ヨーロッパと日本で活躍した2名の画家の作品を展示。どちらの絵画も、癒される雰囲気のものばかりですが、彼らは破産や半身不随など過酷な人生を送っていました。両画家と作品について、館長の解説もあわせてご紹介します。
どんな展覧会?
【女子的アートナビ】vol. 241
本展では、アンドレ・ボーシャン(1873-1958)と藤田龍児(1928-2002)の代表作を含む計114点を展示。
ボーシャンは20世紀前半のフランス、藤田は20世紀後半の日本で活躍した画家。生きた時代も国も異なる二人ですが、彼らの作品には楽園のような明るい光と自然への愛情があふれています。
この展覧会を企画したのは、東京ステーションギャラリー館長の冨田章さん。冨田さんは、「二人の作品は、いつか紹介したいと思っていた」といい、両者の作品を一緒に展示した理由について、次のように語りました。
冨田さん 二人には意外な共通点が3つあります。まずは、モチーフ。どちらも自然を描き、自然に対する愛着が感じられます。2つ目は、両者とも50歳頃を境に新しい画家人生をはじめた点。3つ目は、それぞれがノスタルジックで心が休まる絵なのに、どちらも厳しい暮らしをしていたという点。過酷な状況で、安らぎに満ちた絵を描くのはどういうことなのか、いろいろ考えさせられます。
半身不随を乗り越えて…
ーーでは、二人の画家の経歴と作品を見ていきます。まずは、藤田龍児から。
京都で生まれた藤田は、大阪市立美術研究所で絵画を学んだあと、1959年に美術文化展で初入選を果たし、毎年同協会で順調に出品を続けます。
しかし、1976年から77年にかけて脳血栓を発症。半身不随となり、利き腕の右手が使えなくなります。藤田は、画家の道を断念し、作品も大量に処分してしまいます。
その後、リハビリを経て50歳を過ぎてから左手で描き始め、1981年には個展を開き画家として復活。2002年に亡くなるまで、作品を制作し続けました。
大変美しく、ジュエリーのよう…
ーーでは、藤田の作品について、冨田さんの解説をご紹介します。
冨田さん 藤田の作品は、初期のころはシュルレアリスム風で抽象性が高い作品になっています。これが、前半生の重要ポイント。病気のあと、画風ががらりと変わり、メルヘン的でノスタルジックな作品を描くようになります。
特に注目していただきたいのが、細密描写と色彩。花や雑草の穂のところに紫やオレンジなど、ちょっとした輝く色を差しているのです。それが、見ているとふっと浮き出てきて、大変に美しく、ジュエリーのような輝きを持っています。この色彩の美しさが見どころのひとつです。
また、彼の作品には、エノコログサ(猫じゃらし)をはじめ、白い犬や蛇行した道、トンネルなど頻繁に出てくるモチーフがあります。特に、エノコログサは生命力の強さを感じられるモチーフ。藤田自身は、モチーフについて多くを語っていませんが、彼の人生や考え方を重ね合わせ、誤解でもいいので自分でいろいろ解釈してみるのもアートのひとつの楽しみ方だと思います。藤田は右手で20年、左手で20年描きました。50歳を境に、新しい画家の人生を歩み出したのです。
破産や妻の病気を乗り越えて…
ーー続いては、アンドレ・ボーシャンの経歴について。
フランス中部で生まれたボーシャンは、苗木職人として自分の農園をもち、結婚して順調に暮らしていました。その後、第一次世界大戦が勃発。徴兵され、数年間部隊で活動します。
除隊後、地元に戻ると農園は破産し、心労が重なった妻が精神を病んでいました。ボーシャンは妻を連れて彼女の故郷に行き、森の中に家を建てて自給自足しながら絵を描き始めます。
1921年、48歳でサロン・ドートンヌに初入選。次第に評価が高まり、何度か個展を開き1949年にはパリで大回顧展を開催します。1958年に85歳で亡くなるまで、精力的に制作を続けました。
斬新な描写が魅力
ーーでは、ボーシャン作品について、冨田さんの解説をご紹介します。
冨田さん ボーシャンは、美術教育をいっさい受けていない人で、アンリ・ルソー以来の最も優れた「素朴派」の画家ともいわれています。絵を描くようになったきっかけは、軍隊生活。彼はそこで測地術(測量したデータをもとに正確な地図を描く)を学び、その技術で上官から高い評価を得ました。
ボーシャンの作品は、稚拙にも見えますが、それが味わいになっています。プロの画家ではやらないような斬新な画面構成や描写が魅力です。
また、もともと苗木職人なので、花や自然をモチーフにした作品が多く描かれています。絵の特徴は、あらゆるモチーフが同じような鮮明さで描かれている点。風景画を見ても、手前の木も、奥の山や川も、すべて同じ強さで描かれています。正確に地図を描く測地術の影響かもしれないが、ひとつひとつの対象に対して同じ注意力で描いています。
ボーシャンと藤田は異質な二人ですが、彼らの作品は、のどかで牧歌的で響き合っている感じがします。どちらも見ていて心が和むし癒される。また、細部におもしろいところがあり、じっくり見るといろいろな発見があります。この展覧会で、ぜひ絵を見る歓びを感じてみてください。
今しか見られない!
館長の解説、いかがでしたか? この二人の作品を、これだけの規模で一緒に見られるなんて、奇跡のような展覧会です。
本展は巡回しませんので、今、東京で見ないと次回いつ機会があるかわかりません。くれぐれもお見逃しなく!
Information
会期 :~7月10日(日) ※会期中一部展示替えがあります(前期4/16~5/29、後期5/31~7/10)
休館日 :月曜日 *ただし5月2日、7月4日は開館
会場 :東京ステーションギャラリー
開室時間 :10時~18時
※金曜日は20時まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
観覧料 :一般¥1,300、大学・高校生¥1,100、中学生以下無料
※最新情報は公式サイトでご確認ください
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