IKKO「自分に自信がなく、人の目を気にしてばかりいた時期も」 自己否定に陥った過去
ananweb / 2022年6月29日 20時10分
毎日コツコツと真面目に生きていても、人と自分を比べて落ち込んだり、自分を好きになれなかったり、自分らしさを見失ったりするときは誰にでも訪れるもの。そんなときこそ、まずは自分にやさしくしてみませんか? 無理せず焦らず、“自己肯定”のはじめの一歩を踏み出そう。ここでは美容家、タレント・IKKOさんの特別語り下ろしをお届けします。
IKKO「人と比べず、今の自分を認めて少しずつレベルアップを!」
近頃、「自己肯定感が低い」という若い方の話をよく耳にします。今のネット社会はさまざまな情報がもたらされる分、自分に自信がもてなくなるのかもしれませんね。例えばインスタなどのSNSで、キラキラ輝いて見える他者と自分を比べると、人より劣っているように感じてしまうのではないでしょうか。
しかし、人は人。自分は自分です。人と比べる必要はありません。人はそれぞれ置かれた環境や歩んできた道も違うわけですし、第一、自分が見ているのはその人のほんの一部です。すべてが恵まれているように見える人でも、人には言えない悩みを抱えていたり、つらい過去があったり、そこは他人にはわかりません。だから人を基準にして、自分に当てはめるのは無意味。自分を否定する材料が増えるだけだと思います。
…と、今の私ならそうはっきり言い切れますが、少し前までの私は自己否定と自己肯定を繰り返していました。自分に自信がなく、人の目を気にしてばかりいた時期もあります。そうした人生を送ってきただけに、自己肯定感がもてないという方の気持ちもよくわかるのです。
私は男として生まれましたが、心は女性だったので、ずっと生きにくさを感じてきました。今でこそ、ジェンダーレスや多様性を認めようという声が上がっていますが、それは都会の一部の人たちだけに通用する話。現実の社会はまだまだ厳しく、依然として偏見や差別は残っています。ましてや地方の、私が育った時代は理解されるはずもなく、小学生の頃は友人たちに「気持ち悪いオカマ」とののしられたこともあります。
母や姉たちは薄々気づいていたと思いますが、39歳のときに思い切って両親にカミングアウトしたら、父は強いショックを受けて大激怒。その心のしこりがのちのちまで残ったことも、自己否定に陥る一因になりました。
自分を愛することで真の幸せな人生に。
その後、「オネエのヘアメイクアップアーティスト」としてテレビの出演が増え、注目されるようになりましたが、さまざまな反応があったのも事実。誰にも負けない実力をつけて、ある程度の自信がもてたものの、私の中には人から評価されたい、認められたいとの思いが強まっていきました。一流のブランド品を身につけて、自分を大きく見せようとしていたあの頃…。今にして思えば、どこか完全に自己肯定できていない自分がいたのだと思います。
心の底から自分のすべてを肯定できるようになったのは、つい最近です。美容家として人一倍努力して、一流のメイクを極めたと実感したときに初めて、誰の前に出ても恥ずかしくない自分になったと思いました。つらいことがあっても常に前を向き、自分自身を磨き続けてきた結果、ようやく自分で自分を認められるようになったのです。
こうした私の経験からみなさんにお伝えしたいのは、何事もあせりは禁物ということ。一気に高い理想の自分を目指すのではなく、自分のレベルを少しずつ上げていくといいでしょう。例えば自分の理想がレベル10で、今の自分がレベル3だとしたら、まずはレベル4を目指すように。
ただしその前に、レベル3の自分を認め、ありのままの自分を肯定することが大事です。「仕事の成果は上がらないけど自分なりにがんばっている」とか、「家事は苦手だけど料理は好き」など、自分の良いところを認めてあげてください。そして、自己否定しているものは何か、なぜ否定しているのか、その根本原因を考えながら自分自身を改めて見つめ直してみましょう。つまり、今の自分をしっかりと受け止めて、その自分を愛することからスタートするのがポイントです。
そこからゆっくりと、一歩ずつ先を目指します。例えば「イライラしない自分」を目指すなら、最初は「今日1日だけ」、それができたら「今日から2日間」というように、1ミリずつ前に進んでいくといいですね。ちなみに、目標は人から「すてきね。いいわね」と言われる自分ではなく、「大好きな自分」になること。いつも曇りのないピュアな心をもって、理想とする自分を目指しましょう。
とはいえ、「せっかくレベル4まで行ったのに、思わぬ出来事でレベル3に逆戻り」ということが起こるかもしれません。しかしその現実を味わうことも、経験という実績になります。何より、一度はレベル4まで到達したという達成感は、脳の中にしっかりと刻み込まれます。その成功体験を忘れずに「またがんばろう」と努力し続けていると、それが自信になるはずです。大丈夫。大丈夫。努力はけっして裏切りません。
自己肯定につながる価値観は、そのときどきの状況、時代や年齢などによって変わってきます。以前は嫌だなと感じていたことが、肯定できるようになったりもします。私自身がそうでした。年を重ね、自己否定した時期も含めて、さまざまな経験の積み重ねが今の自分に生きているので、すべてが無駄ではなかったと思い至ります。そして、「真の幸せは自分を愛することから生まれる」という大事なことに気づきました。今の自分を大切にし、自分らしく生きていくと、自己肯定感も高まってくるような気がします。
IKKO 1962年1月20日生まれ、福岡県出身。美容家、タレントとして幅広く活躍し、著書も多数。近著に『1ミリの優しさ~IKKOの前を向いて生きる言葉』(大和書房)がある。
※『anan』2022年7月6日号より。イラスト・ゆあみ 取材、文・浅野祐子
(by anan編集部)
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