「平和を守るには個人レベルの働きかけが大事」フランスにも広がる長崎の思い【映画】
ananweb / 2022年8月1日 19時30分
毎年8月は、平和に対する思いがいつも以上に強くなるときですが、そんななかでいま観るべき映画としてご紹介するのは、新たな視点で平和へのメッセージを訴えるドキュメンタリー『長崎の郵便配達』。今回は、こちらの方にお話をうかがってきました。
イザベル・タウンゼンドさん
【映画、ときどき私】 vol. 507
映画『ローマの休日』のモチーフになったと言われている“世紀の悲恋”を繰り広げたタウンゼンド大佐を父に持ち、フランスでは女優として活躍しているイザベルさん。本作では、16歳のときに長崎で被爆した郵便配達員の谷口稜曄(スミテル)さんの記憶をノンフィクション小説として発表した亡き父の思いを探るため、長崎でさまざまな出会いと経験をする姿が映し出されています。
そこで、日本に対する印象や改めて感じた平和の価値、そして日本の女性たちに伝えたいメッセージについて語っていただきました。
―今回の映画制作に関しては、川瀬美香監督からお話があったことがきっかけだったそうですが、ご自身のなかでも以前から映画にしたいというお考えはあったのでしょうか。
イザベルさん 実は、川瀬さんから声をかけていただくまで、ドキュメンタリーにしようと考えたことはありませんでした。とはいえ、もともと私がコンタクトを取っていたのは、父の本を再販したいという出版社の方。本についての話をしていくなかで、その方の友人である川瀬監督がドキュメンタリーにしたいと思っていると聞き、絶対に会わなければいけないと思いました。
その後、川瀬監督と初めて会ったのは、この本を書いたときの資料がたくさん置かれている父の書斎。とても素晴らしい瞬間でしたし、私たちは2人とも「ここには伝えなければいけない大切なメッセージがある」と直感したので、映画を作ることにしました。
日本人は親切で、他人へのリスペクトがある
―日本で撮影を行った際、多くの日本人と交流したと思いますが、どのような印象を受けましたか?
イザベルさん まず初めに驚いたのは、日本のみなさんが本当に親切で、他人に対するリスペクトを日常生活のなかでも持っていることでした。人と話をするときも、熱心に聞いていらっしゃったので、みなさんのなかには人と共同作業する精神のようなものがあるのではないかと感じたのを覚えています。
そのほかに印象的だったのは、東京でも長崎でも、日本には逆説的なところがあること。日本古来の物を大切にしながら、建築やファッションなどにおいて未来的な部分も持ち合わせていると感じました。モダンでありながら伝統をおざなりにすることなく、リスペクトしているということは素晴らしいと思います。
―今回の旅行では、娘さんも同行されていましたが、若い世代の方々が歴史を知ることで変化したところもあったのでしょうか。
イザベルさん 私の2人の娘はとても真剣に観察していたので、1945年8月9日に長崎で何が起こったのかをはっきりと理解したようでした。日本でもヨーロッパでも、若い人たちにとっては当時起こったことを想像するのは非常に難しいことだと思います。でも、この映画を作ったことによって、それらの出来事を考えるための土壌を作り、彼らに“足跡”のようなものを残せたのではないかなと。今回の旅も、娘たちにとっては大切なプレゼントになったと感じるので、私もうれしいです。
平和を求める権利は、誰にでもある
―ただ、残念なことに現在も世界の平和を脅かすような戦争が起きています。このような状況のなかで、私たちはどのような意識を持って生きていけばいいとお考えですか?
イザベルさん 普段はあまり意識していないかもしれませんが、まずは“平和の価値”というものを日々考える必要があると思っています。そして、世界で起きている脅威や痛ましい出来事を知り、人間としてそれらを直視するべきではないでしょうか。
私は女優という職業をしていることもあり、平和の大切さというのは、映画や演劇、本、造形美術、アートといった文化を通して伝達できるものだと考えています。私たち人間は、地球に生きている以上、平和を求める権利は誰にでもあるのです。実際、私の父は本を書くことで訴え、谷口さんは傷に苦しみながら闘い続けました。そんなふうに、それぞれが違うやり方で平和を希求し、平和がいかに大切であるかを伝える行動を起こしていけたらと。個人レベルでの働きかけというのは、とても大事なことだと思います。
―この映画でもいろんな出会いを重ねていくうちに表情が変わっていくイザベルさんの姿が印象的でしたが、長崎での経験でご自身が得たものは何ですか?
イザベルさん 父が本を出版した当時、リアルタイムで読んだものの、内容について父と話すことはありませんでした。まだ22歳くらいで若かったこともありますが、あまりにひどい暴力性が信じられず、現実として受け止めることも、理解することもできなかったからです。ただ、今回の撮影を通して、父がどうしてあの本を書こうとしたのか、父と谷口さんの間にあった友情、そして何よりも“平和の価値”がどれほどのものかを知ることができたと思います。
撮影中も父に見守られているような感覚がありましたが、父が私にバトンを渡してくれたのではないかなと。フランスでもこの経験をほかの人に伝えていきたいという思いが、自分のなかで生き続けているように感じています。
女性が勇気を持っている姿は素晴らしいこと
―それでは最後に、イザベルさんのように仕事と家庭を両立している女性を目指すananweb読者にメッセージをお願いします。
イザベルさん とても大切なことを聞いてくださってありがとうございます。というのも、私自身も若い頃はどうやって仕事と家庭を両立させたらいいのかわからず、そのジレンマに悩まされていたからです。もし読者のなかで、同じ思いをしている方がいれば、仕事はぜひ続けてほしいと思います。なぜなら、情熱を持ってキャリアを追い求めていれば、その母親の姿を見た子どもたちにも人間としていい影響を及ぼすはずですから。
とはいえ、仕事と家庭の両立をするうえでバランスをつかむことはとても難しいことであり、長い道のりでもあります。しかも、その大変さを周りに認識してもらえないこともありますよね……。ただ、それらを両立することは楽しいことでもありますし、努力する価値があるものだと考えています。女性ががんばって何かを見つけようとする勇気は素晴らしいことなので、私はみなさんを応援したいです。
インタビューを終えてみて……。
とても物腰の柔らかい方ですが、平和に対する思いを語る姿は父親譲りの強い意志を感じさせるイザベルさん。いろいろな気づきを与えてもらうとともに、モチベーションも上げていただきました。作品のなかで見せるイザベルさんのさまざまな表情からも、ぜひたくさんのメッセージを感じ取ってください。
受け継いでいくべきは、平和への願い
戦争が引き起こした悲劇と向き合い続ける意味、そして平和を守り続ける大切さなど、過去の歴史からいま学ぶべきことは何かを教えてくれる本作。言葉を超えて生まれた谷口さんとタウンゼンド氏の友情が、時を超えて私たちを正しい道へと導いてくれるはずです。
取材、文・志村昌美ストーリー
戦時中、英空軍のパイロットとして英雄となり、退官後はイギリス王室に仕えていたピーター・タウンゼンド氏。エリザベス女王の妹マーガレット王女と恋に落ちるも、周囲の猛反対で破局し、世紀の悲恋は世界中で話題となる。その後、世界を回り、ジャーナリストとなった彼が日本の長崎で出会ったのが、16歳で郵便配達の途中に被爆した谷口稜曄さんだった。
タウンゼンド氏は生涯をかけて核廃絶を世界に訴え続ける谷口さんを取材し、1984年にノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」を出版する。そして、2018年8月。タウンゼンド氏の娘で女優のイザベル・タウンゼンドさんは、父親の著書を頼りに長崎へと向かい、父と谷口さんの想いをひもといていくことに……。
多くの人に届けたい予告編はこちら!
作品情報
『長崎の郵便配達』
8月5日(金)シネスイッチ銀座ほかにて全国公開
配給:ロングライド
️©The Postman from Nagasaki Film Partners
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