西川貴教「地元のみんなの声を聞いて、動き出そう」 イナズマロック フェス主催者としての想い
ananweb / 2022年8月3日 19時0分
滋賀県出身で滋賀ふるさと観光大使も務める西川貴教さんが、2009年に地元の行政と手を組みスタートさせたイナズマロック フェス。琵琶湖に臨み、豊かな自然とともにステージを感じることができる西日本最大級の野外フェスイベントだ。他の多くのフェスがそうであったように、本フェスも’20年はオンライン配信で1日限りの開催。’21年は中止を余儀なくされた。
「この2年間で感じたことは、どうしようもない無力感でした。僕たちのようなエンターテインメントの世界をはじめ、スポーツもアートもそうですが、文化的なものというのは、安全とか安心が担保された状態だとみなさん大事なことだと推奨してくださる。だけど、一度今回のような非常事態が起こると、必要のないものとして片付けられてしまう。楽しみとしてだけなら、それを我慢すればいいというのもわかります。でも、それで生活をしている人もいる。経済活動が止まれば、会社がなくなるかもしれない。フリーランスで仕事を受けてくれている方は収入がゼロになるかもしれない。それを、どう受け止めればいいんだろう。主催者として、どう考えればいいんだろうと悩むことがとても多かったです」
それでも、中止の決断はとても速やかだったと西川さんは言う。
「僕が地元でやっていることって平たく言うと“お祭り”を一つ作っているようなものなんです。盆踊りや花火大会と一緒。基本は地元のためにやる。お祭りがあることで地元が活気づいて、県外からもたくさんの人が集まってきてくれる。そして、来た人たちで会話して、その地域の良さを知ってもらう。それがまず第一にあります。だから地域の方々がそれを求めていないなら、そもそもやる意味がないと思った。でも、中止しましょうとなったとき、県知事や自治体のみなさんはとても温かかったんです。前に進むための中止だったんですね。そのポジティブな受け止め方に僕はとても救われたんです」
滋賀に帰って、みんなとたくさん話がしたかった。
’21年は西川さんのソロプロジェクトであるT.M.Revolutionのデビュー25周年の年でもあった。大規模な全国ツアーを予定していたがそれも中止に。代わりに西川さんが決めたのは、滋賀県内25か所をめぐるホールツアーを開催することだった。
「地元に帰ってたくさん話がしたかったんです。みんなの状況はどうなんだろう、どういうことが心配で、どんなことを考えているんだろう。それをちゃんと聞くところから始めないといけないと。このツアーをやるのだって、もちろんとても大変でした。自治体によってはライブが開催されたことがない地域もあった。会場探しからもう大騒ぎです。客席も半分までしか入れちゃいけないし、マスク着用で発声もできない。さらに座席の背にもたれた状態を保って観てください、ともお願いをして。お客さんにすごく負担をかけたなと思います。それでも、行った先々で、こういった催し物ができたことに会場の方も自治体の方も感謝してくれました。ネットのニュースだけ見ていると、それにぶら下がっているコメントに心をえぐられるようなことも多いです。フェスをやるなんてとんでもない、という声は今も聞こえてきます。だけど、実際に会って話をすると、ネット上だけだと聞こえてこなかった、みなさんの純粋な、率直な言葉が聞こえてきた。それで、すごくいろんなことに気づけた気がします。僕が見ないといけない、話をちゃんと聞かないといけないのは目の前にいるこの人たちなんだって。顔と顔を突き合わせて話す人たちのことをまず大事にしよう。地元のみんなの声を聞いて、動き出そうと、そのとき強く思いました」
コロナ禍が音楽業界に与えたダメージはとてつもなく大きい。西川さんも、存在価値がないかもしれない、と世論の声に打ちのめされていた一人だった。しかし、それを救ったのもまた人々の声だったというのに、一筋の光が宿る。
「今って、オンラインで会議もできるし、バーチャルでなんでも体験できる。それを否定するつもりはないですし、それはそれですごいことです。でも、こういうことになって逆に、僕は人と人が向き合うことがめちゃくちゃ大事なんだなって、あらためて思うようになりました。若い方、子供たちだってそうです。この3年の間、リアルな経験をすることをすごく我慢させられてきた。僕は少しずつでもいいから、それを取り戻してあげたい。人と人がコミュニケーションをとって有機的に愛を交換できる場所、きちんと触れ合っていることを実感できる場所を提供してあげたいなと思うんです」
やることが多すぎて、楽屋になんていないです。
現在、T.M.Revolutionとして全国ツアーを回る一方、8月10日には西川貴教名義でのアルバムもリリースする。フェスではその両方の名義でステージに立つという。
「過去のイナズマロック フェスでも、バンド形式だったりソロだったりと、いろんな形でステージに立ってきましたが、今年は一日の中で、西川貴教とT.M.Revolutionの2ステージをやることに。一日の中でまったく違う顔でステージに立つのは初めてのことなので、これは大変なことになったぞ、と思っています(笑)。2ステージこなすだけならいいんですよ。僕はその間に運営の面倒も見ないといけないし、いろいろな方々のアテンドもしないといけない。視察で来ていただける方々とも僕は直接話をしたい。もうしゃべり通しです(笑)。例年、ほぼほぼ楽屋になんていないですから。ステージ前に着替えをするときだけサッと入る。今年はそれに拍車がかかりそうです。でもそうやってもう15年やってきていますから。その自負はあります。多様なライブも楽しんでほしいし、滋賀のこと、環境問題、いろんなことに触れて、感じてほしいです」
2019年の「イナズマロック フェス」で熱唱する西川さん。©イナズマロック フェス 2019 実行委員会
にしかわ・たかのり 滋賀県彦根市出身。1996年、ソロプロジェクトのT.M.Revolutionとしてデビュー。「イナズマロック フェス 2022」は、滋賀県草津市にある烏丸半島芝生広場にて9月17日~19日開催。ライブを楽しむ有料エリアだけでなくフリーエリアでは「おいで~な滋賀体感フェア」も開催。地域密着型フェスの醍醐味を感じられる。8月10日に2nd アルバム『SINGularity II ‐過形成のprotoCOL‐』(EPICレコードジャパン)を発売。
※『anan』2022年8月10日号より。写真・小笠原真紀 ヘア&メイク・浅沼 薫(Deep‐End) 取材、文・梅原加奈
(by anan編集部)
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