松井玲奈「顔より内面をちゃんと見てもらえたら嬉しい」 中島歩と『よだかの片想い』を語る
ananweb / 2022年9月18日 22時0分
島本理生の恋愛小説『よだかの片想い』を、新鋭監督・安川有果が実写映画化した本作。顔の左側に大きなアザがある大学院生の前田アイコとして主演する松井玲奈さんと、彼女が惹かれていく映画監督・飛坂逢太を演じる中島歩さんに、人間の内面や多様性の中にある美しさについて問う作品への思いを聞いた。
中島歩:僕はアイコを通してしか松井さんを見ていませんが、とても人気のアイドルをやってきた方だから、人前に出て、ものすごくいろんなものに晒されてきたと思うんですね。僕は現場のアイコも、すごく緊張感をまとっていると感じたんです。だからこそ、作品を通して彼女を応援したくなるというか。
松井玲奈:形は違えど、置かれていた状況は近いところがあるのかもしれません。どう見られているかを常に気にしていましたし、その中でその都度正解を選ぼうとしていましたし。たぶん、今も無意識でしているそういう部分は、アイコと通じると思います。だからこそ、すんなりアイコとして作品と向き合えたのかなと。でも、今回、原作を本当に好きだったからこそ、気づけたことがありました。自分が考えていたアイコ像と、監督が考えていたアイコ像に違いがあったときに、今の私には理解できない感情がありました。でも、わからないままやってみたら、自然と表に出てくる感情があったんですよね。
中島:僕も一切の可能性を切り捨てないように、何も決めずに演じますね。その役が抱く感情は、俳優が意識的に表現するというよりは、お客さんが感じ取るものだと思うし、その場で複合的に、有機的に立ち上がってくるものなので。セリフで書いてあっても、実際どういう言い方で言うのか、それを聞いてどういう気持ちになるかは、その場でしかわかりえないというか。僕は演技をすることで、知らなかった自分が見えてくると思っていて。え、これ言われて俺涙出ちゃうんだとか、こんな怒ってるんだとか(笑)。
松井:たぶん、私はまだ自分のことがそんなにわかってないのかも。自分の中の譲れないものがあるようで、実はすごく自分に無関心なのではとも最近思っていて(笑)。だから、ある意味、自分に大事な責任を託してもらえる、役を演じてお芝居をすることに、存在意義や楽しさを感じているんだと思います。
中島:僕、最後のシーンのアイコの表情を見て、あ、この表情を見るためにこの映画を観ていたんだと気づいて。人の本当の顔、心を許し合ってるからこそ出る言葉、表情。そういうのも見つけると、美しいなと感じたりしますけど、この作品って、画一的な美の残酷さを見せているとも思うんです。そこから傷を受け入れて、心の整理をつけていく話かなと。価値を一つのところに集中させるのは人間の習性なのかもしれないけれど、それだと苦しくなってしまう人もいる。だから、僕らのようなメディアにいる人たちが、そこにハマらなくてもいい、別の美しさ、かっこよさがあるんだということを伝えていかなきゃいけないなと。
松井:心の中を見てほしい、というのがポイントですよね。自分も、顔より内面をちゃんと見てもらえたらやっぱり嬉しいので。
中島:僕自身、完璧な人間とか強い人間の物語にあんまり惹かれなくて。みっともなかったり、ダサかったりする人間に救われてきたので、マッチョな作品はすごく苦手で。疎ましさとか狡さがまずある、ということを受け入れるって、とても大事なんじゃないかと思うんです。
松井:弱さを見せられるって、すごい強さだと思います。
中島:この作品は顔のアザが一つの象徴になってますけど、心にアザや傷がある人は多いと思うので、みんなの映画になっていくんじゃないかなと感じています。
『よだかの片想い』 幼い頃、顔のアザをからかわれて以降、恋に消極的だった理系大学院生のアイコ。顔にアザや怪我を負った人のルポ本の取材を受け、状況が一変。映画監督の飛坂に惹かれていく。9月16日(金)、新宿武蔵野館ほか全国公開。©島本理生/集英社 ©2021映画「よだかの片想い」製作委員会
まつい・れな 1991年生まれ、愛知県出身。2008年デビュー。映画・TVドラマ・舞台など俳優として活躍するだけでなく、『カモフラージュ』(集英社)にて小説家デビューを果たし、エッセイ、小説なども手がける。
なかじま・あゆむ 1988年生まれ、宮城県出身。2013年、舞台『黒蜥蜴』で俳優デビュー。第35回「高崎映画祭」では、『いとみち』(’21)、『偶然と想像』(’21)の演技が評価され、最優秀助演俳優賞を受賞した。
※『anan』2022年9月21日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・白石久美子(松井さん) ヘア&メイク・船橋翔太(松井さん) 向後志勇(中島さん) インタビュー、文・小川知子
(by anan編集部)
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