僅か6日間だけ見られる逸品も! 1200年以上も継承される「日本文化の象徴」が集う展覧会
ananweb / 2022年10月16日 9時0分
東京・日本橋にある三井記念美術館で、特別展『大蒔絵展―漆と金の千年物語』が開催中です。平安時代に完成した純日本的なデザインの蒔絵。日本人が生み出した優雅で美しい工芸には、どのような歴史があるのでしょう。学芸員さんの話もまじえて、見どころなどをレポートします!
どんな展覧会?
国宝《桐蒔絵手箱》南北朝時代(14世紀)和歌山・熊野速玉大社所蔵 展示期間10月1日~10月30日
【女子的アートナビ】vol. 263
特別展『大蒔絵展―漆と金の千年物語』では、平安時代から現代の人間国宝にいたるまでの蒔絵作品を中心に、物語絵巻や屛風、書跡資料などもあわせて展示。蒔絵が日本文化に広がり、楽しまれてきた時代背景も知ることができます。
本展は、MOA美術館と三井記念美術館、徳川美術館の3館による合同企画。東京会場となっている三井記念美術館では、国宝7件、重要文化財32件を含む計127件が紹介されています。
そもそも蒔絵って?
展示作品を見る前に、蒔絵についておさらいします。そもそも蒔絵とは、漆工芸のなかの技法のひとつ。漆で絵や文様などを描き、それが乾かないうちに金や銀などの金属粉を蒔(ま)きつけて固めていく手法です。
三井記念美術館の学芸員で本展を担当した小林祐子さんは、蒔絵の歴史について、次のように教えてくれました。
小林さん 漆の木からとれる樹液を利用する工芸品は、漆が自生する日本や中国、朝鮮半島、東南アジアなどでつくられていますが、蒔絵は日本だけで発展した技術。日本に現存する最古の蒔絵は、正倉院宝物「金銀鈿荘唐大刀(きんぎんでんかざりのからたち)」の鞘(さや)にある動物の模様です。もともと蒔絵の技術は、奈良時代に中国大陸から伝わったと考えられていますが、中国で蒔絵の伝世品は見つかっていません。中国では失われた技術ですが、日本では発達していきました。少なくとも、日本で1200年以上も受け継がれている技術です。
国宝・重要文化財がいっぱい!
《石山切》藤原定信筆 平安時代(12世紀)静岡・MOA美術館所蔵
本展は8章で構成。そのなかから、特に国宝や重要文化財が多く集まる1~3章を中心にピックアップしていきます。
まず注目したいのが、大変美しい書の作品《石山切》(藤原定信筆)。平安時代につくられたものです。
平安時代には宮廷を中心とした貴族文化が発達し、日本ならではの美の規範が生まれました。また、かな文字が生まれたのもこの時代。書をしたためる和紙である「料紙(りょうし)」にも、金銀を用いた華麗な装飾が施されていきます。
でも、巻物や冊子は読むものなのに、なぜこれほど豪華な装飾がつけられたのでしょう。小林さんは次のように解説しています。
小林さん これらの書は「調度手本」と呼ばれています。貴族の邸宅の棚などに飾られるもので、生活を彩るための調度品なのです。《石山切》では、銀泥で松や鳥などの下絵が施されています。このような料紙装飾は、蒔絵の模様にも通じるものです。素材を超えた和様の美をご覧になってみてください。
6日間だけ見られます!
国宝《源氏物語絵巻 宿木一》平安時代(12世紀)愛知・徳川美術館所蔵 展示期間10月1日~10月9日
また、本展では貴重な国宝《源氏物語絵巻》も展示されています。
平安時代に成立した『源氏物語』や『伊勢物語』は、のちに長く蒔絵のデザインとして使われていきます。例えば、本展の後半で見ることができる尾形光琳の国宝《八橋蒔絵螺鈿硯箱》に描かれているデザインも『伊勢物語』由来。物語絵巻は、江戸時代まで受け継がれている日本文化のベースになっています。
今回展示されている《源氏物語絵巻》は現存最古の物語絵巻で、所蔵館以外で展示されるのは極めて珍しいそうです。前期の展示期間はすでに終了し、後期は10月25日から30日までの限定展示となっています。
必見! 国宝の蒔絵たち
国宝《片輪車蒔絵螺鈿手箱》平安時代(12世紀)東京国立博物館所蔵 展示期間10月1日~10月23日
ここからは、本展メインの蒔絵作品をご紹介。
まずは、国宝《片輪車蒔絵螺鈿手箱》(かたわぐるままきえらでんてばこ)。東京国立博物館が所蔵する名品です。
牛車(ぎっしゃ)の車輪が描かれている手箱で、波の部分には「研出(とぎだし)蒔絵」という技法が使われています。この技法は、漆で模様を描いて金粉を蒔きつけたあと、さらに全面を漆で塗りこめてから木炭で研ぎ、模様をもう一度出すという手順。正倉院宝物にも使われた最初期の技法です。
ちなみに、手箱というのは、本来化粧道具などを入れておくための箱を指しますが、本作品は仏教の経典を収めるための箱と考えられています。
国宝《澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃》平安時代(12世紀)和歌山・金剛峯寺所蔵
また、高野山に伝わる名宝で国宝の《澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃》(さわちどりらでんまきえこからびつ)も見どころのひとつ。こちらも、もとは経典や仏具を収めるための箱としてつくられたもので、水辺の情景が描かれています。
カキツバタやオモダカなどが咲く水辺で、たくさんの千鳥が自由に舞っている様子が表され、とても幻想的な雰囲気です。
さらに、和歌山の熊野速玉大社に伝わる国宝《桐蒔絵手箱》(きりまきえてばこ)も必見作。本記事一枚目の画像です。こちらは南北朝時代の作品で、金粉が一面に蒔きつけられています。
鎌倉時代になると、蒔絵の粉をつくる技術が向上し、小さな粉も使われるようになりました。本作品には金が浴びせかけられ、かなりゴージャスな雰囲気。この手箱の中に収められていたおしろいやお歯黒などの化粧道具も展示されています。
なお、展示作品の説明部分に、QRコードがついているものもあります。スマホで読み取ると、蒔絵作品の箱の中や蓋の裏など、展示では見えない部分の画像が見られるので、ぜひ利用してみてください。
本展は、展示替えを行う作品も多く、また展覧会の会期もあまり長くありません。ぜひお早めに、お出かけください。
Information
会期: ~11/13(日) ※会期中、展示替えを行います。
会場: 三井記念美術館
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:10月24日(月)
観覧料:一般¥1,300、高校・大学生¥800、中学生以下無料
※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください
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