山中崇「自分が俳優を続ける限り、舞台は続けるべきだと思っている」
ananweb / 2022年11月11日 22時0分
あの作品のあの役の…と思い浮かべる役柄は、見る人によってきっと十人十色。最近では、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の平賀朝雅か、連続テレビ小説『ちむどんどん』の田良島か。あれもこれも…と浮かんでくるほど、あらゆるドラマや映画でお馴染みの俳優が山中崇さんだ。
――まずは、稽古中の舞台『歌わせたい男たち』のお話から。初演の2005年に読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞した作品ですが、今の稽古の様子を伺えますか?
この作品って、Aの意見を持った人とBの意見を持った人が、意見を戦わせていくという展開なんですね。ただ17年前と同じ言葉の攻防戦を見せる演出で、この作品で本当に描きたかったことは果たして今の観客に伝わるんだろうかということを作・演出の永井(愛)さんがおっしゃっていて。台本を時代に合わせて書き換えるのではなく、今のお客さんに届く別の見せ方を探ることはできないだろうかと、今はそのチャレンジを稽古場全員で試している段階です。なかなか高いハードルですが、チャレンジさせてもらえる場があることがありがたいですよね。
――実際、稽古はどんなふうに進んでいるんでしょう。
永井さんは戯曲の言葉…セリフを大事にされる演出家なので、この言葉は相手に何を伝えたいのか、相手の気持ちをどう変えたいと思っているのかってことを、ひとつひとつ丁寧に読み解きながら進めている印象です。そういう言葉のキャッチボールこそ演劇や映像…ドラマの基本だと思いますが、そこってわりとすっ飛ばされてしまいがち。でも永井さんは、登場人物たちのキャラクターを作るより前に、この場面でどういう会話がおこなわれているか、相手がどんな思いで発するセリフなのかという部分に重点を置いて、丁寧に進めている印象です。
――今その挑戦は、どのくらいできています?
昨日の稽古で、セリフなんだけどセリフとして言ってないというか、自分の言葉として言えてるなって瞬間が多かったんです。最初は、このセリフで相手をムカつかせるにはどういう言い方をするかとか、展開を先読みして役を作っていたんですが、気づいたら、どう言おうかを考えることなく目の前の会話に集中できていて…。これは面白いライブになっていくんじゃないかって思えました。
――『歌わせたい男たち』は、どんな作品になりそうですか?
誤解なく捉えてほしいんですけど、稽古の初日、演じながらちょっと虚しくなる瞬間があったんですよ。僕は、“君が代を歌いません”って意志をわりと強い言葉で主張する役なんですが、ギャーギャー騒いでいるだけの遠吠えのようで、どこにも届いてない感じがしてしまって。それは永井さんも同じようなことを感じたみたいで、例えば最近は、誰かの発した意見が右寄りだとか左寄りだと感じた瞬間、聞く耳を持たず、そっちのポジションの意見ねって括って、耳をふさいで話し合いを終わりにしてしまう人が増えている、とおっしゃっていました。でも、自分と違う意見とか、少数派の声を流してしまっていいんだろうかって思うんですよ。例えば、ネットニュースで「視聴者総ツッコミ」と書かれたりすると、それがすべてみたいに見えるけど、それってじつはすごく怖いことですよね。みんなとか世間が果たして正しいかはわからない。拡大解釈かもしれないですが、みんなが「戦争の何が悪いの?」って言い出したら…って考えちゃうんです。見逃されがちな小さな意見に耳を傾けることも大事だと思うので、それをすごく考えさせられる作品です。
――舞台に立つということに対しては、どう考えていますか?
これは個人的な想いですけど、自分が俳優を続ける限り、舞台は続けるべきだと思っています。目の前にお客さんがいて、反応がダイレクトに返ってくるって怖さしかないんですが、それでもそこは避けてはいけない気がしています。あと舞台って、こうやって1か月間、作品や自分の役についてすごく考える時間を与えてもらえる。それは本当に贅沢だと思っています。やっぱり稽古の時間にいろんなチャレンジをするって、映像ではなかなか難しいんです。時間的な制約もありますし。ただ、映像でそういう時間が持てないということは、本番までの間に自分でできる限りの準備をしておくという意味でもあると思うんですよね。僕の場合は、舞台で身につけたものを映像に還元できたらっていう感じですかね。舞台の良さは何度も何度も稽古することで、セリフが自分の言葉になっていくこと。逆に映像は、そのときの天気や気温、周りの環境や状況によって、自分から出る言葉や空気感が変わってくる。どっちも良さがあるから。いいところを使えたらなと思っています。
やまなか・たかし 1978年3月18日生まれ、東京都出身。劇団・青島レコードの看板俳優として活躍し、NODA・MAPなどにも出演。映画『松ヶ根乱射事件』で注目を集め、クセのある役から好青年の役まで幅広く演じる。近作に、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』平賀朝雅役、連続テレビ小説『ちむどんどん』田良島甚内役などがある。
ジャケット¥63,800 パンツ¥41,800 シャツ¥35,200(以上suzuki takayuki ) シューズ、メガネは本人私物
舞台・二兎社公演『歌わせたい男たち』は、11月18日(金)~12月11日(日)まで東京芸術劇場シアターイーストにて上演後、全国へ巡回。とある都立高校の保健室を舞台に、卒業式当日の教師たちの国歌斉唱をめぐる攻防を描く。2005年の初演時、大きな話題となり数々の演劇賞を受賞した話題作。共演にキムラ緑子、相島一之ほか。二兎社 TEL:03・3991・8872
※『anan』2022年11月16日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) スタイリスト・momo ヘア&メイク・佐伯憂香 インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)
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