「それな」はすでに10年前からあった!? 今年の新語・新表現をプレイバック!
ananweb / 2022年11月14日 21時30分
ananトレンド大賞2022“CULTURE”。ここでは、言語学の視点から2022年の新語・新表現をプレイバック!
話題の“新語”は、どのように生まれ、どう使われているのか。三省堂の「今年の新語」選考委員であり、言葉の採集をし続ける日本語学者の飯間浩明さんと、「ゆる言語学ラジオ」で言葉の妙を探る水野太貴さんに今年の新語を考察してもらいました。
飯間浩明:その時代の気持ちを端的に表す言葉ってありますよね。2010年代は「エモい」、2000年代は「萌え」、1980年代まで遡ると「かわいい」。主に若い人が「これこそ自分の気持ちを表現した言葉!」と思って愛用するんです。それでいうと今年たまさかに若い人と話した中で聞いたのが「気まずい」「きまZ」でした。
水野太貴:使い方として、「気まずい」と相手に伝えるわけですか?
飯間:そうなんですよ。「気まずい思いをした」と文章に書くとか、相手のいないところで「気まずかったな」と独白するならごく普通です。ところが会話の最中に「気まずい」と堂々と言っちゃう。それくらい、気まずい成分が時代に蔓延しているのかなと。
水野:音楽の歌詞からは諦めを感じます。MAISONdesが和ぬかさん、asmiさんとコラボしている「ヨワネハキ」は、何もかもを諦めている歌。King Gnuも他の誰かになりたいと歌っている。曲調は明るいけれど、歌詞には諦観と、別の人生を体験したいという感覚が表出している。
飯間:「気まずい」と言わせてしまう同調圧力がまわりにあるんでしょうか。
水野:そう思います。日常会話でも、お笑い的な「気まずくなってはいけない」「滑ってはいけない」という空気がありますし。YouTubeも結局テレビとそう変わらないし、常に“おもしろくツッコむ能力”が問われている。
飯間:暗黙の決まりごとができているんですね。
実はオーセンティックな、新語の成り立ち。
水野:今年は目新しさより、「それな」のような既出の言い回しが定着した気がします。
飯間:水野さんは「それな」をいつ頃から使っていますか?
水野:…う~ん、どうだろう、5年前の2017年頃には使っていたような気がします。
飯間:新語をいつ追加したか記録している『デュアル大辞林』を引くと、なんと2013年1月に載っていました。実は私もそれほど負けてなくて、1年遅れの2014年には観測していたようです。
水野:けっこう前ですね!
飯間:そうなんです。もう10年ほど前の言葉なんですよ。今の中高生は「それな」を自分たちの言葉だと認識してるかもしれませんが、実は10年前の先輩たちも使っていたんです。「はにゃ」もお笑いタレントの丸山礼さん用語ですが、前史はNHKの教育番組『おーい!はに丸』。「アセアセ」も古い言葉です。
水野:顔文字というか、アスキーアートで見かけた気がします。
飯間:そう。調べてみたら、’90年代初めにパソコン通信のASAHIネット内で「アセアセアセして着替えてきた」という文言がありました。私には新語というより懐かしい言葉です。
水野:昔ながらの言葉がしれっと交ざっているのがおもしろいですね。僕が気になったのは、“先祖返り”です。例えば「しんど」が表すのは、「疲れた」でなく対象が尊いとか素晴らしすぎてきつくなる、ということですよね。
飯間:いわゆる「推しが尊すぎてしんどい」ですね。
水野:そうです。それでいうと、古文の「はづかし」も、貴人を見ると立派すぎて恥ずかしくなるという意味。「しんどすぎて無理」「尊みが深い」「推しが尊くて無理」みたいな感情って、古くから日本人が独特な表現として培ってきたものなんじゃないかと思うんです。
飯間:賛成です。人間の気持ちは1000年、2000年で変わらないし、言葉は違っても表現する気持ちは近いものがあります。私は『三省堂国語辞典』の「エモい」の項目に「古語の『あはれなり』の意味に似ている」と説明しました。
水野:「生きるwww」は「死ぬ」がコンプラ的に良くないので言い換えた言葉ですが、これは“忌み言葉”に近い。スルメだと「掏(す)る」に聞こえて縁起が悪いので「アタリメ」と呼ぶ。「お開き」も、「閉じる」だと良くないから「開く」にした。縁起が悪そうだから真逆の意味に変えてしまうって、新しいようでオーセンティックなパターンですよね。
飯間:年配の人は新しい言葉を目の敵にしますが、実は言葉の使い方や作り方は伝統を踏まえていることが多いんですよ。
水野:強調表現だと「一番」。ラーメンを食べて「一番旨い」と言ったあと、餃子を食べて「一番旨い」と言う。これは千鳥のノブさん発なんじゃないかと思います。僕の世代でも使うので、広く市民権を得ていますね。強調表現には過去に「神」や「鬼」もありましたが、今ではインフレし続けて順位を強調するまでに。
飯間:“一番”がたくさんあっていいですね。
水野:「限界オタク」は、僕は去年の段階で今年の新語として「限界」を挙げていました。「限界OL」「限界マスコミ」のように、自分が漫然と仕事をしている限界状態と、限界集落的な過疎感を表しています。
飯間:辞書に載せるなら1、2と用法を分けないといけませんね。私が注目しているのは「なんですが」。例えば「このままだと日本経済は悪くなる一方です。“なんですが”、解決策はないわけでもない」。このように接続詞として使うんです。従来は「そうなんですが」ですが、YouTubeなどでよく見かけます。こういう若い人自身も気づかない新語があると思います。「おもだるい」もそうです。
水野:「あってるくない?」や「しないべきです」も自覚せず使っていますよね。新語や新表現が生まれるのは言語としてありふれた事象であって、成長痛が起きている状態。健康に育っているなと見守りたいです。
飯間:喜ばしいですよね。anan読者の皆さんも、メディアで取り上げられる有名な新語だけじゃなく、知られざる、気づかれない新語を見つけてみてはどうでしょう。普段言葉を使うのが楽しくなると思います。
いいま・ひろあき 1967年、香川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院博士課程単位取得。大学院在学中から三省堂の辞書編纂に携わり、『三省堂国語辞典』第六版から編集委員に。著書に『日本語はこわくない』など。
みずの・だいき 1995年生まれ。名古屋大学文学部卒で言語学を専攻。編集者として出版社に勤める傍ら、2021年から作家の堀元見と共にYouTubeで「ゆる言語学ラジオ」をスタート。Podcastでも配信を行っている。
※『anan』2022年11月16日号より。イラスト・美山 有 取材、文・飯田ネオ 大場桃果 菅原良美(akaoni)
(by anan編集部)
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