土井善晴が1月の“行事食”を解説! 七草粥は「1種類の葉野菜でも十分」
ananweb / 2023年1月6日 20時0分
年の頭の1月は行事もたくさんあり、そこには必ず旬を味わえる〈食〉があります。昔家族が作ってくれたな…と思い出深いものもあるはず。今年は歴史や意味への理解を深め、ぜひ作ってみて。料理研究家・土井善晴さんに話を聞きました。
【1/7】人日(じんじつ)の節句
年に5度ある〈五節句〉のうち、最も年始にあるのがこちら。松の内(お正月)の最終日、門松やしめ飾りといった新年の飾りは、地域にもよりますが、この日に取り外すとされています。そしてこの日の朝には、7種類の野菜を入れた〈七草粥〉を食べるのが古くからの風習。元は中国の風習で、「7種類の野菜の羹(あつもの/熱い吸い物)」を食べて無病息災を祈ったものが日本に伝えられたそう。古日本では〈春の七草〉を入れた粥を食べ、中国と同じく、無病息災を祈念。近年では、お正月のごちそうで疲れた胃腸を整えるために行う人が増えている印象。
「もし七草全部が手に入らなかったら、1種類の葉野菜でも十分。大事なのは、水分が少し残っている状態が炊き上がりだということ。お米がすべて水分を吸い、ボテッとした感じになってしまったら、それはもうピークを過ぎたお粥。最後の炊き上がりの見極めをしっかりすること。上手に作れると、お米の美味しさがしっかり味わえるお粥に仕上がります」(料理研究家・土井善晴さん)
この日の行事食:七草粥
ごちそうで疲れた胃腸を整えつつ、一年間の無病息災の願いを込めて。
<材料と作り方>
洗米と、その6~7倍の水を蓋付きの鍋に入れ、中強火くらいの火にかける。沸騰したらひと混ぜし、極弱火にし、少しずらして蓋をし、40分程度加熱する。餅を入れる場合は、その間に焼く。七草は水で洗って水気を拭き取り、細かく刻んでおく。刻んだ七草を鍋に加え、そのあと餅を入れ、器によそう。お好みで塩を加える。
春の七草
セリ
新芽が競り合ってよく育つ様子からその名が付いたといわれ、込められた意味は、“勝負に競り勝つ”。胃を丈夫にする後押しを。
ナズナ
ペンペン草ともいわれるアブラナ科の植物で、“撫でることで汚れを除去する”という意味合いが。解毒作用やむくみ解消にひと役。
ゴギョウ
現代では“母子草”と呼ばれる植物。ゴギョウは“仏の体”という意味合いがあり、咳、痰、喉の痛みなど風邪症状の緩和をお手伝い。
ハコベラ
ハコベとも呼ばれる植物。“繁栄がはびこる”という意味が込められており、虫歯予防や胃炎に効果があるといわれている。
ホトケノザ
葉が地を這うように伸び、そこから黄色い花がつくキク科の植物で、仏様が座る台座のように見えるのが名前の由来。胃の健康を促す。
スズナ
カブの別名で、“神を呼ぶ鈴”という意味合いがある。消化促進や解熱作用があり、また、しもやけ防止といった効果も期待できる。
スズシロ
こちらは大根の別名。込められた意味は、“汚れのない清白”。消化促進、食欲増進、風邪の予防などに力を発揮するそう。
【1/11】鏡開き
正月のお供え物の鏡餅を下げ、料理としていただく行事。広辞苑によると、近世、武家で男性は鎧や兜を飾ってその前に供えた〈具足餅〉を、女性は鏡台に供えた餅を、割って食べたのが始まりといわれています。もともとは1月20日の行事だったものが、徳川三代将軍家光の命日が20日だったため、これを避けて11日にした、という伝えも。下げた餅は刃物を使って切ることを忌むため、金槌で割って“開く”という習慣が。ちなみに鏡餅を重ねて置くのは、重なることで福徳が重なりおめでたいとされるから。お正月に年神様が滞在した〈依り代〉であるお餅を食べることで、神様の力を分けてもらい、一年の良運を願うという意味合いもあるのだとか。
「鏡餅は空気に触れて乾燥しているので、かなり硬くなっています。片栗粉を軽くまぶし、油でゆっくり揚げる“揚げ餅”にしたり、あるいは水から茹でて柔らかくし、ぜんざいやきなこをまぶして安倍川餅にするのも美味しいですね」(土井さん)
鏡餅
大小2個の餅は、月(陰)と日(陽)を表し、それが重なることで福徳が重なり、おめでたいとされる。そしてその上には、家の繁栄が続くよう縁起を担いで、橙を。
この日の行事食:揚げ餅
揚げたての美味しさは格別! ジューシーさをお茶と召し上がれ。
<材料と作り方>
餅はひと口サイズに小さくし、軽く片栗粉をはたき、160°Cに熱した油で揚げ色がつくまでじっくり揚げる。揚がったら軽く塩をする。また、揚げたてを器に盛り、味をつけた出汁や大根おろしを添えて食べても。
【1/15】小正月(こしょうがつ)
太古の日本では、新年最初の満月の日(1月15日)を“一年の始まり”=正月として祝っていた風習があったそうで、今1月15日が〈小正月〉と呼ばれるのはその名残といわれています。この日は、門松やしめ飾り、書き初めなどを焼く〈どんど焼き〉が行われ、その火で焼いた餅を食べると、一年病気知らずで過ごせる、とも。また、小正月に食べるものといえば、小豆粥。昔からお祝いごとの料理に欠かせないものといえば小豆ですが、この赤い豆には魔や邪気を祓う力があると信じられています。そのいわれも、そして小豆粥を食べる風習も、中国からの伝来。ちなみに『土佐日記』や『枕草子』にも、小正月に小豆粥を食べたという記載が。
「小豆を煮ておいてお粥にしたり、お砂糖を加えてお餅と食べればぜんざいにも。また、かぼちゃの煮物に小豆を少し入れたりしても美味しいですよ。炊きたての小豆の風味は本当に格別。お店では味わえない極上の味なので、ぜひ一度作ってみてください」(土井さん)
この日の行事食:小豆粥
その色で魔を祓うといわれる小豆。“ハレの日”にその力をいただきます。
<材料と作り方>
小豆はたっぷりの湯で茹でる。沸騰したら一度湯を捨て、新しい水を加えて再び火にかけ、再沸騰したら弱火にする。20分ほど茹でたあと、ざるにあげ、小豆と茹で汁に分けておく。鍋に洗った米とその8倍の茹で汁(足りない場合には水を足す)を入れて中火にかける。沸騰したら小豆を加え、少しずらして蓋をしておく。25分くらいしたら火を止め、器によそう。塩で食べるも良し、また砂糖を加えぜんざいのように楽しむのもおすすめ。
どい・よしはる 料理研究家。1957年生まれ、大阪府出身。大学卒業後、スイス、フランスでフランス料理、大阪で日本料理を学び、独立。旬の献立・家庭料理をレシピ動画で紹介するアプリ「土井善晴の和食」が好評。
参考文献:『年中行事読本 日本の四季を愉しむ歳時ごよみ』岡田芳朗、松井吉昭著(創元社)
※『anan』2023年1月11日号より。写真・内山めぐみ 料理、スタイリング・土井善晴 イラスト・西田敦美
(by anan編集部)
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