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秦 基博「ピカソの言葉がずっと心の中にありました」ニューアルバムの礎

ananweb / 2023年3月20日 19時0分

秦 基博「ピカソの言葉がずっと心の中にありました」ニューアルバムの礎

【音楽通信】第133回目に登場するのは、NHK連続テレビ小説『おちょやん』の主題歌「泣き笑いのエピソード」や『六本木クラス』挿入歌「残影」も収録されたアルバムを発表する、秦 基博さん!

2021年に迎えたデビュー15周年を超えて

【音楽通信】vol.133

2006年のデビュー以降、コンスタントに作品を発表し、多彩なライブ活動を展開しているシンガーソングライターの秦 基博さん。心に響く歌声で、わたしたちを魅了し続けてくれています。

2021年にはデビュー15周年というアニバーサリーイヤーを迎えて、横浜アリーナと大阪城ホール、さらには日本武道館でコンサートを開催。2022年はドラマ『六本木クラス』挿入歌「残影」をリリースするなど、これまでに数々の映像作品やCMソングを手掛けています。

そんな秦さんが、2023年3月22日に7枚目のオリジナルアルバム『Paint Like a Child』をリリースされるということで、お話をうかがいました。

――以前ananwebでは、今回のアルバムにも収録されたNHK連続テレビ小説『おちょやん』の主題歌「泣き笑いのエピソード」のリリース時(2021年1月)に取材させていただきました。あれから2年、本格的にコロナ禍となって、現在は対策などにも慣れてきた時期ですね。

いわゆるステイホーム期間はいろいろなことが止まって、音楽制作もライブも中止になりましたが、次第にその状況をみんなが受け入れっていっていたような時期でもありました。そんななかでも少しずつレコーディングも進んでいましたし、無観客の配信ライブを行うなどのできることを模索しましたね。2021年は、大きな会場でライブも開催させていただきました。

――15周年を迎えられてのライブは、いつもと違った感慨深さはありましたか。

そうですね。横浜アリーナと大阪城ホールの公演では、1日ずつ内容を変えて、初日に弾き語り、2日目にバンドスタイルと2daysで内容を変えました。15年間やってきた音楽スタイルがひとつではなく、弾き語りやバンドアンサンブルといろいろとやってきたので、両方を楽しんでもらえる2日間にしたくて、内容を変えて公演しました。15年のキャリアを経て、みなさんと一緒に大きい会場でライブを共有できる幸せを実感できましたね。

3年3か月ぶりのニューアルバムが完成

――2023年3月22日に、7枚目のニューアルバム『Paint Like a Child』をリリースされます。3年3か月ぶりとなるアルバムですが、いつ頃から制作されていましたか。

2021年の秋ぐらいから、本格的にアルバムに向けた曲作りを始めました。

――タイトルは、ピカソの残した言葉からつけたそうですね。

以前から、すごく好きな言葉だったんです。いろいろなことを成し遂げてきたピカソほどの人が、晩年に「ようやく子どものような絵が描けるようになった」という言葉を残していて。子どものように無垢で無邪気で自由な表現が、さまざまなことを経験した先にあるんだとすれば、それは音楽を作るうえでも、ひとつの指針になるといいますか。自分でも、そんなふうに自由に音楽をより表現できたら楽しいな、という思いをずっと持っていました。

だから、そのピカソの言葉が心の中にずっとあって、今回のアルバムを作るうえでのコンセプトにもふさわしいと思ったんです。いまの自分の思うままに、やりたいことを1曲ずつ突き詰めた結果、思い描いたアルバムが出来たと思います。

――既発曲としては、2022年のテレビ朝日系木曜ドラマ『六本木クラス』挿入歌「残影」や『映画ざんねんないきもの事典』主題歌「サイダー」も収録されていますね。

「残影」は、主人公のテーマということでしたので、彼がどんな人物でどうやって人生を過ごして、どんな思いでいるのかというところが、曲のもとになっています。圧倒的な絶望感があっても、心折れずに進む鉄の心を持つ主人公とまったく同じではないにしても、自分の中にもある絶望感やそれに抗うように前に進んでいこうとする気持ちを照らし合わせながら、曲を作っていきました。

「サイダー」は、『ざんねんないきもの事典』で描かれる動物たちが“ざんねん”と言われてしまうけれど、生命が生きていることの喜びがそこにあると思ったんです。それぞれの個性は、もしかすると人から見たら残念に思われることだとしても、そもそも存在している、生きていること自体の素晴らしさや歓びを歌いたいと「サイダー」という曲が完成しました。

――アルバムのタイトル曲でもある新曲「Paint Like a child」は、未来や希望を感じさせるナンバーですね。

僕はだいたいメロディやサウンドから曲を作っていくんですが、この曲は、アルバムを象徴する1曲目になるような曲を作りたくて書きました。制作過程で、アルバムのタイトルを先に決めたのですが、そのタイミングでこの曲の歌詞を書いていたこともあり、タイトルトラックになりました。

――新曲「Life is Art!」は明るくてどこか懐かしいナンバーですが、この曲はどのようなことをイメージして作られたのですか。

ライブでもみんなで一緒に楽しめるレパートリーを、アルバムの中でも作りたい、と思って書き始めた楽曲です。歌詞では、カラフルな世界が描けたらいいな、というイメージがあったので、具体的に青や黄色、マゼンタなどの色を入れています。

――新曲「イカロス」は、ピアノの調べに乗せて切ない心情を歌うバラードですが、どのように生まれた曲でしょうか。

アルバムに向けて曲作りを始めたときに生まれた曲で、純粋にこういうメロディやサウンド感を作りたくて。ピアノが中心になりながら、コーラスの広がりや、シンセベースの重低音が彩どるサウンドのイメージがあって、サウンドが固まったときに、自然と“喪失”をテーマに歌おうと思ったんです。とはいえ、喪失に関する特別な理由があったわけではありませんが、できた曲の世界観に導かれながら、歌詞をじっくりと書いていきました。

――この「イカロス」を主題歌にした映画『イカロス 片羽の街』が2023年2月からU-NEXTで配信されています。今回、「イカロス」にインスピレーションを受けた児山隆監督、枝優花監督、中川龍太郎監督の3人による、3本の映画が制作されました。

「イカロス」のサウンドが出来たときに、その時点ではまだ歌詞はなかったんですが、メロディにすごく映像が合う、シーンや情景がすごく広がる曲だというイメージがありました。通常は、そこからミュージックビデオを作る流れになるんですが、今回は「映像との新しいアプローチはないか」という話になって。たとえば、タイアップがあればその作品に合わせた楽曲を書き下ろすことが多いんですが、逆に「曲をもとに映画を撮り下ろしてもらうことができないかな?」という話になり、3人の監督さんにオファーしたところ快諾してくださって、今回「イカロス」をもとにした映画化が実現しました。

――すごいお話ですね、しかも一編ではなく三遍の物語があるという。

本当に。「イカロス」という曲を物語にすると、どういう解釈を生むのか、どんな状況が広がるのか、とても興味深かったです。おひとりの監督さんに映画化していただくのももちろんうれしいのですが、何人かの監督さんがいると、曲からの解釈の違いや広がりがより感じられるので、お三方にお願いすることになりました。

曲では“喪失”を歌っていて、映画では“喪失と再生”がテーマで、喪失した先の物語までを描いています。あとは僕の生まれた“横浜”が舞台というものがしばりとしてありましたが、それ以外は「自由に作ってください」とご依頼して、生まれてきた3つの物語でして。それぞれまったく違う物語が生まれました。

内容はお任せだったので、出来上がるまでは監督のみなさんともお会いせずにいたんですが、完成してから取材で監督たちにお会いしたときに、それぞれの方のパーソナルな部分と結びついて、物語や映画が生まれるんだなと感じました。

――秦さんの原曲から、監督がどのようにインスピレーションを受けたかということですものね。

はい、曲をどう受け取ったかもそうですし、ご自身のどういう経験や思いと結びついたのか。いざ情景になったときに、どうやって映画になるのかなど、面白かったですね。映画監督は、そうした思いを映画で表現すると思うんですが、僕の音楽を受け取ったみなさんも、いろいろな景色や物語が広がって、それぞれに描いているものがあるのかなと。そういう広がりのある曲が書きたいと思っていますし、自分の音楽からみなさんの世界が広がっているといいなと思います。

――ジャケ写はカラフルな色で絵が描かれていますね。

実際に子どもたちが集まって、いろいろな絵を描いてくれました。クリエイティブディレクターの方のチームのアイデアで、アート教室に通う幼稚園生から中学生までの総勢46人の子どもたちが集まってくれたんです。「真っ白い紙に自由に絵を描いてください」とだけ言って、こんなに素敵なものができあがりました。

――では、このアルバムがどんなふうに聴き手に届いてほしいでしょうか。

僕自身は、音楽を作ることの楽しさと喜びを表現していけたらいいなと思うんですよね。もちろん生みの苦しみはついてまわるんですが、それも含めて、僕はこのアルバムで自分の描きたい音楽を思いっきり表現しました。だから、聴く方も楽しい気持ちやいろいろな気持ちになったりと、みなさんそれぞれの響き方や広がり方をしてくれたらいいですね。

――4月から7月まで「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2023 ―Paint Like a Child―」と題した全国ホールツアーを開催されます。どのようなステージになりそうでしょうか。

今回はバンドアンサンブルでまわる久々のワンマンツアー、アルバムの世界をライブで再構築することになります。もちろんいままでの楽曲たちも織りまぜながら、アルバムの世界を中心に、楽しんでもらえるライブを作れたらと思っています。

ツアーで音楽を共有できる瞬間が楽しみ

――アルバムは“子どもの落書き”のように、はみ出していく自由さや遊び心がテーマとなっていますが、秦さんご自身が子どもの頃、一番熱中した遊びはなんでしたか? 

熱中していたことでいうと、野球とバスケです。わりとスポーツに熱中していたんですが、どれも小学生ぐらいから始めたんです。それまでは絵を描くのが好きでしたね。

――今回のアルバムをきっかけに、また絵を描いてみようとは?

いや、この子どもたちが描いてくれた絵を見たら、なおさら描けなくなる(笑)。みんな思い思いに線を描いたり、好きな色を選んで好きなものを描いていて、それがなんでこんな素敵になるの? と。全部子どもたちが自由にやった結果こうなっていて、大人の僕が描こうとすると、うまく描こうとして邪念が入るので、いまは難しそうです(笑)。

――子どもたちは最強ですね(笑)。では普段、ライフスタイルにおいて気をつけていることはありますか。

普段は激しい運動などはしていないですが、歌を歌いますしカラダが楽器なので、ストレッチを中心にやるよう、ジムに行くときもあります。すごく鍛えるわけではないんですが、柔軟性は保っておかないとカラダが固まるとあまりよくないので、そのあたりは気をつけていますね。

――喉は何かケアをされているのですか?

すごく特別なことは全然していません。しいて言えば、乾燥に気をつけるぐらい。少し乾燥しやすいときは、喉に良いハーブティーを飲んで、喉を潤したりするぐらいですね。基本的には、あまりナーバスになりすぎると、逆に疲れてしまうから。昔は、あれをしなきゃ、これをしなきゃという意識も強かったんですが、気にしすぎるほうがマインド的に良くないなと思ってやめたら、気が楽になりました。アマチュアの頃なんて、たいしたケアもせず、水さえ飲めば歌えていたので(笑)。マインド的には、それぐらいでちょうどいいなと思っています。

――いろいろなお話をありがとうございました! では最後に、今後の抱負をお聞かせください。

この3年ぶりの新しいアルバムをみなさんにたくさん聴いていただきたいですし、ツアーでもみなさんにお会いしたいですね。音源を作って終わりではなく、ライブでみなさんと共有することで、その曲の本質を知るといいますか。「こういう曲の表情があったんだな」「この曲ってこんなふうに響いていくんだな」と、ライブをしてみないとわからないことがたくさんあります。そういったことを通して、やっと作品が完成していくから。ライブも楽しみですし、何よりも一緒に音楽を共有できる瞬間が待っているのが待ち遠しくて。またツアーが終わったら、自分の中で何かがまた芽生えてくるんじゃないかな、ということも自分自身、楽しみにしています。

取材後記

新作に込めた想いはもちろんのこと、新曲をもとにして映画が生まれたというお話も印象深かった、秦 基博さん。「絵を描こうとすると邪念が入る」というお話もありましたが、秦さんはどこか少年のような清らかさも思わせる、物腰の柔らかいお人柄。歌だけでなく、その人間力でも多くの方々を惹きつけているのではないかと感じました。そんな秦さんのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。

写真・園山友基 取材、文・かわむらあみり
ヘアメイク・鷲塚明寿美、スタイリスト・高橋 毅(Decoration)

Tシャツ¥15,400(is-ness)、シャツ¥46,200、パンツ¥44,000(ともにRAKINES)、靴¥35,200(ORPHIC / alpha PR : 03-5413-3546)



秦 基博 PROFILE
1980年10月11日、宮崎県生まれ、横浜育ち。A型。
2006年11月、シングル『シンクロ』でデビュー。“鋼と硝子でできた声”と称される歌声と叙情性豊かなソングライティングで注目を集める一方、多彩なライブ活動を展開。

2014年、 映画『STAND BY ME ドラえもん』主題歌「ひまわりの約束」が大ヒット、その後も数々の映画、CM、TV番組のテーマ曲を担当。デビュー10周年には横浜スタジアムでワンマンライブを開催。初のオールタイム・ベストアルバム『All Time Best ハタモトヒロ』は自身初のアルバムウィークリーチャート1位を獲得、以降もロングセールス中。

2023年3月22日、7枚目のオリジナルアルバム『Paint Like a Child』をリリース。4月から7月に全19公演をめぐる全国ツアー「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2023 -Paint Like a Child -」を開催する。

Information



New Release
『Paint Like a Child』

(収録曲)
01. Paint Like a Child
02.Trick me
03.サイダー
04. Life is Art !
05. 残影
06. Dolce
07. 2022
08. 太陽のロザリオ
09. 泣き笑いのエピソード
10.イカロス

2023年3月22日発売
*収録曲は全形態共通。

(通常盤)
UMCA-10093(CD)
¥3,300(税込)

(初回限定盤)
UMCA-19068(CD+BD)
¥5,280(税込)
*スリーブケース付。

(Home Ground 限定盤)
PROS-1924(CD+BD+インタビューブック+グッズ)
¥10,450 (税込)
*本体スケッチブック仕様。

(Home Ground 限定盤)
PROS-1925(CD+DVD+インタビューブック+グッズ)
¥10,450 (税込)
*本体スケッチブック仕様。

写真・園山友基 取材、文・かわむらあみり ヘアメイク・鷲塚明寿美、スタイリスト・高橋 毅(Decoration)

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