岸田繁「3人はソウルメイトでもある」 ドキュメンタリー映画『くるりのえいが』制作秘話
ananweb / 2023年10月6日 21時0分
1996年に結成し、「東京」や「ばらの花」など数々の名曲を発表してきたロックバンドのくるり。発売したばかりのアルバム『感覚は道標』には、岸田繁と佐藤征史、そして結成当初のメンバーである森信行が参加。また、伊豆で行われたアルバム制作現場に密着した、くるり初のドキュメンタリー映画『くるりのえいが』が公開されることも大きな話題となっている。
――なぜドキュメンタリー作品を作ろうと思ったのですか?
岸田繁(以下、岸田):バンドのドキュメンタリー作品って諸外国のものも含めていろいろあって。ストーリーが盛りめ、というかゴシップ的な興味をそそるものが多いと思うんですけど、もうちょっと音楽に寄った映像作品を作りたいなということは、前から思っていたんです。そこに、ちょうど映画のお話をいただいたので。曲ができるところからレコーディングまで、わかりやすく組み立てたものにしたいなと。実際、完成した映像を観て、うーん、わかりやすい! って思いました(笑)。あれ以上でもあれ以下でもないという感じで、シンプルにまとまったな、という印象です。
――オリジナルメンバーで楽曲を作ることにしたのはなぜですか。
岸田:セッションめいたものをやる機会は度々あって。僕らはパーマネントなドラマーがいないバンドで、今は、曲を作る時は僕が作ったデモを佐藤とやりとりしながら構築していくという仕上げ方を緻密にやるんですけど。そうじゃなくて、昔、バンドを組んだ時くらいのソングライティングのやり方に一度、立ち戻ってみよう、そのために彼(森さん)を召喚したいよね、みたいな話が出ていたんです。3人はソウルメイトでもあるので、その感じも含めて映画の題材としても面白そうかなと思いました。
――なぜ、当時の曲作りの仕方に立ち戻ろうと考えたのですか。
岸田:バンドの作品は、たとえば映画のサントラなどテーマのあるものとは違い、私小説的な面があると思っていて。エゴイスティックな作品を一人で作っていると、一人でしりとりするような感じになるんですけど。今はそれを3人のセッションでやったほうがいいなと思ったんです。自分の意図以外のものが入ってきて、そこに反応して、反応して…という感じで作っていく。「これやん!」「あ、よかった」みたいな感じで場が盛り上がって形になることがあるし、整合性のないものになったり、“何それ”みたいなことも起こる。それがバンドの醍醐味の一つです。あと、一応、実績を残しているこの3人でやったら、こういうものができるんじゃないか、みたいな期待もありました。
――完成したアルバムを聴いてみて、いかがでしたか。
岸田:思っていたよりも曲の振り幅があるなと。あとは、いいバイブスがあって、割とエネルギッシュというか。若い時だと少し幼稚になってしまうような部分も、おじさんだからちょっといい感じにエネルギーが音にちゃんと入っているかもな、とは思いました。若い時にしかできないこともあったと思うんですけど、普通っぽいことをやっているようで、こだわった部分はほんとにこだわったので。そう、この3人が揃うと、なんか合わないんです。良い意味でも、そうでない意味でも、いろいろなものがズレるというか。だからこその味も出ている感じもするし、はみ出した部分や悪ふざけも、そのままやっちゃっているので。最近は、自分で言うのもあれですけど、おとなしいというか、洗練こそ完成だと思ってやっていたんです。今回はそこに主眼を置かず、素材の味を活かしたり、形が悪いものも楽しむやり方をしています。個人的には洗練されたものも好きだし、土のついた大根みたいなものも好きです。(3人で写っている写真の森さんを指差しながら)いるといないとだと、全然イメージ違う気がするんですよね。
――(笑)。岸田さんにとってメンバーとは、どんな存在ですか?
岸田:この3人でいうと、“この3人がいるとすごいやろ”というのが大きいというか。というのも、音楽って勝ち負けじゃないんですけど、若い頃、ライブハウスでライブをしていた時は他のバンドに負けたくないという気持ちがあったし、対バンはバトルだったんです。特に、くるりはサークルの中で組んだバンドだから、しょぼい感じは嫌だなと思っていました。あと、“この組み合わせ、ありえへんやろ”という面白さもあったんですよね。3人共通の好みの音楽や性格的な一致点もなくはないんですけど、バラバラな感じが強かった。だから結局、一人が途中でいなくなっちゃったんですけど。さっき、「ソウルメイト」という言葉を使いましたけど、この3人で活動していたら誰かが「いい」と言ってくれて、自分たちでも手応えのある作品を作ることができたので。その実績とかを、もし誇りみたいなものに言い換えたとしたら、そういう誇りを共有している時代があった。この3人でやってなかったら、くるりは多分、この世に存在しなかったと思うので。だから、ただの友だちじゃなくてソウルメイト的というか。そして、メンバーということでいうと、この間、イベントで70歳くらいのバンドを見たんですけど。別に仲よさそうじゃないし、なんやろなと思ったけど、長くやっている人たちは自分の屋号とか楽曲にプライドを持っていると思うし、それが好きで集まっている感じがあるんじゃないかなと。僕は、群れるのが好きじゃないこともあって、何人かで何かをしたり仲がいいというのは、バンドしか知らないんです。横並びでセンターを決めるタイプのアイドルグループと違うことは、楽器が違ったりと役割が明確なところなのかな。そういう意味では、会社とか家族とかに近いようなものなんですかね。
――岸田さんにとって音楽活動の軸となっていることは何ですか。
岸田:バンドとしては、演奏をしていて楽しいということだと思います。ライブをやると、その2時間半が、自分の感覚としては一瞬で終わるんです。それが健康にいい感じがするというか、生きている感じがするというか。それがあるから、ライブをやりたいなと思いますね。あと、曲を作るとか音楽的な作業においてギアが一段ずつ入っていくと、なんか怪しいですけど、見えないものが見えてきたり、聞こえないものが聞こえてきたりとか…。やばいですよね(笑)。でも、いい匂いがしてきたり、冬なのに春みたいな気持ちになるようなことがあるから、いいなと。そういうことを仲間たちと共有できることも、本当に素晴らしいことです。
くるりのオリジナルメンバーによるアルバム『感覚は道標』の制作現場を追いかけるドキュメンタリー映画『くるりのえいが』。伊豆にあるレコーディングスタジオでのセッションをはじめ、結成当時を振り返ったり、新作の方向性について語り合う姿も映される。佐渡岳利監督。10月13日から全国の劇場で3週限定上映、デジタル配信がスタート。
きしだ・しげる 1976年、京都府生まれ。作曲家。くるりのボーカリスト/ギタリスト。’98年10月にシングル『東京』でメジャーデビュー。『まほろ駅前多田便利軒』をはじめ『ちひろさん』、「リラックマ」シリーズなどの劇伴音楽制作のほか、交響曲などの管弦楽作品や電子音楽作品、楽曲プロデュースも手掛けている。
トップス¥35,200(SIDE SLOPE/HEMT PR TEL:03・6721・0882) パンツ¥36,300(UNUSED/alpha PR TEL:03・5413・3546) シューズ¥19,800(PG/PLAYGROUND TEL:03・5738・1872)
※『anan』2023年10月11日号より。写真・杉江拓哉(TRON) スタイリスト・森川雅代 ヘア&メイク・川島享子 インタビュー、文・重信 綾
(by anan編集部)
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