三浦透子「難しいけれど、面白いチャレンジになる」 難解な心理を描くイプセンの作品に挑む
ananweb / 2023年11月1日 20時0分
社会に潜む問題と、ままならない人間の感情とをヒリヒリとした会話劇の中で描き出し、今なお世界中で上演されている19世紀の劇作家イプセン。その中でも最も難解な心理を描いた作品として知られる『ロスメルスホルム』は、思想を介して結びついた男女の奥底に抱えた複雑な心情を描いた人間ドラマ。
「どんなに強く見える人であっても、少なからず葛藤はあると思うから」
「脚本を読んだときにも思いましたし、稽古が始まった今も感じていることですが…。人間って我々が思っているよりも複雑なものだよねというのと、人って思っているより単純だよねという、両方がある作品です。難しいけれど、面白いチャレンジになると思っています」
三浦透子さんが演じるのは、まだまだ古い伝統と価値観に縛られている世の中で、進歩的な考えを持った女性レベッカ。森田剛さん演じる主人公ロスメルの家の下宿人であり、彼の思想に大きな影響を与えている存在でもある。
「人間の感情って0か100かではないと思うんです。相反する感情が51%と49%で共存しているんだけれど、どちらかひとつしか選べないから瞬間的に51%の方を取るということもあって。でも外からは100%そっちの人だと見えてしまうことがある。この作品が描いているのも、そういう複雑さなんじゃないかと思っています。レベッカは思想を持った確固とした人のように見えるけれど、じつは彼女自身も葛藤しながら選んだ片方の道を積み重ねてしまった気がするんです。思い描いた理想の形とは違う方向へと物事が進んで、自分の中でも着地点を見つけられずにいるように思えて。そこが役の面白さでもあり、表現するうえでの難しさでもあるのかなと思います」
高い評価を受けた映画『ドライブ・マイ・カー』でも、話題を呼んだドラマ『エルピス』でも、一筋縄ではいかない役を演じてきた三浦さん。強さの中にある弱さや弱さの中にある強さといった、表面に見えている一面的な感情ではない人間の重層的で複雑な感情を表現してきた。
「私自身、強い部分もあれば弱い部分もあるんですよね。意見を言うときに、言っていいものなのか考えたり、どういう言葉を選ぶのが適切なのかを必死で考えたりするし、言う寸前に迷ったり、怖くなったりすることもある。それだけ考えても考えても、やっぱり感情を優先してしまって、後悔することもあって。だから自分が演じる役も、どんなに強く見える人であっても、その言動は少なからず私と同じような葛藤があったうえで出てきたものだろうし、私自身もそう思いたいんでしょうね」
あの繊細な役作りのためにやっているのは「ただただ脚本を読むというシンプルな準備」だとか。
「読むのは、自分が演じる役と作品自体が何を大事にして書かれているのかというところ。お芝居はコラボレーションですから、あとは現場で生まれるものだと思っています。同じ本を読み、それぞれが違う頭で考えたものを互いに出し合うことで見えてくるものというのがあり、それがこの仕事の面白いところです。脚本を読んで、自分も同じことを考えたことがあると思える部分が多いほど、楽に役に近づける気がします。だから、出合う感情の数を増やすことが重要であって、自分はそのために日常をどう生きるのがいいのかということはわりと考えていますね」
本作が書かれた当時とは時代も変わり、物事の価値観はアップデートされているが「世の中の構造自体は、現代に通じるものがある」と話す。
「演出の栗山(民也)さんが『ホンをちゃんと誠実にやれば今のことを伝える物語になるから』とおっしゃっていました。時代は違えど、従来の価値観から先へ進もうとする時代という意味では現代とも重なりますし、今の物語として感じてもらえる作品になればと思っています」
『ロスメルスホルム』 下宿人のレベッカ(三浦)の影響で自由思想に傾倒するロスメル(森田)。ある日、彼の自殺した妻の兄で保守派のクロル(浅野)から、妻を死に追いやった原因を聞かされ…。愛知公演/10月28日(土)・29日(日)穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール 福岡公演/11月3日(金)~5日(日)キャナルシティ劇場 兵庫公演/11月10日(金)~12日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 東京公演/11月15日(水)~26日(日)新国立劇場 小劇場 原作/ヘンリック・イプセン 脚色/ダンカン・マクミラン 翻訳/浦辺千鶴 演出/栗山民也 出演/森田剛、三浦透子、浅野雅博、谷田歩、櫻井章喜、梅沢昌代 詳細は公式サイトにて。
みうら・とうこ 1996年10月20日生まれ、北海道出身。映画『ドライブ・マイ・カー』で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞など多数の映画賞を受賞。近作に主演映画『そばかす』、ドラマ『ブラッシュアップライフ』など。
シャツ¥58,300 パンツ¥57,200(共にBARENA/三喜商事 TEL:03・3470・8232)
※『anan』2023年11月1日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・佐々木 翔 ヘア&メイク・山口恵理子 インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)
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