伊藤万理華「ものづくりに助けられたし、いろんなクリエイターさんとの出会いが転機に」
ananweb / 2023年11月18日 19時30分
一昨年の主演映画『サマーフィルムにのって』など、俳優として活動するかたわら、さまざまなジャンルのクリエイターとコラボし個展を開催。そんな多彩な魅力を発揮する伊藤万理華さんの脳内に迫る。
インタビュー中、何気なく「好きなものを大切に大切に育んできたので」という言葉を口にした伊藤万理華さん。まるで当たり前のことであるかのような口調に、根底にある愛情深さを感じた。取材でも、こちらの質問に思い当たる限りの言葉を尽くして返す。役にも作品作りに関しても、そして対峙する人たちに対しても、できる限り誠実に応えようとする人なのだろう。
――撮影中、面白い顔や悪い顔までいろんな表情をされていて、かわいくとかきれいに撮られることに固執しないんだなと思いました。
いつの頃からか、自分がかわいいとかきれいというところで戦う人間ではないなと思うようになりました。所属していた乃木坂46は容姿端麗で清楚なイメージが強いグループで、そこに追いつけていないことへのコンプレックスもあったかもしれません。
――乃木坂46時代に制作した個人PVも個性が突出していました。
まだ自分の個性も武器も何かわからない15とか16歳の頃から、面白いクリエイターさんと組ませていただけたことが、今も自分の大きな土台になっています。おかげで映像に興味を持てましたし、私の明るい部分を絶妙なバランスで引き出してもらえたこともラッキーでした。乃木坂46に個人PVという企画があったことや、そこで若いクリエイターさんに撮ってもらおうと企画した運営側の心意気にも感謝しています。ジャケ写やMVを撮るときにも、事前にテーマや物語性の説明があり、アイドルの裏側にこんなに奥深い世界があったんだと、とても感動しました。グループに入らなかったら知らなかったし、興味を持つこともなかったかもしれないなと。
――もともとアイドルに憧れが?
とくにはなくて…。それ以前にモデル事務所に所属していて、アイドルやCMのオーディションをいっぱい受けていました。その中に乃木坂46があって、知識も情報もなかったけど興味を惹かれました。クラシックバレエを習っていて、踊ることが好きでしたし、両親の仕事がファッションやデザイン系で表現やものづくりが身近だったことも大きいと思います。でも、入るまで自分がカメラの前で笑うとか踊るとか演じるなんて考えたことがなかったので、不思議な縁だなと思います。
――グループを辞めるとき、今のような活動は想定していました?
辞めてからが茨の道だと聞きますし、世間的に私のことを知らない人の方が多い。当たり前にグループの活動があったアイドル時代とは違い、もはやゼロからでした。落ち込んだ時期もありましたが、おかげでちゃんと仕事ということに向き合えたし、仕事をしないと生活していけないんだ、という当たり前のことを自覚しました。このままだと世間に存在を忘れられて終わってしまう。じゃあどうしたらいいんだろう、自分ができることってなんだろうって考え悩んで、乃木坂46在籍中にパルコで開催した個展(’17年)に思い至って、自分から企画書を書いてパルコさんに持ち込みました。
――そこで個展っていう発想になるのが面白いですよね。
それだけ当時パルコさんでやらせていただいた個展が、自分にとって大きかったんです。たぶんあれがなかったら、私はこれから何を表現したらいいんだろう、と途方に暮れていたと思います。自分がどういう人間で、どんなことが好きで何をしたいのか、自覚というか…自我の目覚めでした。
――でも、自分の表現方法が確立してるからこそですよね。
自分は何者になりたいんだって考えたときに答えが見つからず、いろいろなことに手を出してきた感覚です。ただお芝居に関しては、15歳で初めて経験して、こんな夢みたいな世界があるんだと、ときめいたことは覚えています。あのときの現場の音、匂い、照明とかカメラ…すべてが頭にこびりついて離れなかった。その一方で、グループ卒業後の次の仕事を待つ間に再認識した作ることの面白さとか、自分のルーツにあるファッションや写真、ムービー、漫画…そういうものを一緒くたにして、自分を表現する作業もやってみたかった。私はものづくりに助けられたし、いろんなクリエイターさんとの出会いが自分の転機になったという実感がすごくありました。グループに入ったとき、現場にたくさんの人がいて、全員が同じ方向に向かって何かを作っている空間がとても特別なものに感じたんです。それを見るのも好きだったし、自分がその一部になれているのも嬉しかった。あの気持ちは絶対に忘れたくないし、あの瞬間をずっと追いかけて、近づきたくて、ここまでやってきた自覚があります。だから今、自分が憧れの部分にちょっと触れられていることが嬉しいです。
あとは、恩返しの気持ちもあります。私に個展をやりませんかと声をかけてくれたパルコさんや、私がクリエイティブなことが好きな人間だと知ってくれて、肯定してくれて、たくさんの素敵な方々と出会わせてくれた乃木坂46の運営さん…。そういう方々に、今こんな作品に関われていますって報告できる環境にあるのが嬉しいし、もっと頑張って喜んでほしいなって思っています。
伊藤さん出演の映画『女優は泣かない』は、12月1日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。スキャンダルで仕事を失った女優・梨枝(蓮佛美沙子)の復帰仕事は、生まれ故郷で撮る彼女自身のドキュメンタリー。伊藤さんは、上司から念願のドラマ班への異動をエサにディレクターを押し付けられたADの咲役。監督・脚本は有働佳史。
いとう・まりか 1996年生まれ、大阪府出身。2011年から’17年まで乃木坂46のメンバーとして活動し、卒業後は俳優として活躍する一方、PARCOで個展を開催するなど、クリエイターとしての才能を発揮。現在、出演ドラマ『時をかけるな、恋人たち』(フジテレビ系)、『ミワさんなりすます』(NHK)が放送中。
シャツ¥94,600(baziszt/Diptrics TEL:03・5464・8736) ネックレス¥18,500(Marland Backus info@marlandbackus.com)
※『anan』2023年11月22日号より。写真・沖島悠希 スタイリスト・和田ミリ ヘア&メイク・外山友香(mod’s hair) インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)
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