独特な文体にも注目! 大田ステファニー歓人「推敲に超時間かかるし、結局めっちゃ疲れます (笑) 」
ananweb / 2024年4月27日 19時0分
時代の空気を反映することに関しては、小説は実に軽やか。さまざまな文体、構成で、私たちに今起きていることや気分を伝えてくれます。ここでは、独特の文体で読者を魅了する、大田ステファニー歓人さんに注目します。
独特なリズム感にはまる人続出・大田ステファニー歓人さん
選考委員の金原ひとみさんや川上未映子さんらに激賞され、第47回すばる文学賞に輝いた大田ステファニー歓人さんの『みどりいせき』。え、どんなイントネーションで読めばいいの、とタイトルから幻惑させられる。
「みなさん、“い”にアクセントをつける読み方をしているみたいなので、うちも合わせてそうしてます。でも、好きなイントネーションで読むのも楽しみって感じでお願いしたいです」
物語は、〈ぼく〉こと桃瀬翠(ももせ・みどり)の語りで進む。無気力で不登校になりかかっていた高校2年生の〈ぼく〉は、小学生のころに少年野球でバッテリーを組んでいたひとつ年下の女子・春と再会。ひょんなタイミングで春がつるんでいる面々と関わることになり、その溜まり場に居心地のよさを見出す。だが彼女たちは違法なお菓子やたばこを手売りで密売をしている仲間たちで…。そんな仰天の展開へなだれ込み、捻れた青春のグルーヴ感にしてやられる。
「金原さんや川上さんから選評で青春小説だと言われて、そうかこれは青春かって納得したけど、自分自身でそう思って書いたわけじゃなかったんですよね。たぶんまだ思春期だから、それを懐かしむとかもないし、客観的に何が青春なのかピンときてない。小説って一人で書くものだから、結構自分の意識しないところでも自分が出ちゃう。それで、主人公たちの刹那的な側面は、もしかしたら無意識に自分が出てる場合もあるのかも。生きててずっと『今が最高』って気持ちなんだけど、それを一瞬一瞬の今しかできない大事な体験、って意識して描いたわけじゃなくて、彼らの日常をただ描写していこうという意識で書いていました。自分的には人生全部がそんな普通の連続で、選択とその総体が人生だと思ってるし、演出的な気持ちはそれほどないかもしれないですね」
自分にフィットする文体を求めて。
注目されたのは、ステファニーさん独特の言語感覚だ。物語の冒頭で、小学生の〈ぼく〉がファウルチップを捕り損なって転ぶ場面では〈たどり着いたのは音も色も、光も闇もない素粒子の世界こんちは。(略)どっちゃ無。からのインフレイション。そしてビッグバン〉。春たちに距離を置かれそうになって泣きながら引き留める場面では〈うう、ま、またあぞびにいっでいい、んっぐう〉。
擬音や省略形を駆使して生み出す言葉のリズム。仲間内だけ、あるいは若者にだけ通じる隠語やスラング。音に心情も状況も内包させてしまう会話のライブ感。自在に暴れ回るラフで自由な口語体に脳髄をゆさゆさと揺さぶられ、軽いトリップ感さえ疑似体験できること必至だ。
「文体って、作品の届けたい部分を誰かに配送するための梱包材みたいなものだと思ってて。文体が主人公のパーソナリティと密接だと、読者も読み進める過程で主人公の視点に馴染んで、内面へするっと入り込めるから、どんな人間か伝わりやすい。そいつがどんなふうに人とやりとりするかで、多角的に人物の性格も浮き上がる。だから、世界をちょっと上から眺めて、作品の軸を見失わないようにすることと、とっちらかりすぎないように監視することが、自分が書くときに結構使ってる神経です。語りと描写を同時に描けるから、今回はこの書き方が効率的で一石二鳥だと思って。楽しみながら書ける文体が『みどりいせき』のこれなんですけど、推敲に超時間かかるし、結局めっちゃ疲れます(笑)」
そんな無二の言語センスをどうやって作り上げてきたのかはやはり気になるところ。
「読んできた小説はうち的に王道ばっかで答えるのはちょっと恥ずいですが、小学校のころは、司書さんレコメンドのままに伊坂幸太郎さんやあさのあつこさん、重松清さんとか。自分で買うようになって今でも好きなのは、金原さんや川上さん、町田康さん、村田沙耶香さん…、町屋良平さん、津村記久子さん、干刈あがたさん。って感じで、この数年だと、千葉雅也さんの『エレクトリック』も永井みみさんの『ミシンと金魚』もめっちゃよかったし、あと山下澄人さん、井戸川射子さん…」
ふだんの読書はKindle派だそう。インタビュー中にスマホでKindleの本棚を眺めながら、惹かれた作家や作品を挙げてくれたステファニーさん。謙遜するが、かなりの読書家。
「うちがグッとくるのってたぶん、知らん奴の日常が一人称で語られる作品。どっか自分と通じるとこを探したり、その世界に放り込まれる感じが好き。もちろん能動的にフィットしにいってんだけど、そもそもフィットするために飛び込ませてくれる器がそこにあるからなんだろうなと。うちもそういう語りを大切に書いていきたいですね」
『みどりいせき』は、言語化された翠の自意識や身体感覚が、読みながらひしひし体感できてしまう稀有な一作。日本文学の可能性を拡張した作品と語る識者も多い。集英社 1870円
おおた・すてふぁにー・かんと 1995年、東京都生まれ。2023年、「みどりいせき」ですばる文学賞を受賞。小説のほか、音楽や映画、特に1960~’70年代のアメリカン・ニューシネマと呼ばれるジャンルにも影響を受けたそう。
※『anan』2024年5月1日号より。写真・小川朋央 中島慶子(本) 取材、文・三浦天紗子
(by anan編集部)
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