矢部太郎「気軽にOKしたのですが… (笑) 」 初の大規模展覧会のために約100点描き下ろし!
ananweb / 2024年5月1日 22時0分
お笑い芸人としての活動はもちろん、平安時代を舞台にした大河ドラマ『光る君へ』の出演や、週刊漫画雑誌での連載「楽屋のトナくん」など、以前にも増して活躍の場を広げているお笑い芸人・矢部太郎さん。そんな彼の新境地ともいえる初の大規模展覧会が、ついに始まった。
大切な人とのふたりの時間を思い起こす展覧会になれば。
「実は展覧会なんて考えたこともなかったんです。オファーをいただき、今まで僕が描いた漫画をまた違った形で紹介するというコンセプトだったので、じゃあ僕が何かすることはなさそうだなと。あ、いいですねと気軽にOKしたのですが…(笑)」
東京・新宿区の外れにある一軒家で暮らす、矢部さんと大家のおばあさんとの交流を描いた漫画『大家さんと僕』。会場には物語の名場面とともに、矢部さんが同展のためにアクリル絵の具で制作した約100点の描き下ろしイラストが展示される。
「冗談で100枚くらい描き下ろします? と言ったら、ぜひやりましょうと即決されてしまって(笑)。でもデジタルで描くのと違って、絵の具で描くのは手を動かすのが楽しすぎて、アドレナリンが出ちゃってもう眠れなくなるほど。きっと紙だから失敗できない緊張感があるんでしょうね。だから毎日早起きして絵を描いて、その後、平安時代(大河ドラマの現場)に行っていました」
また会場では、漫画の中にある「ライトとおやき」の紙芝居が上映されるほか、「空飛ぶふたり」も映像化されるなど、作品をあらゆる方法で体感できるインスタレーションがそこここに。もちろんこの中には、矢部さん発案のプランもあるという。
「僕が大家さんとよく行った蕎麦屋にあった、10円玉を入れて使う昔の公衆電話。これが会場に設置されていて、来場者はその電話を取ると受話器からランダムに僕からのお礼の言葉が聞こえてくる仕掛けです。他にも大家さんの家に設置されていた、思い出の感知ライトも登場します」
と、来場者は作品の名場面を追体験できる演出に。漫画を読んだことがない人でも楽しめる内容だ。
矢部さんが絵を好きになったのは、絵本作家である父・やべみつのり氏の影響が大きい。そこで本展では、彼の作品『ぼくのお父さん』に関するコーナーも展開。父による家族絵日記「たろうノート」や、幼い矢部さんが父の勧めで始めた「たろう新聞」の現物が初公開され、当時住んでいた東京・東村山市での暮らしぶりを体感できる映像インスタレーションも設置。ユニークな矢部さんの生い立ちも知ることができる。
そんな矢部さんの創作意欲をかき立てるものとは一体何なのだろう?
「創作の源は? と聞かれれば、やっぱり大切な人のことが思い浮かびます。例えば大家さんには大家さんなりの人生があって、彼女が大切にしているものがあった。それは世間の価値観とは少し違うかもしれないけれど、すごく素敵だなと僕には思えた。もしかすると、単身で高齢のおばあさんと売れない芸人の話は幸せではないと捉えられることもあるかもしれないけれど、そこには本人が実感している幸せがある。こういったことこそ、描く価値があることなんじゃないかと思うんです」
漫画家になりたかったのではなく、心温まる人との思い出を自分なりの方法で伝えようと思った。そんな思いから絵を描き始めて早7年。そのアプローチは画業のみならず、お笑いや俳優業とも共通していると語る。
「出来上がったものを見てもらう以上に、僕は純粋に創作の過程が面白いタイプ。それはお芝居も同様で、稽古が一番楽しい、みたいな。この展覧会でも初めての経験ができて、一番楽しい思いをしているのは僕なんじゃないかな。観てもらう人には申し訳ないけど(笑)。『ふたり』というタイトルは、僕が漫画を描く時に一番大切にしているキーワード。大家さんやお父さんのように、僕の大切な人との二人の思い出を描いた漫画なので、観る人にとっても、大切な人との二人の時間を思い出すきっかけになれば嬉しいですね」
『大家さんと僕』(新潮社)2017年「おかえりなさい」より
『マンガ ぼけ日和』(かんき出版)2023年「お金盗ったでしょう?」より
ふたり 矢部太郎展 PLAY!MUSEUM 東京都立川市緑町3‐1 GREEN SPRINGS W3 2F 開催中~7月7日(日)10時~17時(土・日・祝日~18時、入場は閉館の30 分前まで) 会期中無休 一般1800円ほか TEL:042・518・625 ©Taro Yabe
やべ・たろう 1977年生まれ、東京都出身。芸人、漫画家。’97年に「カラテカ」を結成。処女作『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。新刊『プレゼントでできている』(新潮社)も好評発売中。
※『anan』2024年5月1日号より。写真・土佐麻理子 取材、文・山田貴美子
(by anan編集部)
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