「門脇麦さんは自分が持っていた日本人のイメージとは違った」台湾の俊英監督が明かす魅力
ananweb / 2024年6月13日 19時0分
台湾映画界の巨匠ホウ・シャオシェン監督がプロデュースを手掛け、歴史ある「台北金馬映画祭」で4冠を獲得した話題作『オールド・フォックス 11歳の選択』がついに日本でも公開を迎えます。そこで、こちらの方々にお話をうかがってきました。
門脇麦さん & シャオ・ヤーチュエン監督
【映画、ときどき私】 vol. 646
本作で主人公の父であるタイライの初恋の女性ジュンメイを演じ、台湾人役に挑戦したのは幅広い作品で存在感を放っている門脇麦さん。そして、メガホンを取ったのは、ホウ監督から台湾ニューシネマの系譜を受け継ぐ担い手として期待されているシャオ・ヤーチュエン監督です。今回は、撮影の裏側や台湾と日本の違い、そして人生で大事にしている言葉などについて語っていただきました。
―門脇さんはシャオ監督からの熱烈なオファーにより台湾映画初出演となりましたが、日本人ではなく台湾人の役ということで苦労された部分もあったのではないでしょうか。
門脇さん 事前に中国語を2か月くらい勉強して、セリフを丸暗記しました。でも、慣れない言語に引っ張られることなく、集中力を切らさずに感情に目を向けるというのが本当に難しかったです。
一番大切なのは、“核”として何を大事にするのか
―そんななかでも、演じていて楽しさを感じたこともありましたか?
門脇さん 今回は言語が大きな壁ではありましたが、日本の作品でも方言であったり、時代劇の言葉であったりすることもあるので、そもそも役者というのはいろんなことをする仕事だと思っています。
ただ、そういうなかでも一番大切なのは、“核”として何を大事にするのか。この作品でいうと、どんなに環境が変わってもそこは同じなんだというのがわかったので、それは私にとって発見でした。
―ホウ・シャオシェン監督からは「日本の俳優と仕事をしてみるといいよ」と前から勧められていたそうですが、実際にお仕事してみていかがでしたか?
監督 麦さんは集中力が高くて、まなざしもすごくチャーミングで引き付けられるので、素晴らしいなと思いました。これまで仕事をしたことがある日本の方は少ないですが、自分のなかでは日本人にはかしこまった方が多いイメージがあったんです。でも、麦さんは豪快でストレートな感じで全然違っていたので、そういうところもすごく好きでした。
門脇さん あははは! 日本にはかしこまっている人や真面目な人もちゃんといますよ。でも、私みたいなタイプもいるので、そこはさまざまですよね(笑)。
日本の俳優には好意的な印象を持っている
―門脇さんから監督に聞いてみたいことはありますか?
門脇さん また日本の俳優と仕事してみたいと思っていらっしゃるのか、そのあたりは気になっています。
監督 もちろんです! 麦さんと仕事をしたおかげで、日本の俳優さんに対しては好意的な印象を持っているので、ぜひまたご一緒したいと思っています。
―台湾と日本では、俳優のタイプに違いなどもあるのでしょうか。
監督 おそらく良い俳優に国籍は関係ないと思うのですが、ホウ監督からは「日本の俳優たちはすごく真面目だし、プロフェッショナルだよ」と随分言われてきました。それは本当にそうだったなと感じています。ただ、台湾の若い世代も非常に真面目で真剣に取り組んでくれるので、そういう意味では同じかもしれませんね。
1つ1つの行為にぬくもりを感じた
―今回の作品で門脇さんはご自身が求めるモノづくりが詰まっている現場に幸せを感じてグッとくることが何度もあったそうですが、どういったところに感銘を受けましたか?
門脇さん まずは環境や体制が整っていますし、全員の士気が高くて魂を感じられたので、みんなで一緒に映画を作っている実感を持ちながら撮影を続けることができました。決して日本の現場にそういう部分がないという意味ではないのですが、日本と比べると時間的な余裕があったのは大きかったですね。
あとは、つねに温かいご飯が用意されていて、ときにはスタッフの方々が炊き出しでお鍋を作ってくれたことも。役職に関係なくみんなで同じ釜のご飯を食べて撮影に臨んでいましたが、そういう1つ1つの行為にもぬくもりを感じました。
―監督がご自身の現場で意識されていることがあれば、お聞かせください。
監督 いま麦さんが言ってくださったことは、台湾では当たり前のことだと思っていたので、特別していることはないのではないかなと。でも、もしかしたら僕は少し年を取っているので、ほかの人よりもぺースが遅いのかもしれません(笑)。
門脇さん いやいや、それはないですよ!
監督 ただ、僕は出演してくれる人が気持ちよく現場にいてもらえる環境を提供するのは、当然のことだと考えています。俳優たちが落ち着いてスムーズに仕事をしてくれたほうが、監督としては結果的にいいものが撮れますから。そこについては妥協しませんし、彼らにもいい状態で演技をしてほしいと思っています。
人生は行き着くところに行き着く
―門脇さんは唯一の日本人キャストとして、台湾の俳優たちのなかに加わりましたが、コミュニケーションを取るためにしていたことはありますか?
門脇さん いまは、配信が広まっていることもあって、みなさんが私の出演作である「浅草キッド」や日本のドラマをけっこう観てくださっていたのでそういう話で盛り上がりました。
監督 僕もそうですけど、最近の台湾では多くの人が日本の作品を観ていますからね。
―本作では、主人公の少年が新たな価値観に触れて成長していく過程が描かれています。おふたりにもご自身の人生観を変えるような経験や影響を受けている言葉などがあれば、教えてください。
監督 僕は子ども時代よりも、大学を卒業して社会人になってからのほうが衝撃を受けることが多かったです。というのも、僕が入ったのは広告業界で、非常に商業的な世界だったので、人との付き合い方などがそれまでとは全然違うものだと感じて驚くことばかりでした。
門脇さん 私は子どもの頃に、父親から「人生はもう決まっているから、安心して前に一生懸命進みなさい」と言われたことがありました。これは「行き着くところに行き着くんだよ」という意味でもありますが、そういうのはあるんじゃないかなとつねに感じています。
ふさわしいテーマがあれば、日本でも撮る可能性はある
―門脇さんは海外の作品に参加したことで、心境の変化もありましたか?
門脇さん 私は仕事を始めてからまだ10年くらいしかたっていませんが、日本の映画界がよくなるためにはどうしたらいいんだろうかということをずっと考えています。海外進出というのはハードルが高いことではありますが、いまはいろんなコンテンツがあるので、同じアジアでもある台湾と日本でもっと行き来ができたらいいなと。
それによって、お互いの作品をより深めるきっかけにもなるのではないかと思っています。そういう意味でも、今回は私にとってすごく希望のある映画出演になりました。
―いつか監督が日本を舞台に作品を撮ることもあるかもしれませんよね。
監督 それにふさわしいテーマとストーリーがあれば、可能性はあると思います。私は最近の日本映画に詳しいわけではないですが、コマーシャリズムに走りすぎることなく人間関係や社会について真剣に撮っている方が多い印象です。
しんどくなったら“荷物”を減らしていい
―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。
監督 教育者めいたことを言うつもりはありませんが、この映画を観たことによって、少しでもみなさんに影響を与えられたらうれしいです。
門脇さん やりたいことがあればサッサとやればいいし、持ちたいものがあればどんどん持てばいいと思います。20代や30代は失敗してもすぐにやり直せるので、“荷物”はいっぱい溜め込んでもいいのではないかなと。そして、何が必要なのかがわかってくれば、徐々に軽くなっていくはずですから。
以前なら「これがないと不安」と思っていたことも、「捨ててみたら意外と平気だった」という場合もあるので、無理に抱え込むことなくしんどいと思ったら荷物を減らしてみてください。
インタビューを終えてみて…。
和気あいあいとした撮影に始まり、取材中もつねに楽しそうにしていた門脇さんとシャオ監督。言葉が違っていても、おふたりが作り出す雰囲気からお互いへの信頼感が伝わってきました。このタッグによる新たな作品がいつかまた生まれるのを期待したいところです。
俳優たちの演技に釘付けになる!
社会が大きく変化していくなかで、11歳の少年がさまざまな現実にぶつかりながらも、成長していく姿を描いた本作。ストーリー展開に引き込まれるだけでなく、俳優陣の熱演にも心を揺さぶられる必見作です。
写真・園山友基(門脇麦、シャオ・ヤーチュエン) 取材、文・志村昌美門脇麦 ヘア&メイク 秋鹿裕子(W) スタイリング 渡邉恵子(KIND)
赤ワンピース ¥27,500/DOUBLE STANDARD CLOTHING(フィルム/03-5413-4141)、ゴールドネックレス ¥12,100、ゴールドブレスレット ¥3,780(ともにABISTE/03-3401-7124)
ストーリー
台北郊外に父と2人で暮らす少年のリャオジエは、コツコツと倹約しながら、いつか自分たちの家と店を手に入れることを夢見ていた。ある日、リャオジエが出会ったのは、“老獪なキツネ”と呼ばれる地主のシャ。優しくて誠実な父とは真逆で、生き抜くためには他人なんか関係ないと言い放つ。
そんななか、バブルでどんどん不動産の価格が高騰し、父子の夢が遠のいていく。その状況を目の当たりにしたリャオジエの心は揺らぎ始める。そして、人生の選択を迫られたリャオジエが選んだ道とは…。
目が離せない予告編はこちら!
作品情報
『オールド・フォックス 11歳の選択』
6月14日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開
配給:東映ビデオ
(C)2023 BIT PRODUCTION CO., LTD. ALL RIGHT RESERVED
写真・園山友基(門脇麦、シャオ・ヤーチュエン)
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