少女たちに夢を、女性たちに人生の道標を。中原淳一、生誕111周年記念展覧会が開催
ananweb / 2024年7月3日 22時0分
戦前から戦後にかけ、イラストレーター、雑誌の編集者、ファッション&インテリアのデザイナー、スタイリスト、人形作家など幅広く活躍したマルチクリエイター中原淳一。戦前に雑誌の表紙画家としてデビュー。終戦より始めた雑誌制作の仕事は、敗戦のショックに打ちのめされていた当時の少女たちに夢を与え、女性たちから圧倒的な支持を得た。そんな中原の生誕111周年を記念する本展「111年目の中原淳一展」は、雑誌編集の仕事を軸に、彼の幅広いクリエイションの全貌をかつてない規模で紹介する。
真の美しさ、豊かさを追求し続けた中原の生涯に迫る。
中原は早くに父を失い、母と2人の姉に囲まれて育った。小学校卒業と同時に上京した彼はおかっぱ頭の内気な少年で、姉たちと一緒に西洋人形を作ることが大好きだった。日本美術学校で西洋美術を学び、昭和7年には銀座松屋にてフランス人形の個展を開催。これを機に雑誌『少女の友』の専属画家として同年6月号でデビュー。表紙や挿絵を手がけるうちに次第に編集にも携わっていった。しかし日中戦争が激化すると、中原の描く女性画はハイカラだ、華奢で不健康だと軍部から睨まれ、昭和15年には専属画家を降板させられてしまう。戦後は自身が編集長を務める『それいゆ』を創刊。その後も少女向け雑誌『ひまわり』『ジュニアそれいゆ』や『女の部屋』など女性のライフスタイルのお手本ともいうべき雑誌を次々と手がけていった。
中原が作品の中で掲げた“美しさ”とは、知性や審美眼を鍛えてこそ得られるものだった。『それいゆ』には、オリジナルの洋服デザインから髪型、美容、インテリア、手芸など衣食住を美しく整えるよう説く記事とともに、文学、音楽、美術などの内面を磨くための記事も多数掲載されている。彼のこうした徹底した美意識は、内弟子だった芦田淳をはじめ、高田賢三や金子功、森英恵、丸山敬太など後世代のクリエイターにも大きな影響を与えた。
生涯にわたって多彩な仕事に携わった中原だが、その出発点は昭和5年の人形作家デビュー。昭和34年以降は体を壊し、療養生活に入った時でも彼は身近な材料で男性の人形を作っている。本展はこの人形制作に注目した展示も見どころのひとつだ。
戦後の混沌とした時代に「暮らし」という視点から様々な提案を行った中原の仕事は、女性にとって人生の道標となった。その仕事は現在にあっても決して色褪せない。いま見ても美しさや豊かさの本質が何かを教えてくれるはずだ。
1932年から中原が専属画家を務めた雑誌『少女の友』。彼は川端康成の連載の挿絵や表紙を描きつつ、やがて編集者として誌面づくりにも深く関わっていく。
中原淳一《『少女の友』第33巻第12号》1940年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA
1939年には自身がデザインした服や雑貨の店『ヒマワリ』を開店。翌年には中原の初著作となるスタイルブック『きものノ絵本』も創刊した。
《扉絵原画(『きものノ絵本』)》1940年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA
1946年に『ソレイユ』を創刊。清潔に見えるヘアスタイルや穴の開いた服のリメイク法など、美しい暮らしを目指す提案が記された。
中原淳一《表紙原画(『それいゆ』第31号)》1954年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA
1954年創刊の『ジュニアそれいゆ』。米国の雑誌『セブンティーン』を意識し、日本の新しい少女雑誌を目指した本誌では、写真が大幅に増えた。
中原淳一《冬のお部屋の工夫をしましょう(『ジュニアそれいゆ』第7号原画)》1956年 個人蔵 ©JUNICHI NAKAHARA / HIMAWARIYA
111年目の中原淳一展 渋谷区立松濤美術館 東京都渋谷区松濤2‐14‐14 6月29日(土)~9月1日(日)※前期~8/4、後期8/6~。10時~18時(金曜~20時。入館は閉館の30分前まで) 月曜(7/15、8/12は開館)、7/16、8/13休 一般1000円ほか TEL:03・3465・9421
※『anan』2024年7月3日号より。文・山田貴美子
(by anan編集部)
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