「ネルソンズの青山くんには天性のものがある」橋口監督が絶賛した新たな才能
ananweb / 2024年7月10日 20時0分
劇作家・脚本家・演出家・映画監督など幅広く活動しているペヤンヌマキさんが自身の主宰する演劇ユニットで2015年に発表し、注目を集めた舞台「お母さんが一緒」。オリジナルドラマシリーズ化された本作が新たに再編集され、長編映画としてまもなく公開となります。そこで、こちらの方々にお話をうかがってきました。
橋口亮輔監督 & 青山フォール勝ちさん
【映画、ときどき私】 vol. 649
本作の監督と脚色を手掛けたのは、『ハッシュ!』や『ぐるりのこと。』など数々の話題作を生み出し、国内外で高い評価を得てきた橋口亮輔監督。今回は、母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹が繰り広げる悲喜こもごもの家族ドラマに挑んでいます。
劇中で、三女の彼氏タカヒロ役に抜擢されたのは、お笑いトリオ「ネルソンズ」のメンバーとしてバラエティ番組で大活躍中の青山フォール勝ちさん。監督たっての願いで実現したキャスティングの経緯や撮影の裏側などについて、おふたりに語っていただきました。
―監督にとっては9年ぶりの新作となりましたが、なぜこの作品を撮ることになったのでしょうか。
監督 もともと「死ぬまでにこれを撮りたい」という企画が3本あって、それを進めていたのですが、何かが足りないような気がしていて、踏ん切りがつかずにいました。そんなときに、プロデューサーからドラマとして話をもらい、「ちょっと考えます」と言っているうちにキャストがバーッと決まり、いつの間にか「映画にしましょう」と。僕がなかなか撮らないので、プロデューサーにはめられたんだと思います(笑)。
―青山さんは、オファーをもらったときはいかがでしたか?
青山さん 最初はマネージャーさんから「ドラマのオファーきてますけど、どうします?」みたいな感じで、中身をよくわかっていない状態のまま受けました。でも、台本を受け取ってキャストや監督の名前を見たから、これは軽く受けるやつじゃないなと。最初の稽古に行ったときに、「とんでもないところに足を踏み入れてしまった…」というのが正直な感想でした。
青山くんはさすがプロだなと感心した
―このお仕事が決まったとき、ネルソンズの和田まんじゅうさんと岸健之助さんはどのような反応でしたか?
青山さん ふたりは何も知らなかったので、おそらく「また青山が俳優業やりたがってんな」くらいの感じだったと思います。
監督 ちなみに、楽屋でこれ見よがしにセリフの練習をしていて、「大変なんだよ!」と言っていたという噂を聞いたけど、それは本当?
青山さん そうですね(笑)。ただ、これには理由があるんですよ。僕としては「1回目の稽古に行ったあとから台本読めばいいかな」くらいの気持ちで参加したら、ほかの方はもうセリフも入っていて、仕上がっている状態。そこからは空き時間もひたすら台本を読み、監督から送られてきた長崎弁の録音を聞いていたので、周りから何を言われようが、楽屋のど真ん中でもやるしかなかったんです。
監督 なるほど(笑)。でも、お笑いの方は本当に忙しいので、大変ですよね。特に今回はみなさんがすでにセリフも入っていたので、びっくりしたと思いますよ。
青山さん いや、マジでビビりましたよ(笑)。
監督 さらに、僕も前作『恋人たち』のDVDを渡して嫌なプレッシャーをかけましたしね。
青山さん 家に帰ってすぐ観ましたけど、「これは俺には無理だ」と思いました。
監督 そのあと、青山くんの生涯ナンバーワン映画が『アベンジャーズ』だと知り、反省して謝りましたよ(笑)。それでも本番には方言もセリフもしっかりしていて、噛んだりすることも一回もなかったので、さすがプロだなと感心しました。
いい意味でみなさんの出す空気に飲まれていた
―そんな青山さんに対して、天性のものがあると思われたとか。
監督 セリフの言い方だけに限らず、テンポや間が素晴らしい。たとえば、お風呂のなかからザバッと顔を出したり、折り鶴をグシャッと踏んだり、車のカギをリモコンでピピッと閉めたり、一見何でもないようなところを全部いい具合に1発で決めるんですよ。
―簡単そうに見えて、そういうところが難しいんですね。
監督 特に演技経験の少ない人たちは、なかなかうまくいかないことが多いです。でも、芸人さんは舞台での修羅場を乗り越えてきているので、普通の俳優とは鍛えられ方が違うなと思いました。もともとレスリングをしていてスポーツ出身のはずなのにびっくりするくらいできるので、「DNAのなかに組み込まれているのかな?」と感じたほどです。
―確かに絶妙なタイミングは見事でしたが、ご自身でも意識されていましたか?
青山さん 特に何も考えていなくて、ただ周りに合わせておけばいいくらいの感覚でした。江口(のりこ)さんはじめ、みなさんお上手なので。でも、褒めていただいてうれしいです。
―最後に長ゼリフのシーンがありましたが、江口さんは自然に涙がでるほど心を動かされたそうです。
青山さん 正直言って、自分では全然わからないです(笑)。僕はいい意味で、みなさんの出す空気に飲まれていました。
「本当にいいヤツなんだろうな」と思った
―ちなみに、演じ方もコントのときとはかなり変えていらっしゃいますか?
青山さん 大きく違うのは、まずめちゃくちゃ声を小さくして、ゆっくり話すようにしたことです。僕の場合、劇場では声を張れば張るほど受ける“張り芸”ですから(笑)。あとは、変に体を動かさないことですね。
―撮影期間中に、お笑い芸人としての活動に影響出てしまったこともあったのでは?
青山さん これは、俳優業をしたことがある芸人のあるあるだと思いますが、撮影が始まると声が小さくなったり、間をすごく取ったりすることがあるんです。以前、相方の岸が舞台に出たときにそうなってボロクソに言ったことがありました(笑)。なので、自分は言われないようにかなり気を付けたつもりです。
―今回青山さんをキャスティングしたのは、監督がコロナ禍にお笑いの YouTube を見ていたのがきっかけだったとか。
監督 中川家さんのYouTubeに出ていたネルソンズさんを見て、スベッていてもただ笑っている姿に「本当にいいヤツなんだろうな」と思ったんです。
その後、タカヒロを誰にするかとなったときに、青山くんのことを思い出しました。この役は本人が持つ人柄の良さがそのまま投影されるような難しいキャラクターなので、青山くんのように屈託のないまっすぐな感じがいいなと。ダメ元で吉本さんに連絡をして、偉い方にお会いしたのですが、「和田じゃないんですか?」「いや、青山さんで!」というやりとりを5回しました(笑)。
先輩の真剣なアドバイスにちゃんとしようと感じた
―青山さんは、以前から俳優業に興味があったそうですね。
青山さん 僕はネプチューンの原田泰造さんが好きなんですが、芸人として面白いうえに俳優としてもきちんとされているのがいいなと思っていました。あとはいつも自分でネタを書いているので、たまには与えられた役を演じたいというのもあるのかもしれません。
―俳優をされている芸人さんも多いですが、相談された方もいましたか?
青山さん 相談ではないんですが、とろサーモンの久保田(かずのぶ)さんにこの話をしたとき、「お前は芸人なんだから演技なんかいいんだよ」と返されるかと思ったら、「セリフだけは絶対に入れておけよ!」と言われて驚いたことはありました。
聞いてみると、以前ご自身がドラマに出たときに、セリフを入れずに行ってとんでもないことになったことがあったそうです(笑)。あの久保田さんがお笑い以外のことで、ここまで真剣にアドバイスしてくれることはなかったので、ちゃんとしようと思いました。
あえて新人とベテランを同じフレームで演じさせている
―いつもとはまた違う現場だったと思いますが、キャストのみなさんとはどのようにして過ごされていましたか?
青山さん 最初はけっこう緊張して話せなかったんですけど、古川(琴音)さんとは恋人役なので、目を見て話せるようにしたほうがいいなと思って、距離を縮めるためにいろいろと話をするようにしました。
監督 最終的には足の指でジャンケンするほど仲良しになっていて、古川さんも「私たち親友ですから」って言っていましたよね(笑)。
―監督は青山さんの俳優としての才能を見い出したわけですが、今後青山さんに期待していることはありますか?
監督 この作品を観た方は、「青山くんよかったですね」とみなさんおっしゃるので、絶対に俳優の仕事来ますよ。あんまり言うと、どんどん調子に乗ってしまうかもしれませんが(笑)。でも、肉体派で二枚目も三枚目もできる人というのは意外といないので、需要はありますよ。
僕が新人の方をキャスティングするときに必ずするのは、キャリアのある人と同じフレームのなかで演技をさせること。ベテランの方としっかりと共演させることで、「新人でもお芝居ができる人だから大丈夫」という保証になりますからね。青山くんもコントだけじゃなくて、芝居もできるというのがこの作品でわかっていただけると思います。
青山さん 今後も限定せずに、幅広くやってみたいです。
大切なことはお日様が出てから考えたほうがいい
―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。
青山さん 劇中でタカヒロが「夜に考えたことはたいてい間違っている。大切なことはお日様が出てから考えたほうがいい」というセリフを言いますが、まさにその通りだなと思いました。もし悩んでいたら、とりあえず寝た方がいいですよ。抜けているようで、タカヒロは意外といいことを言いますし、前向きな言葉も散りばめられているので、ぜひそういうのを見てほしいです。
監督 自分が子どもの頃、僕の両親もケンカばかりしていましたが、いま振り返ると親に守られていたんだなと感じます。この作品ではそういう記憶がふと重なったり、不思議な感情になったりするので、みなさんにもそれを味わっていただけたらいいかなと。ちょっと痛かったり、苦しかったりする部分もあるかもしれませんが、決して重い作品ではないので、笑いながら楽しんで観ていただけたらうれしいです。
インタビューを終えてみて…。
俳優としての素質を絶賛する橋口監督と、照れつつも喜びをかみしめている青山さん。衣装の色味が偶然同じになってしまうほど息ピッタリのおふたりが醸し出す雰囲気も素敵でしたが、やりとりも絶妙で笑いの絶えない取材となりました。監督が驚かされたという青山さんの演技にも、ぜひ注目してみてください。
家族ならではのブラックユーモアに笑って泣く
誰よりもわずらわしいのに、誰よりも愛おしくて離れられないのが家族。とことんぶつかり合った先に見つけた“答え”に、チクリと痛んだ心がじんわりと温かくなるのを感じるはずです。
写真・鳥羽田幹太(橋口亮輔、青山フォール勝ち) 取材、文・志村昌美ストーリー
親孝行しようと母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。長女の弥生は美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを抱き、次女の愛美は優等生の長女と比べられてきたことを心の底で恨んでいる。三女の清美は、そんな二人を冷めた目で観察していたが、三姉妹に共通していたのは「母親みたいな人生を送りたくない」ということだった。
母親の誕生日をお祝いするために、三姉妹は夕食の席で花やケーキを準備。プレゼントとして、弥生は高価なストール、愛美は得意の歌を用意していた。そして、清美は姉たちにも内緒にしていた彼氏のタカヒロと結婚することをサプライズで発表しようとするのだが…。
釘付けになる予告編はこちら!
作品情報
『お母さんが一緒』
7月12日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
配給:クロックワークス
(C)2024松竹ブロードキャスティング
写真・鳥羽田幹太(橋口亮輔、青山フォール勝ち)
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