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益田ミリ「『僕の姉ちゃん』を描いているとき、よく“そう来る?”とわたし自身が思ってるんです」

ananweb / 2024年7月16日 20時0分

益田ミリ「『僕の姉ちゃん』を描いているとき、よく“そう来る?”とわたし自身が思ってるんです」

本誌の人気連載「僕の姉ちゃん」の単行本最新刊が待望の発売! その名も『そう来る? 僕の姉ちゃん』。ちょっとユニークなタイトルの新作について、著者の益田ミリさんにお話を聞きました。

笑いながら自己肯定感が上がる“読むサプリ”!

「おかげさまでシリーズも6作目となりました。この漫画を描いているとき、よく“そう来る?”とわたし自身が思ってるんです。たとえば、3コマが4連作になっている『会話』という漫画は、主人公・ちはるのひとり語りです。会話【1】『「この人、わたしと話しててなんの得もしてないだろうな」って感じながらしゃべってることあるよね』という独白から始まり、会話【2】『「この人、わたしには本音は言わないって決めてんだろうな」って感じながらしゃべってることあるよね』とつづきます。残る【3】、【4】はこの時点では何も浮かんでいないので、さぁ、どうなる? とペンを進めるというか。最後の会話【4】で『「この人、わたしの名前思い出せないんだろうな、わたしもだけど」って時あるよね』というセリフをちはるが言った時は“そう来る?”と心の中で笑ってしまいました」

掲載された作品は2021年から約3年にわたってananで連載された作品の中からセレクトされた全148エピソード。

「長いコロナ禍に描いていたということもあり、“日常”の尊さについての漫画はいつもより多いかもしれません。仕事帰り、花屋の前を通ったちはるが『この、いつもの週末が 当たり前と思っているこの日々が 輝いて見えたのでした』と花を買って帰ったり、希望ってなにと弟に聞かれ、『明日もまたここでこうしてアンタと他愛ない会話ができるってコトを当たり前に思える』そういうものも希望だとちはるは答えています」

そんなちはるの言葉は、私たちにも日常にある幸せに気づかせてくれる。こんなふうにハッとさせられる“ちはる語録”は他にもたくさん。

「今回も、ちはるの独特のセリフは健在です。『わたしのことを愛さないと決めて生まれてくる男はいない』『生まれただけで貢献だらけさ』。彼女のこういうセリフは描いていてもスカッとします。自己肯定感という言葉がありますが、ちはるは無意識にそれが高い(笑)。『やりたいことってあんの?』と聞かれたときも、彼女は『なにかはある』と即答。それがなにかはわからないけれど『絶対なにかはある 人ってそういうもんでしょ』と飄々としています。この気負いのなさこそが、悩み多き弟には心地いいんだと思うんです」

読み手の自己肯定感も上げてくれそうな今回の『僕の姉ちゃん』。シリーズ通してのもう一つの魅力は、ちはるの恋愛エピソード。大いなる妄想と豊富な経験(?)からくる面白トークは今作も健在だが、益田さんがピックアップしてくれたのはちょっと甘酸っぱいエピソード。

「恋のエピソードで特に好きなのは『スタバにて』です。ちはるがスタバで昔の恋を思い出すという漫画なのですが、『好きで好きで大好きで 会いたくて会いたくて 走りまわっていたあの恋も』色あせてしまったけれど、朝帰りにタクシーをつかまえるまで手をつないでいたシーンは忘れないでいる。恋のかけらって小さくても心の中でいつまでも発光しつづけている。そういうものだと思います」

人生のこと、仕事のこと、恋愛のこと…。今回もさまざまなテーマで笑いと気付きを与えてくれる『僕の姉ちゃん』。シリーズ通じてほとんどのエピソードが姉弟ふたり暮らしのリビングでの会話でなりたっているのも大きな特徴。多くの会話を描いてきた益田さん、ご自身も会話の中でなにかに気づいたり、確認したりすることはあるのだろうか?

「『僕の姉ちゃん』は姉と弟のテンポある会話劇ですが、作者のわたしは話し下手です。話している途中で“この話、あんまりおもしろくないかも…”と後悔が始まることはしょっちゅうで、基本、聞き役が多いです。そういうところではちはるとわたしは似ていないかもしれません。もちろん似た考え方もあります。弟に仕事の後輩の育て方について質問された時、育てるではなく『“一緒に働いてる人” それだけのことだわな』と答えています。わたしもうんと若い人たちと仕事をすることが増えましたが、年齢に関係なく一緒に働いている人という気持ちでいます」

毎回、単行本のための描き下ろし作品がある本シリーズ、今回、益田さんが単行本オリジナルで描いたテーマは…。

「描き下ろしでは姉と弟が『未来』について語っています。未来が見られるなら『10年後』と言う弟と、『100年後』と答える姉。わたしも100年後が見たいです。“それもうよくない?”と、今、この日常で感じていることがどれくらい改善されているのか、ちはると同じく確認したいです」

「もうよくない?」の対象はひとそれぞれではあるけれど、それらが改善されることで、もっと風通しのよい暮らしができるようになっているのかも? 未来の可能性を語るエピソードは、今作全体にただよう希望を象徴しているようにも思える。笑えて、共感して、ホッとして…。読んだあとにちょっと元気になれる『そう来る? 僕の姉ちゃん』。夏バテしがちな日々の読書タイムにぜひ。

「会話【1】」「会話【4】」。この間に【2】、【3】あり。日常で感じがちな会話のモヤりを4連発で活写。ちなみに順平のセリフは4編通じて「ある」のみ(笑)。

「スタバにて」より。ふとした瞬間に現れる美しい恋の記憶を描いた一編。「思い出しても懐かしくもないらしい」の一コマがちはるらしい(笑)。

益田ミリ『そう来る? 僕の姉ちゃん』 しっかり者の姉・ちはると、おっとり素直な弟・順平が繰り広げる会話漫画。恋に仕事に人生に、自分軸を持って語るちはるの言葉は痛快かつ共感度たっぷり。最新刊の今作は癒し度もアップ! 小社刊 1430円

ますだ・みり イラストレーター。著書に『スナック キズツキ』(小社刊)ほか多数。『ツユクサナツコの一生』(新潮社)で第28回手塚治虫文化賞短編賞受賞。

※『anan』2024年7月17日号より。写真・中島慶子

(by anan編集部)

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