人気クリエイターたちが集結! “ここではないどこかへ”を再解釈した「行方不明展」
ananweb / 2024年8月6日 21時0分
貼り紙や遺留品、都市伝説など行方不明にまつわる物品や情報を収集。それらを「身元不明」「所在不明」「出所不明」「真偽不明」に分類して展示し、「行方不明」の痕跡をたどる「行方不明展」。手がけるのは、近年、一大ムーブメントとなっている、フィクションを実際にあった出来事のように見せるモキュメンタリー作品で活躍する人気クリエイターたち。今回は、プロデュースを担当するホラー作家の梨さんと、テレビ東京プロデューサーの大森時生さん、そして、映像作品を制作した寺内康太郎監督の3人に、企画の起こりから実現までの過程や、作り手としての面白さなどを直撃しました!
「行方不明展」
写真右から、梨さん、大森時生さん、寺内康太郎監督
梨:始まりは、昨年、私が実施した、会場に大量の怪文書を貼った、考察型展覧会の世界観を引き継いだ企画をやろう、というところからでした。
大森:その怪文書展に行った時に、美術館のように鑑賞しながら徐々に不気味さに呑まれていく雰囲気は、映像や文章とも違う面白さがあるなと思ったんです。だから、今回お誘いいただいて嬉しかったです。
梨:大森さんや、一緒にプロデュースをしている「株式会社闇」の方と案を出すうち、「行方不明展」というネーミングはどうかという話になり、その言葉からインスピレーションを受けて作りあげていきました。
寺内:僕は大森さんから依頼を受けて、展示で使う映像を作ったのですが、最初は行方不明について大真面目に考えるのかな? と思っていたんです。すると、梨さんが初めて会う時に、分厚い資料を用意してくださっていて。
梨:パワポで作ったような90枚分のプレゼン資料でしたね(笑)。
寺内:それを見て、一つの発明に近いといいますか、こういうふうにフィクションとして「行方不明」というものを形作るのは、すごく面白そうだと思いました。
梨:寺内さんや大森さんのようにホラーの才能が豊かなみなさんに作っていただくので、世界観の運用として狭すぎることをしたらダメだという思いがありまして。その点、「行方不明」という言葉であれば、いろいろな概念を包括できるだろうとも思ったんです。たとえば、「リモコンが行方不明」って言いますよね。「なくなる」ではなく「行方不明になる」と言うことで奥行きみたいなものが生まれるし、図らずもそうなったことに対する気持ちみたいなものも反映されている。また、Xで「行方不明 なりたい」で検索すると、つぶやきが数百も出てくるんですけど。シリアスなものもありますが、異世界転生のような、“ここではないどこかに行きたい”“社会的に持っているいろいろな文脈から解き放たれたい”という願望もあるだろうなと。「失踪」や「喪失」とは違う、あくまでも「行方が不明になる」という言葉じゃないといけないものがあるんです。
大森:2020年代のSFとか、いろいろな文脈においてもキーワードになっていることの多い“ここではないどこかへ”ということを再解釈した展示だということは、全員に共通できている点なのかな、とは思いますね。
――普段、文章やテレビ、映像などで作品を発表することが多い3人。箱の中に展示をすることには、面白さや新たな発見もあったという。
寺内:僕が制作したのは、“行方不明になりたい人”の世界観を展示する空間に置く映像で。映像を作る時は基本的に、フリやオチをちゃんと用意するのですが、今回の展覧会ではそうした前後の文脈が空間の中にあるので、よりソリッドな表現を追求できました。いつもとはまた違う楽しみがありましたね。
大森:自分の見たいものだけを好きなだけ見られることや、それが見る側に一任されているというのは展覧会ならでは。そこでの鑑賞はそこでしか味わえない、とても面白い体験になると思います。
梨:お笑いライブやお化け屋敷じゃないですが、作品はもちろん、同じ空間内にいる人の存在や反応を見るなど、文脈の共有ができるところも展覧会の面白さだと思います。ちなみに、僕が難所に感じたのは、展示の説明やバックストーリーなどの解説文です。観客全員に、ある程度、同じ文脈を共有させないといけないのですが、長すぎると読むのに時間がかかるし、人だかりができるとストレスになってしまうので。展覧会は、「続きは明日にしよう」ということができないですしね。
寺内:僕は楽しいことばかりでしたけど、あえて言うなら、映像に出てもらう演者の方に何の映像かを説明することが大変でした。与えられたセクションだけを担当しているので、展覧会の全体像や、どういう形で映像が使われるかが見えにくかったので。でも、だからこそ面白いし、演者のみなさんも楽しんでいましたね。
梨:大森さんも少し言っていましたけど、展覧会には、自分のペースで好きな作品を見られる、漫画や本のページをめくる感覚に近い、良い意味でのフリースタイルさがあると思いますし、それは、今後もっと拡張できる部分だとも考えています。
右・梨さん なし ホラー作家。代表作に『かわいそ笑』(イースト・プレス)、『6』(玄光社)、『自由慄』(太田出版)。新刊『お前の死因にとびきりの恐怖を』(イースト・プレス)が8/7に発売。
中・大森時生さん おおもり・ときお テレビ東京プロデューサー。『このテープもってないですか?』『SIX HACK』『祓除』『TXQ FICTION イシナガキクエを探しています』など話題作を担当。
左・寺内康太郎さん てらうち・こうたろう 映像監督、脚本家。YouTubeチャンネル・フェイクドキュメンタリー「Q」などを手がける。著書『フェイクドキュメンタリーQ』(双葉社)が発売中。
制作チームには、ホラー映画で知られる近藤亮太監督やアートディレクターの大島依提亜さんも参加。
「行方不明展」 人、場所、モノ、記憶など、さまざまな「行方不明」を掘り下げる展覧会。※この展示はフィクションであり、行方不明者を捜索する必要はありません。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。東京都中央区日本橋室町1‐5‐3 三越前福島ビル1F 開催中~9月1日(日)11時~20時(最終入場は閉館30分前) 会期中無休 2200円 観覧の所要時間は約90分。チケットなど詳細はHPで。
※『anan』2024年8月7日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) インタビュー、文・重信 綾
(by anan編集部)
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