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気鋭の映画監督・山中瑶子「多様な人が監督をできたらいいですよね」

ananweb / 2024年8月2日 20時0分

気鋭の映画監督・山中瑶子「多様な人が監督をできたらいいですよね」

デビュー作がいきなり海外で高い評価を受け、気鋭の映画監督として注目を集める山中瑶子さん。王道ではない多様な生き方を肯定し、国境や世代を飛び越えた活躍を続ける彼女の考える、“ボーダレス”とは。

対外的な自分と本心の矛盾を描きたかった。

惰性で仕事をこなし、将来の夢もない。恋愛はするけれど、真剣に相手に向き合うわけでもない。漂うように日々をやりすごす21歳のカナ。山中瑶子監督は、映画『ナミビアの砂漠』で現代の日本を気だるく生きる女性の心のもがきを描いた。

「対外的にはこう振る舞わなきゃいけないとわかっている自分と、抱えている本当の気持ちが違うことは、きっと誰にでもありますよね。この作品ではその矛盾を扱いたかったんです。いわゆる王道のわかりやすい主人公キャラだけでなく、映画においては世の中には様々な人がいることを可視化することも大事だと思っていて。もし“こんなふうに思ってはいけないんだ”と、自分を縛っている人がいるなら、この作品を観て安心してくれたら嬉しいです」

山中監督は母親が中国出身のミックスルーツ。そしてカナも日中のミックス。その設定は脚本執筆の終盤で足したそう。

「よく耳にする“日本人として”の中に自分が含まれている気がしなくて、日本に根づいている感覚がないまま育ってきたんです。そういったミックスルーツの所在のなさと、カナがどこか遠いところに思いを馳せる無責任な曖昧さが、ナミビアの砂漠のイメージに合うと思いました。カナの設定はいろんな点と点が繋がった結果です」

このインタビューに際して、脚本のインスピレーションになった作品を持参してくれた。

「河合(優実)さんに魅力があるのは、これまでの出演作を観れば誰の目にも明らかじゃないですか。なので、せっかくなら見たことのない河合さんが見たくて、カナをすごいイヤな人にしたかったんです(笑)。でも、そんなカナを好きになってもらいたいと思って思い出したのが『パリ13区』です。主人公の女の子が台湾系フランス人で、彼女の持っている推進力と鮮やかさが、まさにカナに欲しかったイメージでした。『ナミビアの砂漠』の関係性のベースにあるのは『ママと娼婦』です。主人公の男が身勝手で、女性とのコミュニケーションも自分を満たすためという、本当にどうしようもない奴で(笑)。でも人間として本質的で、私は好きなんですよね。この映画の男1女2の関係性を逆にして『ナミビアの砂漠』では女1男2にしました」

脚本は、現場で本番直前に足したり変更することもあるそう。

「用意したものに合わせてもらうよりも、その日に生まれたムードや偶然を取り込んでいきたいんです。“今、撮れるものを撮る”という強いポリシーを持っているわけではまったくないんですが、私が一人で脚本を書いている時以上に、現場ではみんなの集中力が高まっていて、作品の世界にグッと入っているので、そこで感じたことが一番“本当”に近いのではないかという期待を込めて、その日の気分を選択しています。映画は、そういうことがどうしても映ると思っているので」

性差、ジェネレーション…。山中監督とボーダー。

1997年生まれの山中監督には、“若手”や“女性”という説明がつきがち。ジェンダーやジェネレーションというボーダーについての想いとは。

「子どもの頃は男の子みたいな格好をしてたけど、“女の子らしく”とか周りに言われたことがなくて、自分が女性であることを意識することがあまりなかったんですよね。でも今になって“女性監督”と言われるのは、それまで日本映画界にいなさすぎたってことの裏返しですよね。いない状態を野放しにしてきた上の世代への恨みはだいぶあります(笑)。でも、“若手女性監督”にしか撮れないものは確かにあると思います。王道の映画が取りこぼしてしまうことが多分にあると思いますし、“若手女性監督”も含めて、多様な人が監督をできたらいいですよね。そうすることで視点が増えて、いろんな映画が作られたほうが豊かですから」

では、国内/国外というボーダーはどうだろう。本作がカンヌ国際映画祭監督週間に出品されるなど、山中監督作は海外で上映される機会が少なくない。

「高校生の頃、近年の日本映画を観てはどうしてこんなにもドメスティックなんだろうと思っていました。私は外国の映画に影響を受けて映画を志しましたし、そういう意味では、海外はかなり意識しています。視野を広く持っていたい。日本固有なもので、世界から見たらスタンダードではないことってありますよね。『ナミビアの砂漠』だとカナが勤めている脱毛サロンとか。あれ、ちょっと異様じゃないですか? 日本の人には説明しなくてもそう伝わるけど、日本の外からはどう見えるのかわからない。そうしたことを、自覚的に物語に取り入れるようにしています。国を超えてわかることもあるし、独特すぎてわからないこともある。そうした価値観の相違に対して自覚的に、日本の人だけが観て面白いということにとどまらない映画を作っていきたいです」

『ナミビアの砂漠』を作る過程では、ある“ボーダー”を突破できたと振り返る。

「昔はあまり人のことを信用していなくて、自分で全部決めたかったんです。ウェス・アンダーソン作品とか、すべてにおいて監督の意思が反映されているように見えて、それが映画なんだと思い込んでいました。でも、私ひとりのアイデアだけでは幅広い人に届けられないと気づいて、今回はアイデアでも、思ったことは何でも言ってほしいと、初めてキャストやスタッフにもお願いしたんです。そうしたら現場の風通しがすごくよくなって、楽しく作れたんですよね。独善的な考えを取り払えたことは、私にとっても映画にとってもすごくよかったです」



『ナミビアの砂漠』(2024年)

夢も趣味もなく、毎日をただ生きるだけの21歳のカナ(河合優実)にとって恋愛も暇つぶし。甲斐甲斐しく世話を焼くホンダ(寛一郎)と同棲中に、自信家のクリエイターのハヤシ(金子大地)と関係を持つ。ホンダと別れ、ハヤシと暮らし始めると、やるせない想いが心の澱(おり)となっていく。9月6日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

やまなか・ようこ 1997年生まれ、長野県出身。初監督作品『あみこ』が、若手監督の登竜門・PFFアワード2017で観客賞を受賞する。監督したテレビドラマに『おやすみ、また向こう岸で』『今夜すきやきだよ』がある。

※『anan』2024年8月7日号より。写真・上澤友香 取材、文・小泉咲子

(by anan編集部)

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