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『けいおん!』手掛けたアニメ監督・山田尚子、最新作『きみの色』は“俺の考えた最強の歌ものバンド”

ananweb / 2024年8月31日 20時30分

『けいおん!』手掛けたアニメ監督・山田尚子、最新作『きみの色』は“俺の考えた最強の歌ものバンド”

TVアニメ『けいおん!』や、『映画 聲の形』など、ジャンルを問わず、キャラクターの細やかな身ぶり手ぶりや表情、軽妙なセリフの掛け合いなどを活かし、人間の機微を描いてきたアニメ監督の山田尚子さん。最新作『きみの色』は、山田監督の特性がもっとも際立つ、瑞々しい青春×バンドもの。



――バンド活動をはじめる3人の高校生を描いた『きみの色』は、そのタイトルにあるように「色」に着目されていますね。



山田尚子さん(以下、山田):アニメーションという映像は、様々な要素を使って表現ができます。たとえば、時間や音、そして色もそうです。今回はその色をテーマにして、キャラクターたちに起こる無意識の変化にも焦点を当てていければと思いました。



――色を活かす手段として、人の「色」が見えるトツ子を主人公としています。こうした表現はどのように決められたのでしょうか?



山田:映画1本の分量として、色が効果的に、気持ちよく受け取ってもらえるように考えた結果ですね。ただ、トツ子の世界に寄りすぎてすべてを色に置き換えてしまうと、私たちが見ている景色から遠いものになってしまいます。そこは表現としてのグラデーション、バランスを意識しました。



――トツ子が暮らすのは、全寮制のミッション系女学校です。こうした舞台を選んだ理由は?



山田:新垣結衣さん演じるシスターの日吉子(ひよこ)をはじめ、信じる心を持つ人の感情に注目したかったのがひとつです。もうひとつは、日本のミッションスクールに通う方々のうち、実際に信者である生徒は10%もいないというデータがあって。



――比率としてはかなり少ないんですね。



山田:そうですね。今回いろいろなミッションスクールで取材をさせてもらって知ったことでした。信仰がある人とそうでない人が同じ場でお互いを尊重しながら共存しているのがとても良いな、と。様々な考えを持つ人たちが一緒に生活していて、それでも世界が成り立っている感覚を、物語や、キャラクターの心の動きに代入できればと思いました。



――たとえば、クリスマスを祝って、初詣に行く日本的な感覚。



山田:そういう混ざり合ったものを受け入れることができる良さ、魅力を作品の中で表現できればと。



――物語としては、現状や将来に不安を抱えるトツ子、きみ、ルイという3人が出会い、バンドを組む内容です。ルイは学外の人間ですし、個性もバラバラですね。



山田:元々バンドを結成する3人のイメージとして、性別ではなく、芯の部分で繋がることのできる温度感を求めていました。そのひとりのルイ君がたまたま男の子だったという流れです。



――3人組という編成には意味があるのでしょうか。



山田:私は作品の中で常に揺れ動く人と人との関係性を描きたいと思っているのですが、2人ではなく、3人だと無限の可能性が生まれるように感じます。感情や行動も組み合わせ次第で変わってきます。さらに人数が増えれば、それぞれが輪になるイメージも想像できますが、3という数字への緊張感はずっとありましたね。三角形は美しくはあるけれど、難しいです。



――青春とバンド、というのは山田監督の真骨頂ですが、今回は特に、音楽面で山田監督の好みが強く出ている印象がありました。



山田:そうですね。今回は、アニメ映画の中で最高にかっこいいと思える音楽を目指しました。主人公のバンドは、“俺の考えた最強の歌ものバンド”です(笑)。



――なるほど(笑)。一曲、トツ子ときみがある一歩を踏み出すシーンで、’90年代を代表するダンス・ミュージックが流れます。この楽曲はイギリスの無軌道な若者たちを描いた映画にも使われていて、オマージュ的に流れますね。



山田:フフフフ。そうなんです。あそこのシーンは、トツ子ときみにとっては最高に悪いことをしているシーンなので。別にすごい罪を犯しているわけではないけれど、精神性としては、おっしゃられた映画のシーンと重ね合わせているものがあります。



――珍しい点としては、メンバーのルイがテルミンを使っていることです。



山田:テルミンという電子楽器には元々、すごく興味がありました。演奏するときの手の動きも複雑で、アニメとの親和性も高い。メロディをきちんと奏でるものとしてテルミンを使って、なおかつバンドの中で描いてみたいというのが最初の動機でした。



――参考にされた演奏者はいらっしゃるのでしょうか?



山田:フランスのテルミン奏者であるグレゴワール・ブランさんの演奏動画が本当に素晴らしくて。テルミンは両手の位置で電波を制御してピッチ(音程)と音量を決めるので、コントロールがすごく難しい楽器です。ですが、彼はまるで音が見えているかのように正確な音程で演奏されているんです。音色もチェロのようであり、女性の歌声のようであり…。今回のルイ君の演奏も実際にグレゴワールさんが弾いてくださったことで、よりテルミンの魅力を描くことができました。



――3人がバンドで演奏するシーンもしっかりと描かれます。



山田:(演奏シーンや観客に対して)演出で何もしない、ということをあえてしました。彼女たちのライブを観た観客たちが自然と盛り上がっていく姿を記録することで、じっくりと熱が高まる様子を描きました。



――トツ子たちと同年代の、悩んでいる方々へ向けられている作品なのかなと思いました。



山田:若い人たちにも、過去に「若者」だった人たちにも観てほしいです。バンドという共同体で象徴的に描いていますが、続ける・続けないの選択がある時期のなか、選んだ道から希望や可能性が見えるようなものを最後まで目指しました。

『きみの色』は8 月30 日から全国ロードショー。音楽は『映画 聲の形』や『リズと青い鳥』でもタッグを組んだ牛尾憲輔で、そのフレーズが耳に残る劇中歌「水金地火木土天アーメン」の制作も担当。ちなみにこのフレーズは山田監督考案で、企画書にもコンセプトを示す言葉として掲載されていたとか。主題歌はMr.Children「in the pocket」。

やまだ・なおこ 2009年にTVアニメ『けいおん!』で監督デビュー。『たまこまーけっと』や『映画 聲の形』『リズと青い鳥』などを監督した後、フリーランスとなる。’22年、サイエンスSARUが制作したTVアニメ『平家物語』を手がけた。同じくサイエンスSARUとタッグを組んだ劇場アニメ『きみの色』で監督を務める。

※『anan』2024年9月4日号より。写真・内山めぐみ インタビュー、文・森 樹

(by anan編集部)

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